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ケーニヒグレーツの戦い/東部戦域・ホレノヴェス陥落

 普第6軍団はルイ・ヴィルヘルム・フランツ・フォン・ムーティウス大将の下、第11、第12の二個師団で形成されていました。


 この軍団は普国皇太子指揮の第二軍にあって、これまで唯一敵とまともな交戦のなかった軍団で、シュタインメッツ大将指揮の普第5軍団の激戦地、ナーホト(ヴィソコフ高地)、スカリッツを経てケーニヒスホーフの南側、エルベ川が南北に流れる部分の東岸、グラドリッツ(ホウストニーコヴォ・フラディシュチェ)の地で第5軍団と並んで待機を続けていました。

 唯一、第11師団の半分を構成する第22旅団(ホフマン少将指揮)が6月末までシュタインメッツ軍団に出向していましたが、これも予備の扱いだったため敗残兵狩り以外、友軍の激戦を後方から眺めていることに終始していたのでした。

 

 行軍の疲れをエルベの畔で癒した彼らは、満を持してケーニヒグレーツの戦いに参戦します。

 前日の宵の口に発せられた最初の命令により、翌日(3日)は要衝ヨセフシュタット要塞付近の偵察を命じられていた第6軍団は、第12師団を先頭に第11師団がやや遅れる形で行軍しようと早朝の出発に備えていたところ、午前5時過ぎに「クルム高地へ急行し墺軍と戦え」という第二軍の命令が届くと大急ぎで計画を変更しグラドリッツから出立します。

 このうち第11師団は、スタインドルフ(スタノヴィツェ)とシュルツ(ストロフ)付近でエルベを渡河すると順調にヴェルショー(ヴェリホヴキ)へと到着しました。ここでいよいよクルム高地より激しい砲撃音が聞こえるようになると、師団長のツァストロウ中将は独断で進路を砲撃音のする北西に変更し、師団をフスチラン(フスティージャニ)からラシク(ラチツェ・ナト・トロティノウ)へ進めます。行軍はここでも順調で、第二軍としては最初にトロチカ川(クルム高地の東端を流れるエルベ支流)を渡り11時にラシクの北高地に取り付きました。

 普第11師団の砲兵隊は、驃騎兵連隊に援護されながら師団の後方を進軍していましたが、ここにも普第7師団フランセキー師団長から矢継ぎ早に連絡が届いており、砲兵の援護射撃を重ねて要請して来ました。ツァストロウ将軍はこれを受けて砲兵隊をラシク北高地に展開させ、北に見えるホレノヴェス付近に陣を敷いた墺軍砲兵に対し11時30分、砲撃を開始しました。


 一方、普第6軍団のもう一つの師団、第12師団は、ムーティウス軍団長の「軍団の左翼(南側)を警戒・援護せよ」との命令でエルベ川を左に見ながら第11師団の左翼後方を進みますが、ロズノー(ロジュノフ)高地に到着すると後方より伝令が届き、「第12師団は常に敵の情勢に注目し、師団左翼は第11師団との連絡を絶やさずに進め。第11師団は敵の砲声を追って進んでいる」とのムーティウスの命令を伝えます。

 第12師団長プロジンスキー中将は南側の警戒として一個歩兵大隊と驃騎兵一個中隊をヨセフシュタット要塞の監視に置き、部隊を砲声の轟くクルム高地へと向け、11時過ぎ、ラシクの北、第11師団後方の位置に到着し、砲兵は大急ぎで砲列を整えると11師団に倣って北方へ砲撃を開始しました。


 さてここで、この時に至るまでの墺北軍本営の行動を振り返ってみます。


 墺軍総司令官のベネデック元帥は新旧参謀長を引き連れ、9時前にクルムへ進出しここを前進司令部とすると、墺第4軍と第2軍が命令通りの布陣とはほど遠い北寄りに進んでいて、既に普第7師団と戦闘状態にあることを知りました。

 ベネデックは、これはまずい、と考えましたが、先ずは新参謀長バウムガルテン少将と協議、10時頃になってようやく第4軍団に対し、事前命令通りネデリスト=クルム間に陣を敷くよう改めて命令を出しました。

 ところがこの時間には既にシュウィープ森の戦いが始まっており、また第4軍団長だったフエスティス将軍は負傷により後送、モリナリー将軍が指揮を代わって必死に部隊を再編成している最中でした。

 既に敵と総力戦に入っている部隊を撤退させ、再度布陣し直すことなど不可能です。しかも戦いはベネデックが手をこまねいている間にどんどん不利となり、第2軍団までシュウィープの森に突入する事態に発展、激戦によって11時過ぎには各部隊の損害と疲弊は酷く、意地になったモリナリー将軍により第4軍団の後退も東方への再配置ではなく、再度の北上に備える有様でした。


 本営のバウムガルテン参謀長はこれを見て、第2、第4軍団の東方配置を放棄、予備である墺第6軍団の投入をベネデックに進言します。

 ベネデックも仕方なし、とこれを許可し、バウムガルテン参謀長は直ちにクルム南方で待機する第6軍団へ伝令を走らせました。

 墺第6軍団長ラミンク将軍はバウムガルテン将軍からの「第6軍団は、第2、第4軍団の後方より東へ進出、クルム=ネデリスト間に布陣し東側の敵を警戒せよ」との命令を受領すると、直ちに部隊の移動準備に入りました。


