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第三話 なぞなぞとけた

 突如、謎の密室空間の閉じ込められた高校生の『雪見鏡一』。仮面の男『アザリオ』から説明された奇妙なゲーム。

 それは【天国ゲーム】という未知なる遊戯だった。



      ~ゲーム内容~ 

                  

 1.プレイヤーは『鍵』を所持する八名で行われる。

 2.プレイヤーは『2』と『4』の扉をプレイヤー要素を満たした上で、通過することがゲームクリアとなる。

 3.『2』と書かれた扉の通過者には鍵一個につき二億円、『4』と書かれた扉の通過者には鍵一個につき一億円に返還することができる。また、プレイヤーは最高二つまでしか『鍵』を所持することができない。

 4.最高二人までのプレイヤーは、所持している『鍵』を『銃』と交換することができる(早い者勝ち)。また、『銃』には一発分の弾薬が装填されている。

 5.『銃』を所持したプレイヤーは『2』と『4』の扉の南京錠を解除することができない。

 6.制限時間は九十分。




     ~『鍵世界』の様子~


 広範とした空間。部屋の隅には『2』と『4』の扉が、各一個ずつある。また、天井には『2』と書かれている。中央には密閉された二つの『鍵』。



 【天国ゲーム】をクリアしたプレイヤーには無条件で『鍵』を一つ、天使側から与えられる。また、クリアできなかった者は、自動的に『鍵』一個を失う。

 所持している『鍵』を一個、天使に返却することで、『鍵世界』からの離脱が可能になる。

 



          ◆◆◆



 『アザリオ』は消えた。

 呼吸が止まるような沈黙が流れた。

 その静寂を破ったのは――鳥井(とりい)だった。


「ねえ、とりあえず自己紹介しない? 私達初対面だから――お互いのこと全然知らないでしょう? あっ、私の名前は鳥井巫女(とりいみこ)。東京でモデルをやってるわ」


 鳥井は朗らかに笑んだ。まるで、ここがどこかの喫茶店であると錯覚させるような気さくさだった。しかし、手でチラつかせている『銃』の存在が、この場の異常性を肯定させる。


 それは、暗に自己紹介をしないとどうにかなっちゃうよ? という脅し文句であった。


 どうなっちゃうんだろうね?


「確かにそうだな。俺の名前は佐伯恭平(さえききょうへい)。とある大学に通学している」


 佐伯もまた朗らかに笑んだ。まるで、ここが教室の中だと思わせるような軽快さ。しかし、鳥井同様にさりげなく銃口を俺達に向けている。『銃』を持たない俺達に、だ。


 余裕の表情を浮かべる二人。

 『銃』を所持する者(トリイ・サエキ)は笑う。

 『銃』を持たない者(オレタチ)は苦虫を潰したような表情を作る。


 無理もない。


 圧倒的強者からの無言の重圧。『銃』という絶対的権威。そんなヤバイものを所持した二人からの理不尽とも取られる命令。


 それは、『銃』と『鍵』の優越性を暗示しているようだった。


 そして、それが意味するものは――


 停滞。


 『銃』を持たない者(オレタチ)は無意識の内に口を噤んだ。下手に動いたら、“奴ら”(『銃』)の標的になるかもしれない。そういった、一抹の不安が行動に歯止めを掛けていた。


 そんな可能性なんて零だ。自己紹介しないくらいで撃たれるはずがない。


 理性では分かってはいるが、本能が行動全てを躊躇させる――


「俺の名前は雪見鏡一(ゆきみきょういち)。高二だ」


 だが、俺は屈しない。非条理な『銃』になんかに屈服しない。


「雪見鏡一君かあ、良い名前ね」


 鳥井はにっこりと笑う。なまじ綺麗なだけに、胸に迫るものがあるが――自粛。俺の視線には『銃』しか映らない。


「わ、私は音原心(おとはらこころ)です。雪見さんと同じ高校二年生です」


 それに触発されてか――音原さんが声を張り上げる。


 なんとなく気不味くなったのか、俺や音原さんに次いで、みんな、それぞれ自己紹介を始めた――


  

 雪見鏡一(ゆきみきょういち)――♂。高二。『鍵』。

 音原心(おとはらこころ)――♀。高二。『鍵』。

 鳥井巫女(とりいみこ)――♀。モデル。『銃』。

 佐伯恭平(さえききょうへい)――♂。大学生。『銃』。

 菅本真一(すがもとしんいち)――♂。老人。『鍵』。

 加藤京子(かとうきょうこ)――♀。ホームヘルパー。『鍵』。

 本居静香(もとおりしずか)――♀。OL。『鍵』。 

 夏目翼(なつめつばさ)――♂。新聞記者。『鍵』。



 ゲームのプレイヤーはこの八名。

 男:女=4:4の比率になっている。老若男女の差別はない。

 どうやら、神サイドの天使達は性別を考慮に入れてプレイヤーを選抜したらしい。


 だから、どうなんだって話だけど。



「なるほど、こういう内訳ってことか。大体の状況はつかめたぜ」


 『銃』の所持者――佐伯は我が物顔でそう言った。


 『鍵世界』は完全に二つの派閥に分担されていた。

 

