たいむすてい
未来の少女と戦国時代の少年のお話しです。時を越えた恋の結末は……
二十二世紀、日本。時刻は午前九時半。
ドアがスーッと開き一人の少女が教室の中へ駆け込んで来る。
「南崎、遅刻だぞ」
ぜいぜいと息を荒げながら、南崎と呼ばれた少女はすみませんと頭を下げて自分の席に座った。
「南崎、今度の課外活動のことなんだが」
「はい、何ですか?」
「もう、戦国時代と縄文時代しか残っていないんだ。どっちにするか?」
「えっ!? ローマはないんですか?」
「ローマ、ギリシャは人気が多くてな。もうムリなんだ」
「じゃあ、戦国時代でいいです……」
少女は溜め息をついた。
後ろの女子が話しかけてきた。
「こんな日に遅刻してくるからこうなるのよ」
中学生の歴史授業の課外活動として、各自それぞれが様々な国の様々な時代に行き、実際にその時代を体験する。タイム・ステイという学校行事の一つだ。一週間その時代にタイムスリップをして体験をし、戻ってきてからはクラス発表をする。
「荷物は最小限にしたか? タイムシステムの入力はちゃんと出来たか?」
口うるさい教員の指示のもと生徒達はタイムシステムと言うタイムスリップをするための機械に、日にちや場所などの情報を入力する。
遅刻のせいで戦国時代に行くはめになった少女もタイムシステムに入力をしていた。なるべく安全な場所と時間を選んで。
「みんな準備はいいな。行くぞ!」
最も口うるさい教員が一斉起動のスイッチを押した。次々と生徒達が光に包まれて消えていく。あの少女も光に包まれた。
ビリッ
一瞬、少女の体に電気のようなものが走った。
「痛っ!」
目を閉じた次の瞬間、急に涼しくなった。目を開けると辺りは真っ暗で何もなく、空には月と星が出ていた。
「えっ、夜に来ちゃった?」
昼間の時間帯に設定したはずだと少女が疑問に思っていると、「大道、こいつ変な服着てるぜ」
「金目のもん持ってそうだな」と言いながら大柄な男が二人、目の前に現れた。どうやら山賊らしい。
「きゃあっ!」
後ろからもう一人山賊が現れ、少女の両腕を捕まえた。
「よおし、そのまま捕まえとけ!」
山賊たちの手が少女に近づく。
「何をしている!」
突然、声がした。山賊たちが振り返るとそこには一人の少年がいた。
「ちっ、邪魔すんな小僧!」
山賊の一人が少年に殴りかかった。少年はそれをひらりと交わし、よろけた山賊の後ろ首を強く打った。その山賊はそのまま地面に倒れこんだ。
「ひ、引き上げだっ!」
残りの山賊たちは慌てて逃げていった。
「あ、ありがとう」
少女は少年に言った。すると少年は「お前、変な格好しているな」と少女を怪しんだ。
さっきの山賊も言っていたように、少女はこの時代に合わない格好をしていた。
「えっ! なんで!?」
本来ならばその時代に合った格好にタイムスリップと同時に変わるはずなのだ。ところが少女は二十二世紀の格好のままだった。
「何だかよく分かんねえけど、夜に女が一人でこんな山道を歩くのは危険すぎる。あんた、一体どこへ行くつもりだったんだ?」
「えっと……」
「自殺か?」
「そんなわけないでしょ! そんなんじゃないわ! ただ……」
「ただ?」
行く宛がない。少女は正直に言った。少年は困った表情をしたが、少女を一人夜の山道に残して去るわけにもいかず、とりあえず自分の家に来るかと聞いた。少女は「うん」とうなずき即答した。
「お前、名前は?」
「私、南崎ジュナ。」
「じゅな? 格好も変だけど名前も変だな。俺は善二。」
しばらく歩いて、善二の家に着いた。
戸を開けて中に入る善二。その後ろからジュナも中へ入った。
「平八、帰ったぞ。」
「おお、善二、やっと帰ったか。遅かったな……って、何だいその子は!?」
平八と呼ばれた中年の男はジュナの姿を見るなり驚いた。
