表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

第六話 どんでんがえし


 鳥井巫女(とりいみこ)佐伯恭平(さえききょうへい)による恐怖政治。それは、夏目翼(なつめつばさ)の裏切りによって、全盛期を迎える。


 『2』と『4』の扉の南京錠は完全に開封され、圧倒的な『銃』グループでゲームは進行する。  

 『鍵』グループを巧みに翻弄し、夏目の造反に成功させた鳥井は無情にも雪見鏡一(ゆきみきょういち)達に『銃』を向ける。


 焦燥。猜疑。裏切り。


 暴走する【天国ゲーム】。『鍵』グループから『鍵』を窃取した鳥井と佐伯は自身の勝利を確信していた。そして、『鍵』グループの本居(もとおり)加藤(かとう)菅本(すがもと)夏目(なつめ)は『4』の扉を通過。鳥井と佐伯は『2』の扉を通過する予定にある。


 そして、『鍵』も『銃』もない雪見鏡一と音原(おとはら)は天井に『2』と書かれた部屋に取り残されつつあった。


 ここまままでは、雪見鏡一と音原の敗北は明らかに見えた。


 

 しかし、このゲームには全てを覆す大番狂わせが存在していた――



          ◆◆◆



 14:29


 電光掲示板にはそう記されてあった。

 

 俺は激痛で痛む背中をさすりながら、起き上った。

 どうやら、佐伯の容赦ない攻撃に失神したらしい。痛みによる一時的な精神乖離だ。


 この様子だと、俺はかなりの時間床に突っ伏していたらしい。佐伯もひどいことをするものだ。


「だ、大丈夫ですかぁ!」


 音原さんの泣きそうな声。俺は視線を三百六十度回転させた。

 

 俺の背後。そこには子猫のように震えた音原さんの姿。頬にはうっすりと痣がある。


「ああ、大丈夫。それよりもその怪我は?」   


 俺がそう問うと、音原さんは俯いた。前髪が表情を隠し、後頭部が見える。

 

「殴られちゃいました」


 蚊がなくような声。俺は激昂寸前だった。


「佐伯か」


「はい」


 消え入りそうな音原さんの姿。幸い服は全く乱れてないから――多分、そういう危険はないだろう。嫌な予測だ。


 天井に『2』と書かれた部屋には俺と音原さん以外、誰もいなかった。おそらく、とっくの昔に脱出したのだろう。俺と彼女を除くプレイヤー全員が。


 気絶した俺と音原さんを尻目に悠々と扉を通過するプレイヤーの姿がありありと予想できた。圧倒的な優越感を浮かべ、惨めな俺達に同情するみんな。


 己の安息と引き換えに、俺達二人を生贄に差し出した――六人のプレイヤー。


 残り時間は十四分二十九秒。

 開始直後の九十分と比べ、だいぶ経過している。


「……私達、終わってしまったんでしょうか?」


 音原さんは電光掲示板を見た。十三分十一秒。


「制限時間をもう少しで過ぎちゃいますね。けど――これじゃ制限時間なんて関係ありません。みんな、とっくに扉を通過してますから」


 自分を嘲笑するような表情で音原さんは言った。そして、済まなさそうに俺を見た。


「すみません。雪見君を巻きこんでしまって。あの時、『鍵』を手放す必要はなかったのに」


「別にいいさ。俺も正直、あれ以上本居が虐げられる姿は見たくなかったしな」


「でも――」


「それに安心しろ。全ては俺の予想通りだ。このゲーム、()()()()()()()()()


          ◆◆◆



「――それってどういう意味ですか!?」


 音原さんがぐっと状態を反らして俺に訊いた。


「みんな『2』と『4』の扉が潜ってます! 二つの扉はとっくにプレイヤー要素を満たしてるんですよ!」


「確かにな。『2』と『4』の扉を使ってゲームクリアすることはおそらく不可能。――だが、あるんだよ。()()()()()()()()()()()()()


「第三の攻略法――ですか?」


「そうさ。実はこのゲーム。何も脱出経路は二つじゃないんだ。『2』と『4』の扉。確かにここを通過するのが正当法ではある。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ――事実、それは間違いなくある」


