表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/534

ケーニヒグレーツの戦い/墺第1軍団の壊滅

 ローレンツヴァイク旅団を救うため、クルムへ急行したラミンク将軍の前に立ち塞がったのは、普第1軍団の第1師団前衛、猟兵第1大隊と第1旅団という「1」尽くしの部隊でした。急行軍で駆けつけたとは言え「トラテナウ」の屈辱を晴らすべく燃える新たな敵は、ラミンク将軍が直卒した二個大隊の兵力では歯が立ちませんでした。

 焦る軍団長の目前で、ローレンツヴァイク旅団は援軍もなく孤立し、急速に集まって来る普軍を迎えたのです。前衛に続きようやく本隊が姿を現した普第1師団は部落の北から、部落から追い出され師団長を砲兵に殺された近1師パーペ旅団は東から、それぞれ猛攻を開始しました。

 この強力な敵の攻撃で、哀れなローレンツヴァイク旅団は僅か十数分間クルムを保持しただけで再び部落から押し出され、負傷兵や逃げ遅れた兵士はたちまち普軍の捕虜となるのでした。


 この敵から巧く逃れた兵士たちも過酷な運命にありました。

 クルムの南、ロズベリックにはネデリストから普第11師団の第22旅団が迫っており、その砲兵部隊は、つい先ほどまで墺軍砲兵がいたクルム南方の高地から南へ逃走を図る墺軍兵士を俯瞰し砲撃を繰り返したのです。この11師団の砲兵ばかりでなく、近衛砲兵や第1軍団砲兵、そしてホラ森の前まで前進して来た第4や第6師団砲兵まで、普軍の砲兵は今までの鬱憤を晴らすかのように砲撃を繰り返しました。退却する墺軍はこの砲撃により多数の落伍者を出すことになってしまいます。

 最早見る影もないローゼンツヴァイク旅団は、シュウェティとウェセスタルの高地に踏ん張る第6軍団砲兵部隊の援護射撃を頼みに、南へと退却して行くのでした。


 しかし、熱血漢のラミンク将軍もこれで諦めた訳ではありません。残った三個旅団を使い、今一度クルムを目指し、突撃を敢行しようとしました。将軍は馬を駆って麾下の旅団を叱咤激励し、今一度激しい砲火の中へ部下を向かわせるのでした。

 しかし、その先陣に立ったヨハン・ヨナック・エルダー・フォン・フライエンワルド大佐率いる旅団は、クルムの南で猛烈な十字砲火を受けてしまい、動きを封じられてしまいます。しかもこの時、最後までランゲンホーフとホリク=ケーニヒグレーツ街道の間で頑張っていた、第10軍団後衛と第3軍団の敗残兵、そして最後まで撤退を援護した軍予備砲兵が潰走して来たのです。烏合の衆と化したこれらの兵士はヨナック旅団の行軍列になだれ込み、旅団の歩兵は前進しようにも味方の兵士を押し分けて進まざるを得ない状況に陥りました。

 恐怖に顔面蒼白となり、秩序を乱して分別を失った兵士たちの「津波」に飲み込まれたヨナック旅団も四分五裂の状態となってしまい、間もなく潰走を始めてしまいます。

 この押し寄せる味方の大群を見たヘルトウィック旅団も際どいところで後退し、ラミンク将軍は最後までロズベリックで踏ん張るワルドステッテン旅団に対し、手遅れになる前にウェセスタルへ退却するよう命じるしかありません。ロズベリックで激闘の末に力を使い果たしたワルドステッテン旅団は、迫る敵に捕まらぬよう走りながらの後退を行いますが、激しい疲労で走ることすらままならない兵士が続出、ウェセスタルで集合した時には旅団兵士の数は信じられないほど少なくなっていました。


 ラミンクの敵はクルムに集合しつつある近衛軍団や第1軍団の兵士ばかりではありませんでした。ネデリストから普11師団が迫っていたのです。

 午後4時少し前にロヘニックで戦っていた普12師団がエルベ川に架かる橋を占領し、東南方面からの脅威を取り除くと、第11師団は後方に憂いを残さず進撃を続けることが出来るようになりました。既に3時を回る頃、ツァストロウ師団長は北側右翼にホフマン少将の第22旅団、南側左翼にハンネンフェルト少将の第21旅団を配し、それぞれロズベリック、シュウェティを目標に急進しています。これにより、第6軍団の砲兵は危機に陥り、高地から降りた砲兵は一部がシュウェティへ逃れ、その多くはケーニヒグレーツ目指して街道を退却して行きました。


 この東からの脅威が本格化したのを見たラミンク将軍も遂に諦めます。残余の兵を率いてロズベリックを引き上げ、シュウェティへと逃れたのでした。


 この時、ラミンク将軍が距離的に近いウェセスタル(ロズベリックの南東800メートル)ではなくシュウェティ(同じく東南東2キロ)を目指して後退したのには訳がありました。第6軍団と入れ替わりに南西側から最後に残った墺軍軍団がやって来ていたのです。ラミンクはそれを知ったからこそ、第3と第10軍団に彼らが邪魔されたように、その進撃路に乱入しないためわざわざ遠い部落まで、街道を避け田園を突っ切って退却したのでした。