 『銃』と『鍵』。


 人間の比率にして2:6だが、()()()()()()()()()()()()()()()()なのは変わらない。


 おそらく、()()()()()()()()()()()()()()()()()



「そういえば、『アザリオ』のいうプレイヤー要素って何なんでしょうか?」


「多分、プレイヤーの人数よ。ほら、二つの扉と天井の数を合わせたら、『2』+『4』+『2』=『8』になるでしょう。これはプレイヤーの人数とちょうどピッタリってわけ」


 音原さんの質問に、OLの本居静香(もとおりしずか)は自慢げに答えた。すると、周りからも肯定の声が聞こえた。


「プレイヤー要素はズバリ()()()()()()()()。それで間違いないわ」


 異論は出なかった。どうやら、それでみんなの意見は一致したらしい。


 ――とそこで、弱音を吐くような女性の声。


「……もう、結果は見えているような気がします。多分、私達の負けですよ……」 


 そう弱音を漏らしたのは、加藤京子(かとうきょうこ)だ。年齢は三十代前半で、老人ホームでホームヘルパーをしているらしい。黒髪は後ろに縛ってあって、バリバリのキャリアウーマンって感じの人だ。しかし、今は打って変わって憔悴しきっている。


「お、俺達って――俺も入ってるのかよ?」


 夏目翼(なつめつばさ)。ちょうど大学を卒業したばかりの新聞記者。その若さで新聞記者として食っているのだから――それなりの手腕があるのかもしれないが――なんかヘタレっぽい。

 俺の偏見かもしれないけど。


「勿論ですよ。私達『鍵』グループの負けです。そのまま『銃』に脅されて、徹底的にむしり取られますよ。一刻も早く『鍵』を『銃』に交換すべきでした」 


「そんなこと言わないでください! 諦めたら全てが終わっちゃいますよ!」


「音原さんの言うとおり。みんなで考えるんだ」


 俺がそう呼びかけるが、みんな気まずそうに目を逸らした。そして、誰かが「もうダメかもしれない」とボツリと漏らした。

 それを皮切りに、佐伯が攻める。

 

「そういうことなんだよ。どう考えてもお前らの負けは決定している。俺達『銃』グループによってな」


 そういって、佐伯は満遍の笑みで鳥井の方を見た。


「佐伯さんの言うとおりだわ。早く、『2』と『4』の扉の南京錠を開けてくれない?」


 鳥井は黒光りする銃口を俺達につきつけた。同様にして、佐伯も『銃』を水平に持ち上げる。

 カチャリと言う小気味良い音。俺を除く全員がブルっと震える。  

 

「早く開けないと――死ぬぜ。こう、バーンってな。最高にクールな死に方だぜ」


 佐伯は『銃』に撃たれるようなジェスチャーをする。そうやって、俺達の恐怖心をあおろうとしていることがバレバレだった。むしろ、滑稽と言えるレベルだった。


 しかし、そんな忠告でも――『銃』という確然たる存在は変化しない。いくら、『銃』の所持者がああでも、『銃』の脅威そのものは消えない。


 冷え切った空間。抑制される意思。


 そして。


「ならこうしましょうか。一番早く南京錠を開けた者。その人には絶対に撃ちません。南京錠を解除してもらう代わりに、絶対に『銃』のターゲットにはしない。ギブ(GIVE)ンド()テイク(TAKE)。この条件なら――開けてくれるかしら?」


 魅力的な提案。それに後押しされた夏目が動いた。


 ――()()()()()()()()()()()


 何よりも重視されるのは――自分の命。自分が南京錠を開ける代わりに、『銃』グループに保護してもらう。それでは『鍵』グループを裏切ることと同意義だが、バック(BACK)には強大な存在(『銃』グループ)が控えている。


 唖然となる『鍵』グループのみんな。


 そして、慌てて動き出す。夏目の蛮行を止めるために。

 

 否。


 ()()()()()()()()()()()()、夏目の進行を阻止する。


 が。


 『銃』。


 そいつが抑制力となって、みんなの行動を厳しく制限する。一歩が踏み出せなくなる。


 哄笑を漏らす佐伯。妖艶に笑う鳥井。絶望に歪むみんな――



「――夏目さん。止めた方が良い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ビクリ。


 俺の言葉で、思わず動きを止める夏目。そして、日本人形のように首だけ動かし、俺にこう問うた。


「ど、どういう意味だい、雪見君?」


「考えても見てください。もし、俺達『鍵』グループが南京錠を開けずにゲームが終了したらどうなりますか?」


 一瞬呆けたような表情を浮かべる夏目。どうやら俺の言った意味が咀嚼出来ていないようだった。

 難しい顔を作り、思案するような表情。そして、弱い声色で言った。


「……ゲームは終わり、全てのプレイヤーが『鍵』一個分を失う――よな?」


 ――いや、違う! ああ! そういうことか!