 そう言って、俺は床にある『2』つの『鍵』を指差した。――前に『アザリオ』が鳥井と佐伯に『銃』を交換する際に置いておいた、『2』つの『鍵』である。


「――変じゃないか? なんで、『アザリオ』は()()()()()()()()()()()『鍵』を『2』の部屋に置いたんだ? 答えは単純明快。――()()()()()()()()()()()()()()()()()


「つまり、プレイヤー要素はプレイヤーの数ではなく――『鍵』の数ってことですか?」


「その通り。『2』と『4』の扉に描かれたある数字は、通過するプレイヤーの数ではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 俺は頭上の『2』と書かれた天井を見上げた。


「そして、この『2』の部屋。この部屋こそ第三の扉の役割を示していた。ちょっと、付いてきてくれ」


 俺に促され随行する音原さん。俺達は部屋の隅っこにしゃがんだ。


「これを見てくれ。何かを剥がせるような跡があるだろ?」


 俺は部屋の隅にある“何か”を掴んだ。

 それは絨毯やカーペットみたいなやつだった。シールに類似した形状をしていて、ペロリとめくれるスタイルのやつ。


「こいつを()()()()()()


 俺はその“何か”を掴み――めくった。


 すると、シールみたいにあっさり取れた。俺はそのまま後退し、完全にその“何か”をめくった。


 音原さんが驚愕の息を上げる。


 “何か”を半分ぐらいめくった後には――()()()()()。『2』と記された厳格な扉だ。


 俺は紙みたいに薄っぺらい“何か”を手放し、音原さんに向き直った。


「この薄いシールの下に『2』の扉があった。目の前にある『2』と『4』の扉と全く無関係の第三の扉さ」


「なら、この天井の『2』っていうのは――」


「そう、床に隠蔽されてあった扉を通過するためのプレイヤー要素を示していた。そして、この部屋にはちゃーんと『2』つの『鍵』がある。『アザリオ』の置き土産と化した『2』つの『鍵』がな」



 俺達プレイヤーの最大の誤算は、プレイヤー要素の意味を履き違えたことだ。


 『2』+『2』+『4』=『8』。


 本居の提唱したこの方程式。式そのものは正解だが、その数字が意味するものは『プレイヤー』ではなく『鍵』の数。


 『2』と『4』の扉。そして、床に隠されてあった『2』の扉。そして、『アザリオ』が残した『2』つの『鍵』の意味――


 それは()()()()に過ぎない。『アザリオ』が残した『2』つの『鍵』と俺達の持つ『鍵』を総合すれば、ちょうど『8』個になるからだ。


 俺達は【天国ゲーム】の根本を見誤っていたというわけだ。


 俺は音原さんにその概要を説明した。


「――! なるほど。このゲームにそんな裏があったなんて。……けど、これで私達脱出できますか?」


「勿論。この隠された『2』の扉。プレイヤー要素である『鍵』の個数を満たしている。俺の推理はあくまで仮説だが――おそらく的を射ていると思う」


 俺達は『2』の扉を見た。南京錠や取っ手はなく、のっぺりとしている。


「つまり、()()()()()()()()()()()()()。それだけの話さ」


「――ふと思ったんですけど、先に『2』と『4』の扉を通過した六人はどうしたんでしょうね? もし、プレイヤー要素がプレイヤーの人数ではなく『鍵』の個数だったら――」


「間違いなく、鳥井を含む六人は失格だろうな。プレイヤー要素を満たさずに扉を通過したんだ。ゲークリアは俺達だけだと思う」


 俺達は『2』の扉を通過した―― 



          ◆◆◆



「おめでとうございます。雪見様・音原様。お二人の推理力にはこの『アザリオ』、誠に感服した次第で御座います」


 俺達を出迎えてくれたのは、異常に真っ白の壁と――【天国ゲーム】のディーラーである『アザリオ』だった。


 『アザリオ』は相変わらずのダークスーツをびっちり着こなし、サイケデリックな仮面を着用していた。


「しかし、良くこのゲームを本質をご理解なさいましたね」


「あんたの言動が明らかに妙だったからだよ。あんたがこう言ったことを覚えているか? “このゲームを支配するのはあくまで『鍵』”であると。それに、あんたがプレイヤー要素について深く言及しなかった様子。そして、『鍵』を放置するという不可解な行動。このゲームにはやばいカラクリがある。そう思わせるには十分過ぎるだろ?」