 墺第1軍団長、レオポルト・グラーフ・ゴンドルクール中将は第6軍団がベネデック元帥の命令でクルムに向かうと、間もなく自分たちの番がやって来ると考え、直ちに東方への進撃準備に入りました。

 この攻撃には、同時刻(午後3時40分過ぎ)、西のプロブレスからボル森で戦うピレー旅団を除く4個旅団が参加しました。しかし、部隊数は多くともこの軍団はギッチンで大敗し、その後の後退で消耗し、その傷が癒えぬままこの戦いに突入していました。それでも第1軍団は今一度勇気を奮い立たせ強力な敵へと戦いを挑むのです。

挿絵(By みてみん)

ゴンドルクール

 ゴンドルクール将軍はポシャッハー旅団をロズベリックに向かわせ、その後方左翼をヨセフ・リンゲルスハイム少将の旅団、更にその後ろにヴィクトール・グラーフ・アルト=ライニンゲン=ヴェスターブルク少将の旅団が付き、この二個旅団はクルムを目指します。残ったヴィンセンツ・フォン・アベル大佐の旅団は出発直前にやって来たベネデックにより進撃を差し止められ、軍団付属の驃騎兵連隊と共に予備として後方に待機しました。

 この攻撃には戦意の衰えない第6軍団の猟兵第17大隊や第10軍団のクネーベル旅団も自然に加わり、ロズベリックは最初の一撃で再び墺軍の手に入ります。

 先行する猟兵たちは砲火を浴びながらもクルム南方の高地に達し、一時この地を占領します。

 しかし、今回も墺軍の攻勢は止められる運命にありました。クルムに向かったリンゲルスハイム旅団はクルムに近付くにつれて増して行く砲火に悩まされ、その勢いは次第に萎んで行きます。

 クルム近郊に迫った普第1軍団の砲兵隊は、クルムの南東側に急遽砲列を敷いて向かって来る墺軍に対し砲撃を繰り返しました。また、第1軍団や近衛第2師団の兵士たちは戦場へ到着順に行軍からそのまま戦闘へと移行して、クルム部落は黒(近衛兵)とプルシアンブルー(一般歩兵)の制服が仲良く並び、見る見る内に普軍兵士で溢れ返らんばかりとなりました。


 この状況でもリンゲルスハイム旅団がクルム部落の直前までたどり着いたのはさすがでした。彼らはギッチン戦で敵の第3師団をくい止めた闘志を忘れてはいなかったのです。これを見たゴンドルクール軍団長は続くライニンゲン旅団の砲兵に命じて援護射撃を開始させ、その旅団主力に対しリンゲルスハイム旅団と並びクルムへ突撃するよう命じました。

 ライニンゲン旅団は街道を挟んだランゲンホーフ側からクルムへと突撃します。しかし、街道の北やリパ、クルムには既に厚い敵兵の「壁」が出来ていて、その銃砲火は正しく雨霰と墺軍兵士に降り注いだのでした。その銃火に怯んだところへ普軍の騎兵がタイミングよく突撃し、ライニンゲンと第10軍団から「自主参加」していたクネーベルの両旅団は方陣を取ってこれに耐えますが突撃は止められてしまったのです。

挿絵(By みてみん)

クネーベル

 既にランゲンホーフには第10軍団の砲撃で足留めされていた普第3師団と第5師団がなだれ込んでおり、クルムやリパにも第4、第6、第7、第8の各師団兵士が駆けつけていました。また、この午後4時前には第11師団がロズベリック東方の高地に達し、ポシャッハー旅団後衛と戦い始め、墺軍は三方から次第に押されて集団となり、外れることのない格好の目標となってロズベリック=クルム間で砲兵や銃兵の集中砲火を浴びることとなってしまったのでした。


 文字通りの「衆寡敵せず」。墺第1軍団は分単位で部隊が崩壊して行き、銃砲火に耐えられなくなったライニンゲンとクネーベル旅団が潰走すると、ポシャッハー旅団がこれに続き、独り奮戦していたリンゲルスハイム旅団も踵を返すしかありませんでした。


 潰走するポシャッハー旅団には既に指揮官の姿がありませんでした。フェルディナント・ポシャッハー・フォン・ポシャッハ少将は旅団がロズベリックに至る直前、敵との激しい銃撃戦の最中行方が分からなくなっていました。将軍は戦いが止んだ後で見るも無惨な遺体となって発見されます。ポシャッハー旅団長もまたこの戦いで戦死した多くの士官に名を連ねてしまったのです。

挿絵(By みてみん)

ポシャッハ

 第1軍団が退却した後には打ち捨てられた大砲や瀕死の馬や転倒した荷車などが山となっていました。

 彼らが第6軍団敗退を見て攻撃を開始してから、ばらばらになってウェセスタルやロスニックにたどり着くまでの僅か三十分間。攻撃前には2万の戦闘員を数えた軍団は、上は少将を筆頭に279人の士官と、およそ一万人の兵員を戦死または捕虜として失うという恐ろしい結果となったのです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