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死にまくり救世主伝説 ヤヤ  作者: エタりびと
第一章 クリティカル・ループ
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第6話 宇宙の終焉

 11月になりヤヤは来栖ミラの所有する宇宙ロケットにのるための準備に追われた。

 両親に隕石墜落の件やロケットに乗せてもらえることになったことを告げると非常に驚かれた。

 隕石の件もそうだが何より驚かれたのは来栖家を実質的に支配しているミラといつの間にかに懇意になっていたことだった。

 どういう接点でそうなったのか説明するにはループ現象から説明しなければならず、ややこしくなりそうだったので同級生のよしみだと強引に説き伏せた。

 

 来栖ミラは無人の小島のひとつを買い取ってロケット発射場を作っていた。

 ヤヤ達は宇宙飛行のための訓練で何日も前から上陸していた。

 

 吐く息が白い。今年は例年以上に寒く、骨身に染みる冷え込みだった。

 それでも日本はまだマシだとヤヤは思った。


 11月アメリカでは異常な寒波が訪れているはずだ。

 交通も経済も完全にマヒして壊滅的な被害が発生していた。

 テレビの中継ではこのアメリカでの被害が延々と報道し続けているが映像では南極みたいに氷漬けになっていた。

 しかも北アメリカ大陸全土に渡っての広範囲でだ。

 一体どれほどの被害が出ているのかは想像もつかない。

 しかし、冬とはいえ十一月の上旬にこんな異常気象が起こるのだろうか。

 ヤヤが考えるにはこれも隕石墜落と何らかの関係があるのではないか、もしくはそれ以外の要因が。

 しかし、ヤヤは首を振った。今は余計なことは考えまいと。

 

 そしてあっという間に打ち上げの当日となった。

 発射の合図がなされるとジェットエンジンが猛烈な炎を上げる。

 宇宙ロケットは打ち上げに成功し、成層圏を突きぬけて行った。

 緊張していたヤヤであったが、あっさりとしたものだった。


 ロケットには一年分の食料が積まれており、地球が隕石墜落の影響で降り立てないような状態になってもしばらくは宇宙空間で待機できるようになっていた。それゆえに居住スペースもそれなりに凝ったものになっていた。

 特筆すべきは疑似重力発生装置の存在だろう。長期間の無重力での生活は筋力と骨密度を低下させる。

 そもそも無重力だと家具でもなんでも壁面に取り付けしなくてはいけないので色々と不便である。

 以前から遠心力を利用した人工重力というものはあったが、この装置は重力自体そのものを発生させる。

 天才科学者有栖川一実ひとみが考案し、ノーベル賞まで受賞した重力操作理論を完全に実用化した最新機器である。

 これがあるだけでも、このロケットがどれだけの現代科学の粋を集めたのかがわかる。それに伴う莫大な費用も。これだけの金銭を個人で扱える来栖ミラの圧倒的財力を。

 

 来栖家の親族と静森家はそれぞれの家族に一部屋割り当てられていた。

 ヤヤはその家族部屋からそっと部屋を抜け出した。

 ミラに呼び出されていたからだ。

 彼女の部屋だけは個室だ。

 ノックするとロックを解除する音がしてドアが開いた。

「よく来たわね」

 薄明りの部屋にミラがいた。

 黒いレザージャケットにスキニージーンズを履き、高級そうなソファーに腰を掛けていた。

 彼女の目線の先には窓があった。この個室にだけある窓。他の部屋にはなく、コックピットを除いては外を見れるのはこの部屋だけだった。

 強化ガラスでできた窓からは漆黒の宇宙と青く美しい地球が見えた。


「……綺麗」

 それを見て思わずヤヤは呟いた。

「……そうね」


 ミラはぼんやりしているようで心ここにあらずといった感じだった。

 呼ばれたからには何か用があるのかと思ったが彼女は何も言わない。

 しかし、何か遠い視線をしながらも真剣な雰囲気のある彼女にヤヤからも問いかけることはできなかった。


 仕方なくヤヤは窓に近づいて外を眺めた。

 地球はちょうど日本が見える。

 あそこにはまだたくさんの人々が隕石墜落のことすら知らずに暮らしている。


 ヤヤは引きこもりだった。

 子供のころからよく苛められていたし、人とかかわること自体が嫌いだった。

 だから常に一人でいた。他の人間なんか知ったことかと思っていた。


 それでも、心が痛んだ。


 自分は何かできたのではないか、何もしていないではないか。

 少なくとも多くの人にこのことを伝えることくらいはできたはずだ。

 そのせいで世界中を敵に回そうとも。

 自分がこのまま生き残る事は、つまり今地球にいる人たちを見殺しにするのと同じだった。


 地球に向かって飛んできている隕石がもうはっきりと見えている。

 大きい。あまりにも。

 もうすぐ地球に落ちるだろう。

 湧き上がる罪悪感に耐えながらそれを見守る。


 その瞬間、隕石に強烈な閃光が走るとともにバラバラと砕けていった。

 欠片が地球に降り注いでいった。

 国連が隕石を爆破していくつかの欠片に粉砕しようという作戦が進行していることをミラから聞いていた。そういえば自分が死ぬ前の光景はいつも流星が雨のように降り注いでくる光景だった。

