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第四話 なぞなぞとけなかった

 

 一切の謎に包まれた摩訶不思議な【天国ゲーム】。俺を含むプレイヤー八名は、まるで予定調和であるかのように『鍵世界』なる亜空間に隔離される。そして、ここから離脱するためには、【天国ゲーム】をクリアしなければならない。



 そして、ゲームスタート。


 鳥井(とりい)佐伯(さえき)は『銃』の脅威を強調しながら、『2』と『4』の扉の南京錠解除を俺達に督促する。困惑する『鍵』グループのみんな。誰もが硬直状態になり、事態は低迷の一途を辿るかに見えたが――鳥井の提案によって、『鍵』グループ側の夏目(なつめ)不軌(ふき)の動きを見せる。夏目の造反により、状況は一気に瓦解し、事態は『鍵』グループ敗北かに思われた――


 が、雪見鏡一が提唱するもう一つの選択。これによって、現状は大きく変化することになる。


 雪見鏡一が提案した作戦。それは、『銃』グループ側に『銃』を放棄させ、全員に『鍵』を行き渡らせるというものだった。

 【天国ゲーム】の盲点。それは、ゲームクリアの有無に関係なく『鍵』一個さえ返却すれば、誰でも『鍵世界』から離脱できるという点。それを利用した平和策を打ち出す雪見鏡一。これにより、あらゆる不平等は控除され、プレイヤーたちは安堵とともに緊張の糸を緩めた。


 これで全ては円満に進む。

 雪見鏡一はそう確信していたが――事態は思わぬ方向へと進むことを誰が予測できたであろうか?


 ――鳥井巫女(とりいみこ)という存在を除いては。



          ◆◆◆



 空気は先ほどと違い、どこか緩んだものへと変遷しつつあった。


「雪見さんとやら。これで本当に助かるのじゃな?」


 そう俺に喚問したのは、菅本真一(すがもとしんいち)だった。年齢は六十過ぎで、まさに老翁と形容するにふさわしい雰囲気を持つ人だった。

 

 落ち着きを払って俺は答える。


「はい。この策の利点は犠牲者が一人も出ないことです。本居さん(もとおり)の言うとおり、プレイヤー要素はプレイヤーの人数を表しているとしたら――絶体的に二人のプレイヤーが犠牲になります。なぜなら、扉の数を足してみると『2』+『4』=『6』。こうなっては、二人だけクリアすることができません」


「ということは、天井の『2』という数字は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と解釈していいのじゃな?」


「おおむねそんな感じです」


 俺は答えた。それに満足したのか、菅本老人は老体を引きずって、部屋の隅に座った。どうやら腰が悪いらしく、ホームヘルパーの加藤(かとう)が手慣れた手つきで菅原老人を介護する姿が見えた。その時だけ、加藤は生き生きとしているようだった。それが、加藤の確固たるアイデンディティらしい。俺は加藤がいてくれてよかったと思った。


「さて、佐伯さん鳥井さん。分かっていますよね?」


 俺は佐伯と鳥井の方を見た。俺に習うようにして、『鍵』グループのみんなも二人を睨みつける。


 思わず一歩後ずさる佐伯。『銃』を乱雑に振りかざすが、俺の推理を聞いた後では、『銃』を用いた威嚇はまったくの無意味。それを承知のうえで、佐伯は必死に『銃』を振りまわしている。