「ぜ、善二、お前、隣村行って女つくってきたのか!?」
「変なこというな! 俺はただ、山賊からこいつを助けてやったら、行くところがないっていうからしょうがなく――」
「まぁまぁ、そうムキになるなよ。分かったからよ。」
平八は善二をなだめると、ジュナにあいさつをし、「せめぇ所だけど、我慢してくれ」と、ジュナを歓迎してくれた。
善二は両親も兄弟も亡くし、父親の友達だった平八と城下のこの家で暮らしているらしい。
夜が明けた。
慣れない所で、なかなか眠れなかったジュナは、結局一睡も出来なかった。今まで毎日ふかふかのベッドで寝て、おいしいものばかり食べてきたジュナにとってここの生活は合わないようで、意外と興味が湧いてきたらしい。家中をあちこち調べては「これは何?」と聞くジュナを善二は変わった奴だなと思いながらも質問に答えてくれた。
まだお昼にもならない頃、一人の少年が善二の家にやって来た。
「善二〜! お前、女連れて帰ってきたんだって? 隅に置けねえな〜」
にやけながら少年は言った。
「そんなんじゃねえよ、鷹丸。」
善二はその少年のことを鷹丸と呼んだ。
「あっ、その子かい?」
鷹丸は善二を無視してジュナを発見した。
「随分と変わった子だね。服も髪型も見たことない格好だね。名前は? 歳は? どこから来たの? 俺、鷹丸って言うんだ」
鷹丸はジュナに興味津々だった。
鷹丸はいい所に連れてってやるよ。と言ってジュナの手を取り駆け出した。その後を善二が慌てて追った。
「おい、どういうつもりだよ!鷹丸!」
「お前の女じゃないんだろ?」
鷹丸はスピードを上げた。
「ねぇ、いい所って?」
走りながらジュナが鷹丸に聞いた。
「秘密の場所。着いてからのお楽しみ」
そう言って鷹丸は無邪気に笑った。
やっと鷹丸は走るのを止めた。辿り着いたのは木々に囲まれいて、中央にきれいな池のある所だった。
「ここはきれいだし、光がよく当たって暖かいんだ。俺と善二だけの秘密の場所さ。でも、今からは俺とジュナ、ついでに善二だけの秘密の場所さ」
鷹丸は両手を広げて、空を見上げながら言った。
「気に入った?」
「うん!」
ジュナは今までこんなにきれいな自然を見たことがなかった。自然に出来た池というだけでもジュナにとってはすごく珍しいものなのだ。ジュナは初めて自然の美しさを知った。
「戦国時代も結構いいかも」
この夜、ジュナはぐっすりと眠れた。昨日寝なかったのと、昼間走ったおかげである。
最初はあまり乗り気でなかった戦国時代だったが、ジュナは戦国時代がだんだん好きになってきた。
ジュナが目を覚ますと、太陽はもう既にてっぺんにいた。昼近くまで寝ていたのである。起き上がり、善二や平八を捜すジュナ。しかし、家のどこにも二人の姿はなかった。
ジュナは家の外に出て、近辺を捜すことにした。家を出ると、すぐそこに大きなお城があった。ジュナがあちらこちらを歩いていると、周りの人々はジュナを珍しそうに、怪しそうに見ていた。
「あっ、もしかしたら――」
ジュナは昨日、鷹丸に連れて行ってもらったあの場所に行くことにした。だが、そこにも善二はいなかった。鷹丸の姿も見えなかった。
再び家の近辺に戻ってきたジュナは、周りにいるのが女の人と子供ばかりであることに気がついた。なんでだろう? とは思ったものの、ジュナはそれ以上追求はしなかった。
ジュナは家の前に座り込んで待った。途中、近くで子供達が遊び始めた。ジュナは遊んでいる子供達をずっと見ていた。見たことのない遊びだった。おもちゃや遊具を使わなくても楽しそうに遊んでいる子供達をジュナはすごいなと思った。
日が暮れ始め、子供達はそれぞれの家に帰っていった。ジュナはそれでも家の前で善二と平八を待ち続けた。
「さむっ!」