 

 そして、それを今回宇宙船で見ているということ。つまり自分は助かったということだ。まだ実感がわいてこない。

 すると、背後にそっと近づいてくる気配を感じた。

 振り返ると来栖ミラが立っていた。右手に持っている何かがキラリと光を反射した。

 彼女の手には一振りのナイフが握られていた。

「え?」

 声を上げたと同時にミラの持っていたナイフはヤヤの脇腹へと深々と刺さっていた。

 刺された瞬間は殴られたかのような衝撃。そのあとすぐにカッと熱くなり、それに伴い痛みがやってきた。

 ヤヤは叫んだが声にならなかった。

 ミラは脇腹に刺さったナイフを勢いよく引き抜いた。血がドクドクと吹き出す。その度に激烈な痛みがヤヤを襲った。

 ……ど、どうして?

 ヤヤは脇腹の傷を抑え、跪きながらミラを見上げることしかできなかった。

「どうだ。折角助かったと思った瞬間に殺される気分は」

 ミラは酷薄に笑いながら言った。

「この殺人鬼が。かつて私の目の前に現れておいてばれてないとでも思っていたのか」

 ……殺人鬼?一体何を言って……いる?

「私の家族を殺した報いを受けてもらうぞ」

 ミラは右手のナイフを何度も振り下ろした。その度にヤヤに肉体は切り裂かれ血が飛び散った。

 ……痛い、痛い、痛い、だれか助けて、だれか!

 ヤヤはただ身体を丸めて命乞いをするしかできなかった。脇腹を刺された際に内臓が損傷したため血を吐きながら叫んだ。

「僕じゃない!僕はあなたの家族なんて殺してない!」

「嘘をつけ!お前の指紋も毛髪も犯人のものと一致した!その他の物証も全部お前が犯人だと指し示している」

 ミラは怒鳴りながらもナイフで切りつける。

「違う!僕じゃない!僕は何も知らない」

「しらばっくれるな!私の家族をどうして殺した!どうして私だけ殺さなかった!許せない!!」

「……違う、……違うんだ」

 痛みが麻痺してきた。血も流し過ぎて、意識も判然としなくなってきた。ヤヤはただ力なく無実を主張し続けた。ミラは苦悶に満ちた表情でヤヤを切りつけるのを止めた。

「……く、こんな!こんな酷いこと。何が目的でこんなことをしたんだ。答えろ!」

「……僕じゃ……ない」

「まだそんなことを!お父さんを、お母さんを、多識を返せ!」

 ミラは再びナイフを振り上げ、ヤヤに止めの一撃を与えようとしたが、その身体はピタリと止まった。

 ヤヤは朦朧としながらも見上げると、ミラは目を見開きながら窓の外を見ていた。

 ヤヤは振り返った。もう身体を自分の力で支えることはできず、窓にへばりついて外を見た。

 青く澄んだ地球はバラバラになった隕石の直撃によって泥のような色と炎で赤くまだらに染まっていた。しかし、違和感はそこではなかった。

 あれは日本があったところ。その近海。

 異様な盛り上がり。どす黒い何かがブクブクと膨れ上がっていた。

 その黒い何かは見る見るうちに大きくなり、地球の地表の三分の一を飲み込んだ。

「あれは……一体何だ」

 ミラの声だった。彼女ですらわからないものが自分にわかるはずがない。ヤヤは呆然とそれを見ていた。

 やがて膨張したそれの真ん中に大きな穴があいた。まるで口を開けたように。

 そしてそこから強烈な光が迸った。目も眩むような光線はその軌道上の星を全て消し飛ばした。

 ミラが息を飲んだのを感じた。

 やがてどす黒い何かは次々と体表に穴を開け、そこから先程の凄まじい光線が幾筋も放たれた。

 太陽が強烈な閃光を残し爆発し、何万光年も離れた銀河すら吹き飛ばした。

 そして大きな光の渦がうねりを上げて、空間すら捻じ曲げる。

 宇宙空間にヒビが入るような音が聞こえたような気がした。

 その瞬間に宇宙船ごと光の奔流に巻き込まれていった。


 

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