 夏目は瞳孔を開いて、驚愕の息を上げた。その勢いのまま言葉を紡ぐ。


「俺達『鍵』グループには一個分『鍵』があるけど、『銃』グループには()()()()()()()()()!」


「その通りです。つまり、俺達はゲームクリアできなくても、『鍵』一個失うだけでプラマイゼロで済みますが――『銃』グループの鳥井さんと佐伯さんは、無条件で鍵一個を失う。そして、気付きましたか? この【天国ゲーム】。『アザリオ』が言うには、まだ()()()()()()()()? ってことは――ひょっとしたら()()()()()()()()()()()()。そして、一回戦の『鍵』の数が次のゲームに影響するかもしれない」


「だとしたら、『銃』グループは圧倒的に不利。マイナス一個の状態で次のゲームに臨まなくちゃならない――」


「そういうことです。別に南京錠を開ける必要はないんですよ。このまま何もしなくても、『銃』グループは窮地に陥ります。ゲームが終われば『鍵』の数はマイナス一。かといって、俺達に向かって発砲したとしても――自分の首を絞めるだけ。こちら側に被害が及ぶことは絶対にない」


 俺の推理に呑まれる七人。特に『鍵』グループ側の人間は、一筋の光明を見出した目をしていた。


「でもよぉ、俺達の言うこときかないと――撃っちゃうよ。君死ぬよ? それでもいいの?」


 若干の焦燥感が含まれた言葉。しかし、こういう反応は想定範囲内。俺は続けた。


「――確かに、佐伯さんの言うことは一理あります。しかし、果たしてそれで良いんでしょうか? 仮に佐伯さんが俺に向けて発砲したとしましょう。十中八九俺は死にます。ただその場合――佐伯さんは全てを失ってしまう。『鍵』も『銃』も何もない状態。それがいかに危険か――分かりますよね?」


 ううと、ひるむ佐伯。その状況を想像したのだろう。唇はわなわなと恐怖に震えている。


「結局のところ、『銃』はかりそめの抑制力。あってもさほど意味をなしません。しかし、『鍵』はどうでしょう? 例えばこう言う考え方もできます」


 俺は一旦息を吐いて、神妙に言った。


「今から佐伯さんと鳥井さんに――『銃』を床に向けて発砲して『銃』を捨ててくださいと命令する。一見、馬鹿げた発想かもしれませんが――案外、これは妙案なんです。なぜなら、俺の命令に従った場合、無用になった『銃』を捨てることができますから。逆に言えば、『銃』の利用価値は零になります。つまり、佐伯さんや鳥井さんでも南京錠を開けることができる。そして、『鍵』の配分です」


 俺は佐伯と鳥井を見た。佐伯はおろおろと鳥井の方を見て、まるで迷子のように見えた。鳥井の方は佐伯を無視した形で静観を決め込んでいた。


「今現在、『鍵』の配分は佐伯さんと鳥井さん以外――みんな一個ずつあります。鍵は合計で六個。そのうち二つずつを、佐伯さんと鳥井さんに配布し、ここに残ってもらいます。残りの六人は『2』と『4』の扉を通過し、ゲームクリア。天使から『鍵』一個を貰います。そして、残った佐伯さんと鳥井さんは『鍵』一個没収されます」


 と言い、ここからが重要ですとも言った。


「結果――ゲームクリア組には少なくとも『鍵』が一個存在し、佐伯さんと鳥井さんにも『鍵』が一個ずつ存在する。そして、思い出してください。『鍵世界』から離脱するには何が必要でしたか?」


「『鍵』一個……だよね」


 音原さんは控えめに言う。俺は待ってましたと言わんばかりに言った。


「御名答。これで全員に『鍵』が行き渡ります。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()というわけです」


「な、なるほど。これだったら、何の不利益もなしにここから脱出できる。賞金はないけど――()()()()()()()()()()()!」


 夏目は嬉々とした声でそう言った。みんなも安心したような表情を作り、不安はかなり抜けきっていた。


「一億円は惜しいですが――まずは、生命の確保が絶対です」


「し、しかし、それじゃぁ、金が出ないだろうが。俺は嫌だぜ!」


「なら――ここまま一生をここで過ごすとでも? 何もない空間で人生を終えたいとでも?」


 ぐっと詰まる佐伯。いつの間にか銃口が下がっており、完全に俺の勢いに呑まれているのが分かる。


「この作戦を使えば――絶対に還れます。元いた世界に――ね」 


「すごい! 雪見君って天才だよ。普通、こんな短時間でそんなすごいの思いつかないよ!」


 音原さんからの称賛の声。俺は嬉しくなって頬をかいた。


「――つまり、このゲーム。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


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