どんどん冷え込んできた。ジュナは立ち上がり、足踏みをしだした。すると、自分以外の足音が聞こえてきた。もしかしてと思い、ジュナは足踏みを止めた。すると、夕陽を背にふらふらとした人影が近づいてきた。
「善二?」
ジュナの声に反応して人影は一瞬立ち止まった。
「ジュナ、か……」
ジュナは善二に駆け寄った。善二はよろめいて倒れそうになり、地面に膝をついた。善二はよろいを着けていた。
「善二! 大丈夫? この格好はどうしたの!?」
ジュナは善二のよろい姿に驚いた。
「どうしたの? って、戦に決まってるだろう……」
戦国時代、その名の通り戦がとても多かった時代。でもまさか自分と同い年ぐらいの善二までもが戦に出るとは思っていなかったジュナ。
ジュナは善二の体を支えて家の中に入り、重たいよろいを取り外して善二を横にさせた。
「平八が、死んだ」
息が落ち着くなり善二が言った。ジュナは善二が平然とそう言ったので驚いた。
昨日まで生きていた平八の突然の死。ジュナは涙を流した。今度はジュナの涙に善二が驚いた。
「な、泣くなジュナ。どうして泣く?」
「だって、昨日まで一緒に暮らしていた人が死んじゃったんだよ。悲しいよ……善二はどうして平気な顔でいられるの?」
「それが、戦人だからさ」
ジュナは奥の部屋へ駆け込んでしまった。
戦国、国を守るために国同士が戦って多くの兵達が命を落とす。死と隣り合わせの世界。身近な人の死、人間同士の殺し合い、たった十五歳ほどの善二も命をかけて戦う。自分のいた未来とは断然異なる厳しさ。ジュナにとって死をこんなに近くに感じたのは初めてのことで、大きなショックを受けた。
ジュナはいつの間にか眠っていた。目が覚めると枕が濡れていた。顔を洗おうと水を覗き込むと、目が赤かった。冷たい水で勢いよく、ばっと顔を洗うジュナ。気分をすっきりさせたいのだ。
「今日は早起きだな」
善二がやってきた。顔を洗おうとした時、善二の顔が見えた。目が少し赤かった。
「ああ、さっぱりした」
善二は笑っていた。
「善二、いるか?」
鷹丸が善二のもとを訪ねてきた。
「鷹丸、どうした? いつもよりも早いな。」
笑顔の善二に比べて、鷹丸の顔は真剣だった。いつもと違う鷹丸の雰囲気に二人の間に緊張が走った。ジュナは後ろでそんな二人を見ていた。
「善二、俺は……俺たちは、もう、今までのようには会えない……」
「……そうか」
鷹丸はそれだけ言うと去って行ってしまった。
「ねぇ、鷹丸が言ったのってどういう意味なの? 何だか、この前と随分感じが違かったみたいだけど……」
善二はジュナの目を見ないようにして、そのうち分かる。とだけ言った。
翌日、昼ぐらいになると外が騒がしくなった。何事かと思って外に出ると、城の中まで長い侍たとの行列ができていた。その行列の間には、人を乗せる駕籠の姿もあった。
隙間から駕籠の中が少し見えた。白い綺麗な着物を着た女の人が乗っていた。
「あいつは、鷹丸は、今日から一国の殿様だ」
「えっ! 鷹丸ってお殿様だったの!?」
まさか殿様がこんな身近にいたとは思ってもみなかったジュナ。つい先日遊んだあの鷹丸が殿様であるということが信じられない。
「じゃあ、あの行列って……」
「鷹丸の嫁さんの、嫁入り行列だ。あいつは殿様で、オレはただの下っ端侍。身分が違いすぎるよな。だから、もうこの前みたいには会えないんだ」
ジュナはやっと昨日の鷹丸の言葉の意味が分かった。善二を見ると、遠くを見ているような目をしていた。鷹丸との思い出を思い出しているのかもしれない。
たった数日で、親や幼なじみを失った善二。笑ってはいるが、ジュナには悲しげに見えた。
翌日、ジュナは持ってきた荷物の中をあさり始めた。
「何してるんだ?」
善二が不思議に思ってジュナに聞いてきた。
