第99話:『エピローグⅠ:新世界「アトラス」』
――それから、5年の月日が流れた。
かつて帝立魔導院アトラスが存在した場所には、今や巨大な未来都市が広がっていた。
『機工魔導都市アトラス』。
それが、この新しい国の名前だ。
「うわぁ、見て! 最新型の魔導列車が通るぞ!」
「すごい静かだね。あれもシキ様の発明だって」
整備された大通りを、子供たちがはしゃぎながら駆け抜けていく。
街行く人々の手には、杖ではなく、小型の魔導端末が握られていた。
魔力を持つ者も、持たない者も、技術によって等しく魔法の恩恵を受けることができる世界。
かつて「欠陥品」と呼ばれた男が夢見た景色が、そこにはあった。
その都市の中心に、天を衝くような巨大な白亜の塔がそびえ立っている。
『中央管理塔』。
この国の心臓部であり、かつての世界を救った英雄たちが暮らす場所だ。
†
「――本日の定例会見を終わります。市民の皆さん、今日も良い一日を!」
街頭の巨大モニターに、溌剌とした笑顔の美女が映し出された。
燃えるような赤髪をなびかせ、凛とした軍服に身を包んだ彼女――レナだ。
「きゃーっ! レナ様よ!」
「相変わらずお美しい……! 我らの『炎の守護神』だ!」
街中から歓声が上がる。
彼女は現在、都市国家アトラスの『防衛長官』を務めている。かつてのような破壊の化身ではなく、市民を守る頼もしいリーダーとして、絶大な人気を誇っていた。
一方、タワーの執務室では。
「……はぁ。やっと終わったわ」
カメラが止まった瞬間、レナは机に突っ伏した。
「もう! 書類仕事ばっかりで肩が凝るわね。……昔みたいに暴れ回ってる方が楽だったかも」
「あら、贅沢な悩みですわね、レナ長官」
涼やかな声と共に、紅茶を運んできたのはエミリアだ。
彼女はシックなドレスに身を包み、この国の『教育統括』として、新しいアカデミーの学長を務めている。
「貴女のサイン一つで予算が動くのですから。……私の学校なんて、入学希望者が殺到してパンク寸前ですわ」
「ふふ。平和なのは良いことだが、あまりシキを独占しようとするなよ。国家代表である余の決裁が滞るではないか」
優雅に扇子を広げながら現れたのは、エレオノーラだ。彼女はこの国の『最高元首』として、旧帝国の民と新時代の架け橋となっていた。
「それだけ平和ってことだよ、みんな」
窓から風のように飛び込んできたのはリズだ。
彼女は『エネルギー省』のトップとして、都市全体の魔力供給網を管理している。その足には、開発中の新型ブースターが装着されていた。
「電力供給、オールグリーン! オメガちゃんたちが制御してくれてるから、停電なんてありえないしね」
リズの言葉通り、街のインフラ整備には、かつての敵であったオメガ・シリーズが大きく貢献していた。彼女たちは今や、人間と共存する良き隣人として社会に溶け込んでいる。
「ふふ。街の復興率も、ついに98%を超えました」
壁の隠し扉から、ソフィアが顔を出した。
彼女は『都市開発局長』。その重力魔法を建設に応用し、この巨大都市をわずか数年で作り上げた立役者だ。
「そして、他国との外交関係も極めて良好……。脅威レベルはゼロです」
天井の通気口から、クレアが音もなく着地する。
彼女は『情報局長』として、世界の動向を監視し、平和を裏から支えている。
かつて『五大元素』の乙女、そして帝国皇女として恐れられ、兵器として扱われていた6人の少女たち。
彼女たちは今、それぞれの才能を活かし、国の重鎮として、そして誰もが憧れるアイドルとして、眩い光の中で生きていた。
「ねえ。……そろそろ『あの人』の時間じゃない?」
レナが時計を見て、悪戯っぽく笑った。
その一言で、全員の表情が「国の指導者」の顔から、「恋する乙女」の顔へと一斉に変わる。
「そうですわね。公務はここまでです」
「行こう! 遅れるとすねちゃうからね!」
彼女たちは椅子を蹴り、書類を放り出し、執務室を飛び出した。
目指すのは、このタワーの最上階。
世界で一番大切な、彼女たちの「帰る場所」があるペントハウスへ。
平和な世界の象徴である彼女たちが、唯一、公務よりも優先する時間。
それは、世界を救った大天才技師との、甘い甘いプライベートタイムだった。