 ところがここで信じられないことが起きます。


 ラミンク将軍が軍団の移動を命令した直後、再び伝令がやって来て「前の命令はこれを取り消し、第6軍団はこの地に留まるべし」との命令を伝えたのです。

 これはバウムガルテン参謀長の関知しないところから発せられた命令で、出所がはっきりしないものでしたが、はっきりとベネデックの名によって発せられており、ラミンク将軍はあわてて軍団の出立を取り消したのでした。

 

 この信じられない「謎の」命令により、東部戦域の運命は定まったと言ってもよいでしょう。

 

 11時30分にはヨセフシュタット要塞から次のような電報が本営に到着します。


「敵の第5軍団、グラドリッツより進撃しサルナイ(ジレチュ)を通過、貴軍(墺北軍)の右側(東側)へ出ようとしている。大規模な敵歩兵の縦隊が要塞の付近を通過するのが見える。味方の斥候はこれによって後退させられたが、要塞に近付く敵は要塞砲により撃退した」


 あのナーホト、スカリッツで煮え湯を飲まされたシュタインメッツの第5軍団がやって来る!焦るベネデックは再度強く第2、第4軍団に対し東方へ展開せよと命じました。

 この命令を第4軍団は昼少し前に、第2軍団は正午に受領しています。

 この期に及んでも第4軍団長代理のモリナリー将軍は普第7師団の撃滅が優先すると固く信じ、本営に乗り込んで激しい勢いで意見具申をしました。

 しかし、ベネデックはそれを一蹴し、必ず軍団をクルム=ネデリストのラインへ布陣させろ、と強く命じたのです。


 モリナリー将軍が肩を落として軍団本営に帰った頃、第2軍団ではツーン将軍が部隊の再配置に向けて大わらわでした。

 12時15分、まずはサフラン旅団が退却行軍を開始します。ツーン軍団長は予備として最右翼に置いていたトーム旅団と、後方センドラシック付近に置いて来たヘンリケッツ旅団とで軍団残りの旅団の退却を援護させるつもりでした。

 しかし、時既に遅く、この二つの旅団には大きな危機が迫っていたのです。


 11時過ぎから正午にかけて、普近衛第1師団の先鋒に付いていた砲兵と第11、第12師団の先鋒にいた砲兵は競うようにして砲列を敷き、北の敵に対して砲撃を開始しました。

 これに対抗したのは墺第2軍団の砲兵たちで、それまでは北の敵、普第7師団に対し的確な砲撃を繰り返していたところ、側面から捕捉・砲撃され、最初は浮き足だったもののすぐに立ち直り、新たな砲撃戦が始まりました。これはほぼ互角の戦力(最初は普墺共に24門)だったために非常に激しいものとなりました。

 しかし、正午を過ぎた辺りで普軍には近衛第1師団の遅れていた砲兵たちと、あの近衛第2師団が遅延する原因となった近衛軍団直轄砲兵がホレノヴェスを目前に望むウルショウニック(ヴルホヴニツェ)の高地に到着し、先の砲兵と併せ90門に達した砲列はホレノヴェス周辺に対し猛烈な砲撃を繰り返したのでした。


 砲兵に負けじと歩兵、騎兵たちもがんばります。

 近1師(普近衛第1師団。以下こう記します)のアルヴェンスレーベン将軍率いる先鋒支隊は11時頃、ウルショウニックとゼルコウィック(ジェルコヴィツェ)を占領すると、歩兵三個中隊と猟兵大隊から一個中隊を先行させ、第7師団を助けるためベナテックの部落に突入させました。

 また、別の歩兵大隊と猟兵中隊はホレノヴェス攻撃の第一陣として先行し、進撃を開始しました。


 この正午過ぎ、近衛重騎兵旅団のアルブレヒト親王に命令が下ります。「旅団は軍団の先頭に進出し敵を攻撃せよ」というものでした。


 この戦争ではスカリッツやシュヴェインシェーデルにおいて、第5軍団への「助っ人」として戦場に臨んでいたものの、遂に戦うチャンスがなかったエリート中のエリートたち。彼らは近1師の後方を進んでいましたが、この命令に喜び勇んで近衛歩兵の長い行軍列の脇を駆け抜け、近1師の先鋒へと急ぎます。

 この時、第7師団の攻撃を援護していたビスマルク少将の騎兵旅団も近1師の右翼に加わり、騎兵の集団は歩兵から応援の歓声を浴びながらその先頭に付くと、ただちにホレノヴェスに対する突撃を開始しました(午後1時)。

 ホレノヴェスを守っていたのは千名程度の墺兵でしたがこれをよく防ぎ、騎兵が街へ突入するのを幾度も退けますが、ここに例の先行していた普軍の歩兵大隊と猟兵中隊が駆けつけ攻撃を開始するに及び、遂に退却して行きました。


 普軍は街を過ぎ、敵砲兵が陣取るはずの高地を目指します。ここには激戦の後シュウィープ森やベナテックから引き上げた墺軍猟兵たちがトーム旅団の兵士たちと一時待機していました。一大激戦が始まるか、と思えましたが、普軍の騎兵・歩兵が高地に上がってみるとそこは全くのモヌケの空でした。


 墺軍砲兵は普軍の砲撃に一時は対抗しましたが、既に午前中を激しい砲撃に費やしており、弾薬が底を尽き、補給もままならない状態では退却をせざるを得ませんでした。また、歩兵・猟兵たちもクルム=ネデリスト「防衛線」への後退命令で、砲兵たちと相前後してセンドラシックやネデリスト高地へと去って行ったのです。


 こうしてクルム高地の東端に当たる重要拠点、ホレノヴェス高地一帯は普第二軍の手に堕ちたのでした。



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