「『銃』なんか怖くないね。さっさと『銃』を捨てろ!」


 夏目が赫怒するかのように言う。それを皮肉げに見るみんな。


 が、俺は調子のいい奴だとは思わない。


 普通に考えてみれば、夏目のああいった行動は何ら不自然じゃない。もしかしたら、俺がみんなを裏切る可能性すらあった。故に、俺は夏目を責める気には全くならない。


 団結する『鍵』グループ。俺達六人の意志は一つに固まった。


 丸腰の人間が武器を持った人間を追い詰める。


 そう言った構図が出来上がりつつあった。


 傍から見れば、それは明らかに不可解な光景だっただろう。しかし、『鍵世界』においてはそれが普通ではなくなる。


 壁際に追いつめられた二人。事態の主導権は完全に逆転しつつあった。


 ――かに見えた。


「詭弁よ。雪見君のいうことは全て詭弁だわ」


 一転、窮地に追い込まれた鳥井が言った。


「詭弁ねぇ。私には間違っているとは思えないけど」


 OLの本居はにやりとした笑みを浮かべ言った。


 それを聞いたみんなは、うんうんと首肯する。


「ただの言い訳だと思います。単なる時間稼ぎですよ」


「ずいぶんと冷ややかね、加藤さん(かとう)? さっきまでの諦観ぶりはどこに行ったのかしら?」


「それは希望が見えたからですよ。お金はちょっぴり欲しいけど……けど、やっぱり命には代えられません。私は雪見君に賭けてみようと思います」


 それを聞いた鳥井は、侮蔑の籠った表情を加藤に向けた。


「それが間違っているのよ。確かに雪見君の策はこの状況における最善だと思える。けど――それは否。むしろ、最悪な選択だわ」


「何が言いたいんですか、貴方は?」


「簡単な話よ。私には雪見君の策をはるかに上回るような素晴らしい策があるわ。ねえ、一回聞いてみない?」


 俺をはるかに上回る策。


 ヤバイな。もしかしたら――()()()()()()()()()()()()()()


 みんなはとりあえず進行をやめ、鳥井の話を聞く態勢に入る。無駄だと分かっても気になるのだろう。


 俺も気になる。


「雪見君の策には重大な盲点が存在するわ。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。実はこれ――嘘なのよ」


「嘘――ですか?」


 音原さん(おとはら)は不思議そうな声色で言った。


「そう、嘘。これは雪見君によって巧妙に仕組まれた罠なのよ」


 巧妙に仕組まれた罠。


 みんなの視線が俺に集中する。


「雪見君が言うには、私と佐伯さんが『銃』を発砲すれば――何もかも失うと言ったわ。一見すると、まさにそのとおりよ」


「なら――」


「音原さん。話はここからよ」


 鳥井は悪戯っぽく笑うと、話を続けた。


「しかし、これは一つの側面でしかない。別の角度から見ればいいわ。もし、私と佐伯さんが仮に誰か『2』人を『銃』で殺害したとする。すると――どうかしら? 合計人数は『8』人から『6』人に減るじゃない? そして、あの二つの扉。ゲームクリアの条件はプレイヤー要素を満たした上で通過すること。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうでしょう、本居さん?」


 話を振られた本居は、慌てて頷く。


「つまり、こう言うことよ。今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。すると、どうかしら? 『2』と『4』の扉の条件を見事に満たすじゃない。人数もプレイヤー要素もピッタリだわ」


 一気に静かになる。ただ、みんなの荒い息使いだけが、この場を支配する。


 『8』-『2』=『6』。

 そして、『6』=『2』+『4』。


 『8』はプレイヤーの数を表し、『8』から引かれる『2』は殺害されるプレイヤーの数を表している。そして、合計すれば『6』になる『2』と『4』は、二つある扉の満たされなければならないプレイヤー要素のこと。


 俺は心の中で舌打ちをした。


 鳥井の言う策はまったくもって正鵠を射ている。


 換言するなら、()()()()()()()()()()()()()


 事実、俺の策は穴だらけで、前提条件の欠落だけでいとも簡単に崩せる砂上の楼閣なのだ。


「――この中で、誰か二人を――()()。そうすれば、みんな元いた世界に帰還できるし、お金も手に入れることができる。これって最高の策じゃない? でしょう、雪見鏡一君?」


「…………」


 俺は黙るしかなかった。


「ゆ、雪見君……」


 音原さんが慄然とした眼差しで俺を見る。頷くこともできない。徹底的に俺の推理は否定された。なぜなら、俺の策は最善策とはほど遠いからだ。


「誰か『2』人を殺して、その死体から『鍵』を奪取する。そうすれば、みんな――お金を手に入れることができるわ」


 鳥井はそう言い、切れ長に伸びた口角で、


()()()()()。私達を追い詰めるより、そっちの方が問題じゃないかしら?」


 と言い、俺達に『銃』を突き付けた。そこに勝機を得たのか、佐伯も『銃』を構える。


 俺は奥歯をかみしめた。まさか、ここまで鳥井の頭が切れるとは。


 二つの鈍く光る銃口。それは夜を徘徊するゾンビのように、俺達のうちの誰かに標準を合わせる。


 再び逆転した立場。下剋上は再度繰り返された。


「なんだかんだで、このゲーム。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」  








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