じゃんけん
「最初はグー 」
僕とMは声を合わせ、拳を振り上げる。
「じゃんけん…… 」
そして、勢いよくその拳を振りかざした。
じゃんけんで勝利する確率3割3部3里、敗北する確率3割3部3里、引き分けとなる確率3割3部3里。
さらに、どちらか一方が勝利、もしくは敗北するまでじゃんけんを続ける場合、勝利する確率、敗北する確率はともに5割。
しかしである。
僕はMの癖を知っている。
彼は今までのじゃんけんの初手はグー、チョキ、パーどれもほぼ同様の割合で出してきた。
しかし、初手があいこだった場合、次の手はほぼ7割、初手に勝てる手を出してくる。
例えば、初手がチョキだった場合、次の手はグーを出す確率が最も高いのだ。
だから僕が初手で負けなければほぼ勝てる!
アダム・スミスとかいう経済学者は市場では「見えざる手」がはたらくとかいっていたらしいが、ことじゃんけんに関していば、僕には見えているんだ、見えざる手が。
きっとMはじゃんけんの後、顔を歪め「悔しい」とかいって、あの極寒の地へ向かうだろう。
そして僕は甘く酸味をふくんだ果実を口いっぱいに頬張り、彼にこういうんだ。
「いってらっしゃい」と。
さあ、皆さん。
僕が勝利した際には是非、拍手をお願いしたい。
さあ、Mよ、この拳で君を地獄へと激しくお送りしよう。
「ぽん! 」
「よっしゃ! イエス! イエス! 」
畳6枚ほどの部屋いっぱいにMの甲高い声がこだました。
「ちくしょう! なんてこった! 」
「ほら、早く灯油つめてこい」
「わかってるよ。くそっ! 」
ガチャリ。
外に出ると冷たい風が体に突き刺さる。
息を吐くとまっ白だ。
空はこれでもかってくらい星が瞬いてる。
「……さ、灯油つめるか」