第3話 来栖ミラの記憶
大幅に書き直ししています。
人物名を来栖美良→水落に変更しました。
基本的にミラ表記でいきます
またあの夢を見た。
忘れもしない6歳の誕生日。学校から家に帰るとむせ返るような血の匂いがした。
部屋を開けるとそこには倒れ伏したお父さんとお母さん、それに弟の多識が。
めった刺しにあって衣服を赤黒く染めていた。
そしてその脇に少年が立っていた。私より小柄な子供。まだ幼い。タシキと同じくらいか。
彼もまた体中を赤黒く染めていたが、これは返り血だ。
右手に持っている刃物からも血がたれている。
あれで私の大切な家族を殺したのだ。
そして少年と目が合った。まるで人形のようにその眼には光がなく、底知れぬ闇の深淵が横たわっているようだった。
私も殺されると思った。このまま家族と一緒に殺してくれとも思った。
しかし、少年は何を思ったか持っていたナイフを捨てて、呆然としている私の横を通り過ぎるとそのまま外に出ていってしまった。
ドアが閉まった音を聞いて私はその場にへたり込んでしまった。
あの時私は確かに安堵していたのだ。それが私には許せない。
そう思いながらいつもはその夢から醒めるのだが。
********
その日はもう一つの奇妙な夢を見た。
私の身体は現在の17歳。
ここはどこかもわからない見知らぬ街中で私は誰かを追い詰めていた。
無様に足をもつれさせながら逃げる男はまだ少年だ。
私よりも小さな中学生かもしくは小学生のような少年を私はいたぶる様に追いかけまわしていた。
どうやら私はこの少年に危害を加えようとしていて、この少年は必死で逃げているようだった。
そして振り向いた少年の顔。それは忘れもしない私の家族を殺害したあの少年のものだった。
もちろん、成長に伴い細部は違う。面影を残す程度なのだが、私は間違いないと思った。
そして気付くと私の右手にはナイフが握られていた。
そうか。私は念願の復讐を今、遂げようとしているのか。
状況を理解するとこれからする行動はたったひとつ。
私はかつて家族が殺されたようにこのナイフで彼をめった刺しにするだけだ。
恐怖に顔が引きつる少年にこのナイフをねじ込もうと右手を振り上げた時、私にはこれでいいのだろうかと思う気持ちがあった。
これが良心の呵責というものなのだろうか、それに復讐には何も意味がないという合理的精神の働きかけなのか。しかし、もっと大きな直感が私に彼を殺すのを躊躇させたのだ。
だが、その瞬間に脳裏によぎったお父さんとお母さんと多識の姿。
私は少年の心臓を抉るようにナイフを突き刺していた。
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目覚めるとベッドの中だった。
なんて夢だ。
私はいつもこの復讐を遂げることばかりを思い、生きていた。
まさか夢にまででてくるとは。
だが、まぁいい。すぐ近いうちに正夢にしてやる。
無能な警察はあれだけの物証、それに犯人の指紋付の凶器までがありながら犯人を検挙できなかった。
私の犯人がまだ小さな子供であるという証言がどこまで本気で捉えられたかも怪しいところだった。
客観的に見ても、そんな子供があれほど凄惨な殺人を犯せるものなのか信じられないのはありうるだろう。
混乱した私の証言の信用性が警察の中で低く見られてしまったのは仕方ないかもしれない。
だから私は自分でこの事件を解決することにした。
10年間で父の残した会社を世界有数の大企業にした。
そしてそこで得た莫大な私の個人資産をつぎ込んで、大調査機関を作り上げた。
腕利きの探偵を引き抜き、興信所をそのまま傘下に入れたりした。
そしてこの国の裏まで知り尽くした諜報活動のプロである六道家を引き入れればこの事件の真相解決に大きな力となるだろう。
そして虱潰しに日本中を探してやる。
犯人は指紋付のナイフを残してくれた。また犯人と思われる毛髪なども見つかっている。
日本全国民の指紋を調べつくせば犯人に行きつくだろう。
もし日本にいないのなら世界中を探してやる。
それができるだけの財力は10年間で身に着けたのだ。
あの憎い殺人犯に私を殺さなかったことを死ぬまで後悔させてやるのだ。
私は身づくろいをしながら今日の予定を確認していた。犯人を見つけ出すまで私は休んでいる暇などない。スケジュールがぎっしり詰まった予定表を見る。今日はクルスコンツェルンの大株主たちとの立食パーティがあってゲッソリする。出席者の名簿を見ると大体が知っている顔ぶればかり。しかし、その欄の隅に見慣れない名前があった。
「静森ヤヤ」
口に出して言ってみた名前。初めて聞く名前なのにどこかで聞いたことのあるような気がした。