「さすがは雪見様。正鵠を射ております」


 『アザリオ』は丁寧に腰を折った。


「――『アザリオ』。俺達は一応扉を潜ったんだ。これでゲームクリア。早く『鍵』を寄越せ」


「勿論で御座います。すでに手配は済んでおります故、そう焦らずとも大丈夫かと――」


 そう言って、『アザリオ』はポケットから二つの『鍵』を取りだした。ゲームクリアの証たる代物。音原さんはびくびくと震えながらもそれを受け取った。同様にして俺も。


 だが、これだけで済むことはなく、『アザリオ』は不気味に微笑みながら――さらにもう二つの『鍵』を取りだした。


「これは――何ですか?」


 音原さんがそう尋ねる。


「何と言われましても――これはお二人のものではありませんか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ではありませんか」


 俺は『アザリオ』の真意を理解した。

 多分、『2』の部屋に放置されてあった二つの『鍵』のことを言ってるのだろう。確かに、俺達はその二つの『鍵』を利用した。本は鳥井と佐伯のものだが――つまり()()()()()()()


「いいじゃないか。とりあえず受け取っとくのが礼儀だろ」

 

 俺は『アザリオ』から二つの『鍵』を受け取り、そのうちの一つを音原さんに差し出した。なんとなく理解したらしい音原さんは、頬を緩めて『鍵』を受け取る。


 それを見た『アザリオ』はにやりとした莞爾(かんじ)を浮かべる。正直、気味が悪いからやめてほしい。


「それでは雪見様と音原様。九十分に及ぶ【天国ゲーム】お疲れ様で御座います。疲れているでしょうから――とりあえずお休みください」


 そう言うと同時に――視界が四次元的に湾曲した。前に『シエル』がしたような奇妙な催眠。海みたいなまどろみが俺を襲った。


「それでは、また()()()()()でお会いすることを願っております――」


 

          ◆◆◆



「――しかし、驚きましたよ。まさか、鳥井巫女の予想通りに事が進むとは」


 雪見鏡一と音原心が消え、『アザリオ』は呟いた。


 真っ白い部屋である。『アザリオ』は傍から見れば、間違いなく精神異常者に見える。しかし、彼の正体は――天使。暇で暇で仕方がない、ある意味堕落し切った天使の一人である。


 と、不意に残像。細かい粒子がブレ、『アザリオ』同様奇抜な格好をした男が出現した。


 瞬間移動である。


「――『クレリム』。ということは、次のゲームは貴方がディーラーということですか?」


 『クレリム』と呼ばれた男は、首肯した。


「【天国ゲーム】監修ご苦労でした。第二回戦は私に任せて、のんびりゲームを鑑賞しておいてください」


「そうですか。では、第二回戦の参加者はあらかた決まったのですか?」


「はい。先ほど通過されたばかりの雪見鏡一様と音原心様。そして、()()()()()()()()()()()()()()、ゲームを執り行いたいと思います」


「理解しました。それにしても、次のゲームは荒れに荒れそうな気がしますね。私の本命はあくまで鳥井巫女ですが――『クレリム』はどう読みますか?」


「私はあえて雪見鏡一様を推しましょうか。彼の頭の切れは侮りがたいものを感じます」


「――ダークホースの出現ですか。面白くなりそうですね」


「ええ。しかし、私が監督する第二回戦はそれほど甘くはありませんよ」


 『アザリオ』は凄然と笑い言った「それもそうでしょう。なんせ次のゲームは――」


「――【魔女狩りゲーム】なのですから」 




【天国ゲーム】は終了です。


御購読、心より感謝の意と表したいと思います。


第二回戦は【魔女狩りゲーム】。お楽しみにっ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