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死にまくり救世主伝説 ヤヤ  作者: エタりびと
第一章 クリティカル・ループ
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第2話 目標設定

「半年後に僕が死ななければループ現象が起きないと考えていいのかな」


「察しがいい。その通り」


 ヤヤの右肩に止まったトロイは頷いた。


「でも僕の死亡する原因は巨大隕石群の衝突。避けようがない現象だよ」


「それでも死なない方法を考えればいい」


 トロイはシニカルに笑った。まるで考えても無駄だという雰囲気があってヤヤは腹が立った。

 もういい、とヤヤは呟き自分一人で考えることにした。


 そうだ。自分が何かしなくても誰かに何とかしてもらえばいい。


 ヤヤはどこまでも他人任せであった。

 すぐさまパソコンから様々な掲示板やコミュニティに11月に巨大隕石群が衝突することを書き込みまくった。

 ほとんどのサイトでは荒らし行為として相手にされなかったし、少し時間をあけると次々と削除されていった。

 しかしながらこれで多くの人が知ったはずだ。あとはどこかの知らない偉い人が隕石対策を考えてくれるはず。そうヤヤは楽天的に考え、安心したら眠くなってきたのでベッドにもぐって寝た。


 気が付くとベットで寝ていたはずがパソコンの前に座っていた。

 日付は5月3日。本当なら4日のはず。時間が戻っていた。


「……どうして」


「殺されたんだろ」


 トロイの端的な答えにヤヤはギョッとした。しかし時間遡行が起こったということは自分が死んだ以外に考えられない。

「政府は隕石墜落についてはとっくに知っている。今の天文観測技術を考えれば知っていない方がおかしい。しかし墜落は防げない。もしもこの事が世間に広がればどうなると思う」


「パニックが起こる」


「その通り。だからこの件については国家の最重要機密として隠匿している。特に発信元を隠さずに書き込んだんだから自宅の特定はあっという間だったろうな」


「僕だけでなくお父さんもお母さんも殺されたのかな」


「さあな。時間が戻ったんだからそれは考えても仕方ないことだろう」


「うう、でもなんか嫌だ。あんまり自分以外に迷惑かけるようなことはしないように気を付ける」


「ククク、それは殊勝な心掛けだ」


 トロイは基本的に傍観者を貫くスタンスだが、ヤヤが死んで時間遡行を起こした時だけに原因を解説してくれるようだった。

 こうなることがわかってるのなら教えてくれよともおもったが、原因が全く分からずに困惑したままでいるより余程マシなのでヤヤは目を瞑った。

 少なくとも政府が隕石衝突の件を知っていることもトロイが言わなければヤヤには想像もつかなかった。

 ヤヤの背中にはぞっとするものがあった。

 今まで自分を守ってくれていた国という巨大なモノが自分の敵になりかねない。今まで暮らしてきてた安心は砂上の楼閣のようなものだった。


 結局ヤヤはまたこれからどうするかを真面目に考えることにした。


 すぐに思いついたのは地下シェルターを作って避難することだった。ただ後半年しかないのにそんなものが作れるのか、時間も金銭もまるで足らないことは明白であった。


 次に思いついたのは宇宙に行くこと。これはもっと困難が予測された。

 大体宇宙飛行士になるにはどれほどの訓練がいるか想像もつかない。選ばれたエリートが不断の努力によってようやく到達できる狭き門だということはヤヤでもわかった。


 ただ、自分の力では無理でも他人の力を借りれば何とかなるのでは。

 どこかの金持ちなら核戦争用の地下シェルターを持っててもおかしくない。そこに何とか自分と両親を入れてもらう。


 もしくは宇宙飛行士には実力でなれなくても金を積んで宇宙に行かせてもらうのもありだろう。

 何年か前に金持ちが何十億も積んで宇宙に行ったニュースをヤヤは見た覚えがあった。

 民間の宇宙旅行事業が立ち上がるのは時間の問題だと言っていたはずだ。


 とにかく、まずは情報が大事だ。

 今までのように漫然と生きていくのではなく色々な情報を収集するのが大事だ。

 

 それからヤヤは様々な情報をインプットすることに努めた。

 世間や社会のニュース、経済情報、ギャンブルや株などの投機情報など多岐に及んだ。

 前回の人生ではアニメや漫画を読み、ネットゲームをして潰していた時間を全て情報収集にあてた。

 その結果、ヤヤは今の経済界がどういう人脈で動いているのかを少しだけ把握することができた。

 しかしただの高校生、しかも引きこもりであるヤヤにそういった経済界の重鎮とどうやって人脈を作るかは想像すらできないことであった。

 ただ、この経済界の重鎮の名前の中にヤヤの一人だけ知っている人物がいた。

 

 来栖水落くるすみら

 ヤヤと同い年でありながら日本では知らぬものがいないといわれるほどのビッグネーム。

 悲劇の少女と、奇跡の少女、この二つが彼女を形容する言葉として多くの人が連想する言葉だ。

 来栖ミラは日本でも有数の財閥クルスコンツェルンの社長令嬢として生まれ、一人の弟と家族四人で暮らしていた。

 悲劇は彼女が6才の時に起きた。

 来栖家の一家惨殺事件。

 ミラを除く3人の家族全員を殺害されたその事件は世間を大いに震撼させた。

 この事件は連日テレビで放映されていたことをヤヤは何となく覚えている。

 突然に社長を失った財閥は後継者争いが起こり徐々に衰退していくと思われた。

 しかし、来栖ミラがそうはさせなかった。

 彼女はもっとも扱いやすい親族を自分の保護者に指定し、その後次々と画期的な特許を取得し、企業に莫大な利益をもたらした。

 それによって強力な発言権を得た彼女は保護者である親族を派閥争いの中で見事社長に指名させたのだ。現社長はミラの叔父であり、傀儡である。

 そしてこの10年でクルスコンツェルンはミラの父親が社長だった時より、さらに強大な世界有数の企業に成長させていた。

 その後、来栖ミラは個人資産を株に運用し、その全てが大当たりし、現在どれほどの資金を抱えているのか一説には10兆円を超えるのではと囁かれている。

 これが悲劇の少女にして奇跡の少女、来栖ミラの半生である。

 

「彼女ならもしかしたら知り合いになれるかも」

 ヤヤは一人呟いた。

「ほほう、どうやって?」

「だって彼女と僕は同じ学校の同級生だもん」

 ヤヤは二年生のクラス名簿を探すとそこには来栖ミラの名前があった。

 しかし、ヤヤは引きこもりをする前から高校で彼女を一度も見たことがなかった。

 なんでも彼女は入学式の日のみ現れて、それからは一度も出席していないそうだ。

 それでどうやって二年生に進級できたのかは謎である。

 金とコネの力をヤヤは目の当たりにした。

「日本でも、いや、世界でも最高クラスのお金持ちである来栖ミラさんに頼めば宇宙に連れて行ってもらえるかもしれない。そうすれば隕石から生き残ることができる」

 こうしてヤヤの当面の目標は定まったのだった。

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