「後のお楽しみ。ちょっと外に出てて。いいって言うまで入ってこないでね」
ジュナは善二を外に追い出すと、何かをし始めた。
数十分後、ようやくジュナは善二を中に入れた。
「何か知らない匂いがするけど……」
「へへ。じゃ〜ん!」
ジュナが善二の目の前に出したのは、カレーライスだった。しかし、初めてカレーを見た善二はどうしたらいいのか分からず、戸惑っていた。
「これ、カレーライスっていって、すっごくおいしいんだよ! 私がいた所では百年以上も昔からよく食べられていた料理なんだよ。作るのにちょっと時間かかっちゃったけど……」
22世紀でカレーを作る時はいつも数秒で作れたジュナだが、機械のないこの時代で作るのはとても容易ではなかった。湯を沸かすだけでも大変だった。
「いただきます」
戸惑いながらも善二はカレーを一口食べてみた。
「うまい! ……ちょっと辛いけど」
「ほんと? 嬉しい!」
ジュナは善二を励まそうとしてカレーを作ったのだった。その気持ちは、善二にも伝わったのかもしれない。善二はカレーをすべて食べ終えると語り始めた。
「俺の家族は、父と母と兄の四人だった。でも、母は俺が幼い時に病気で死んだ。父と兄は二人とも今の俺と同じで武士だった。でも二人とも戦で死んだよ。それで俺は平八と暮らすことになったんだ。そうだな、もう10年も前のことかな。その平八も戦で死んでしまった。武士は、主を守るために、国を守るために命を落とす運命なんだ」
ジュナは黙って善二の話を聞いていた。
「鷹丸と初めて会ったのは、平八と暮らし始めた頃だったかな。その時はまだ鷹丸は殿様になる予定じゃなかったんだ。鷹丸には兄が二人いたからな。毎日のように一緒に遊んだよ。日が暮れるまで。でも鷹丸の兄が二人とも戦で死んで、三男の鷹丸が殿様になることになったんだ。だんだん遊べる日が限られてきて、そんで俺も戦に出るようになってからはめっきり減ったよ。それでも時間のあるときは必ず俺の所にきてくれたんだ。それも、もう二度とないけどな……」
「善二……」
善二はジュナの目を見た。
「今はお前がいるけどな」
善二は笑った。ジュナも笑った。ジュナの顔は少し赤かった。
ドンドンッ。外から誰かが戸を叩いて入ってきた。
「善二、明日の朝出陣だ」
「はい!」
入ってきた男はそれだけ言って、隣の家に行った。
「また戦に行くの?」
善二は頷くだけだった。
翌朝、善二は早くから起きて、自分の体に鎧を取り付けていた。
家の戸に手をかけ、外に出ようとすると、後ろからジュナが抱き付いて止めた。
「行かないで……」
「……ジュナ、侍は戦に行って殿様や国を守らなきゃいけないんだ」
「分かってる! 分かってるよ、でも……生きて帰ってくるって約束してくれる?」
「それだけは約束できない……」
善二は振り返ってジュナの手を取った。
「でもこれだけは約束するよ。鷹丸……殿様と、この国は絶対に守るよ」
ジュナの手から善二の手が離れていった。善二の姿はどんどん小さくなっていった。
一人残されたジュナ。何もすることがなく、ただいたずらに時間は過ぎていった。
ふと足元を見ると昨日のカレーのお皿があった。片付けなきゃと思ってジュナはその二十二世紀のお皿を手に取った。その瞬間、ジュナは今日でここに来て7日目であることに気がついた。
今日でちょうど一週間。あの日ここに来た時と同じ時間に、ジュナはタイムシステムによって自動的に二十二世紀に帰されてしまう。
ジュナは迷った。ここで善二が帰ってくるまで待っていられるか不安だった。このまま帰ることになってしまうかもしれない。
ジュナは表へ飛び出した。戦は一体どこで行われているのか、ジュナには全く分からなかった。ジュナは必死にあちこち聞きまわった。やっとのことで戦の場所が分かった。ジュナは走った。太陽の位置はすでに落ちてきていた。息を切らし、途中で転びそうになりながらもひたすら善二が戦っているところを目指した。
