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死にまくり救世主伝説 ヤヤ  作者: エタりびと
第一章 クリティカル・ループ
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第5話 交渉

 静森ヤヤは来栖ミラと連絡を取り合うようになった。大抵は忙しいミラの都合にヤヤが合わせる形をとった。

 今日はオフィス街の高級カフェでお茶をすることになった。

 本日のミラは黒いスーツでカッチリと決めていた。長い脚はパンツルックが異様に似合う。

 一方ヤヤは申し訳程度のフォーマルジャケットを着ているだけ。一応きちんとしたお店で買ったものだが微妙に着こなせていない感がある。

 二人が会って交わす会話はビジネスの話が中心だった。ヤヤはループ現象で得たこれから起こる政治経済ニュースをもっともらしい解説を付けて予想してみせ、ミラに自分の有用さをアピールした。

 それ以外は取り留めないような日常での出来事が多かった。特にミラはヤヤの学校の話を聞きたがることが多かった。

 ヤヤは元々引きこもりのため学校へは行っていなかった。

 しかしトロイと出会い、自身のループ現象による時間遡行を知覚するようになってからは、他人とのコミュニケーションの訓練のため学校へ行くようになっていた。今回はこのことが功を奏したようだった。

 しかし、ヤヤが通っているクラスは異常だと感じている。

 ヤヤのクラスメイトの内30人中の三分の一にあたる十人が11月の隕石衝突の日までに死亡もしくは行方不明になっているのだ。

 この十人はそれぞれ関連性のない別個の事件でいなくなっており、病死といった事件性のないモノから交通事故や殺人事件なんて物騒なモノまである。

 ヤヤとしても全くの他人ということでもないし、できることならこの十人を助けたいと思いがある。

 交通事故くらいなら未然に防げるし、片手間で何とか助けてやろうかと考えてはいる。しかし随分と複雑で不可解な事件もあり、それらは手の付けようがないと感じている。まずは自分が助かる方法を見つけるのが先だ。


「そういえば来栖さんはどうして高校に籍を置かれているのですか。多忙すぎて学校にも行けないでしょう」

 ヤヤに問われるとミラは首をかしげて悩む様な仕草をした。

「最終学歴が中卒というのは恰好がつきませんから」

「あまり学歴とか気にするタイプには見えませんが」

「ばれましたか」

 ミラはクスリと笑って答えた。

「あの高校は死んだ父が設立に関わっておりましたの。それで理事長とは昔からの知り合いで籍だけでいいからどうしても入ってくれと頼まれまして。特別待遇だから登校しなくても卒業できるんです。」

 理事長直々に頼み込んだのか。確かに学校のOBに来栖ミラがいるなら箔がつくというものだとヤヤは思った。

「それにあの東雲世志乃さんもいましたし」

「え? 東雲さん?」

 東雲世志乃はヤヤのクラスメイトだ。

 小柄で地味な女生徒で無口でいつも一人でいる暗い印象がある。あまり化粧っ気がないのだがよく見ると顔の作りが良く、意外と隠れファンが多いタイプだ。そういうヤヤも同級生の中では世志乃が異性として一番気になる子の一人である。

 そんな彼女の名前がいきなりでてくるとは思わずにヤヤは意外な気がした。そんなヤヤを見てミラは微笑んだ。


「彼女が一体どうしたんですか」

「ふふふ、内緒です。それに結局私も会いに行きましたけど取りつく島がなかったですし」

 この来栖ミラを相手に無愛想を貫くとは東雲世志乃も案外肝が据わっているとヤヤは思った。それにしてもミラが直々に会いに行くなんて世志乃は何者なのだろう。ヤヤは10人の死者行方不明者を出すクラスメイトばかり気にしていたが他のクラスメイトも何か知られざる肩書きを持っているのかもしれない。


「流石に何でも知っている静森さんも知らないことはあるのですね」

「何でもは知りませんよ。でも他の人は知らない重要なことを知っています」

「重要な事?その言い方、気になりますね」

 ……あのことを伝えるにはまだ早いだろうか。いや、知らなかったなら準備には時間がかかる。早い方がいい。

 ヤヤはそう決断し、改まった表情をした。

「11月に巨大隕石が地球に直撃します。地球を逃げ出して宇宙に行かなければ助からない可能性が高いです」

「……へぇ」

 ミラは驚きもせず、目を細めた。しかし、その眼には何か品定めをするような鋭さを感じた。

「よくご存知でしたね」

 やはりミラは隕石墜落のことを知っていた。ならば何らかの用意がしてあるということだろう。そうヤヤは直感した。 

「もし宇宙に行く用意があるのでしたら僕と二人の両親も連れて行ってくれませんか。僕はなんでもします」

 ミラは得心がいったような表情をした。

「成程、それが目的で私に近づいたのね」

 ミラは敬語ではなくなっていた。

 そして、笑顔もなくなって、さっきまで纏っていた柔らかい雰囲気は雲散霧消していた。感じるのは彼女の圧倒的な威圧感だった。拙速だったかとヤヤは冷や汗をかいた。


「いいわ。私の宇宙ロケットに三人分なら何とかねじ込める」

 断られるかと思ったがミラの出した答えは意外にもOKの返事だった。

「あ、ありがとうございます」

 ヤヤは本心から感謝していた。

「しかし、成程。そういうことね。うん、それならば納得いく」

 ミラはしきりに頷いて何やら呟いている。

 何がそんなに納得しているのかヤヤにはよくわからなかったがそんなことは生存確定した以上はもうどうでもよかった。

 窓からのぞく光は暖かく、その空は青く澄み渡っていた。あの空の彼方にいけるのだ。

 ヤヤの心はその事実に心を躍らせていた。

 しかし、彼の右肩にいるトロイだけはそんなヤヤに対して憐みの視線を投げかけていたことに彼は気付かなかった。

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