なにやら騒がしくなってきた。戦場に近づいてきたのだ。
突然「おおおっ!」っという雄叫びが聞こえてきた。どちらかが戦に勝ったらしい。勝った方の幟を見ると、見たことのある幟だった。勝ったのは善二たちの方である。しかし、ジュナは喜べなかった。どんなに兵たちの中に、善二を捜しても姿が見えなかったのである。
どんどん城の方へ帰っていく兵たち。ジュナは善二の姿を必死に捜した。空が赤かった。じきに空は暗くなる。兵たちがだんだんいなくなり、戦場にはほとんど人がいなくなった。ジュナは一人、馬の横に立っている人の姿を見つけた。
ジュナが近づいてみると、それは殿様になった鷹丸だった。鷹丸はただ無表情に下を向いていた。鷹丸の足元には血を流して倒れている一人の兵がいた。ジュナは恐る恐るその兵の顔を覆っている兜を取った。兜の下にあったのは、今朝見たばかりの善二の顔だった。
ジュナは声を失った。善二はかすかに目を開けていた。息はしているようだが、とても弱々しかった。
ジュナはそっと、でも、しっかりと善二を抱きしめた。善二は最期の力を振り絞ってジュナの手を握り、ジュナの耳元に囁いた。
「ジュナ……楽しかったよ。最期にジュナと会えて、本当によかった……」
「私も、私も善二に会えてよかったよ」
「…………」
善二はジュナに抱かれたまま、目を閉じた。夕陽は完全にその姿を消し去っていた。
ジュナの目からは涙が溢れ出た。
「善二は俺を救うために命を落とした。お前に救われたこの命、決して無駄にはしない……」
鷹丸目からは何も流れていなかった。歯を食いしばっていて、拳が小刻みに震えていた。涙をこらえるために体に力を入れていたのだろう。
月明かりがジュナの体を照らした。そして、ジュナの周りに光が集まってきた。
ジュナが二十二世紀へ帰る時間となったのだ。
「バイバイ、善二」
ジュナは善二をそっと地面に寝かせた。ジュナは目を閉じた。その瞬間ジュナは光に包まれた。
ゆっくりと目を開けると、目の前にはもう、善二の姿も戦場もなかった。あるのは多くのコンピュータと生徒たちと教員たちの姿だけ。
「南崎、無事か? お前のタイムシステムに整備不良が見つかったんだが、戦国時代へは行けたか?」
心配そうに言ってくるのは、いつもは口うるさい教員。
「大丈夫、です……」
現地目標時間のズレ、タイムスリップしても服が変わらなかったこと――色々あったがジュナはそう言った。
「そうか、ならいいんだが。発表は三日後だ。それまでに発表原稿を完成させるんだぞ。」
ジュナは「はい」と言うとそれ以上何も言わなかった。
色んな時代に行ってきた生徒全員が二十二世紀に戻ってきたことを確認すると、教員はタイムシステムのとあるスイッチを押した。それは記憶を消す装置。生徒たちがその時代で出会った人々の記憶の中から生徒たちの記憶をすべて消すのだ。過去に影響を及ぼさないために……
バイバイ善二、鷹丸、平八さん。何だか変だよね。もともと違う時代に生まれたのに……絶対会うことなんてなかったはずなのに……みんなの記憶に私のことは残らないけど私はずっと覚えているからね。戦国時代は、自然がいっぱいで景色がきれいで、でも夜は真っ暗になっちゃって、子供たちは遊び道具がなくても楽しく遊べる。戦国時代にも友情はちゃんとあった。すごく強い絆で結ばれていたよね。戦は危険がいっぱいなのにそれを承知でみんな出陣する。自分の国を、民を、自分の大切な人を守るために命をかけて戦う。善二も鷹丸も平八さんもそうだったんだよね……
ちょっと悲しい淡い恋のお話しですね。でも例え善二が生きていたとしても二人の別れは決まっていました。