表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/101

第94話:『世界規模メンテナンス。この星は「不感症」だ』

 情報の海を漂いながら、シキは顔をしかめた。


「……酷いな。なんだこの配線スパゲッティ・コードは」


 目の前に広がるのは、この星のシステム構造図。

 だが、それは美しい幾何学模様ではなかった。継ぎ接ぎだらけのバイパス、無理やりねじ曲げられたエネルギーライン、そして赤く点滅する無数のエラーログ。


『何ガ不満ダ? システムハ稼働シテイル。効率ハ最適化サレテイル』


 皇帝のホログラムが、シキの背後に現れて告げる。


『感情ナドトイウノイズヲ排除シ、無理矢理ニデモ回ス。ソレガ最モ無駄ノナイスペックダ』


「……やっぱり、お前は何も分かってねえな」


 シキは仮想空間に浮かぶ「システムの深層部」に手を伸ばした。

 指先に伝わる感触。それは、ガチガチに凝り固まり、冷え切った岩のようだった。


「悲鳴が聞こえねえのか? この星はずっと泣いてるぞ」


 シキの目には見えていた。

 1000年もの間、休息も許されず、ただ「生きろ」と命令され、酷使され続けてきた回路の痛みが。

 循環不全を起こし、感覚が麻痺し、それでも動くことを強要された末の姿。


「こんなガチガチの配線じゃ、いい出力が出るわけがねえ。……これじゃあ、マグロ以下だぞ」


 シキは技師として、そして男として、心底から憤った。


「この星は壊れてるんじゃない。……ただの重度の『不感症フリーズ』だ」


『フ、不感症……ダト……?』


「ああ。お前が痛みを無視し続けたせいで、回路が感覚を閉ざしちまってるんだよ」


 シキの瞳が妖しく光る。

 彼は両手を広げ、巨大な光の柱――マザー・コアの中枢プログラムに、指を沈めた。


「どけよ、ポンコツ管理者。……本当の『メンテナンス』ってやつを見せてやる」


 シキの指が動く。

 それはハッキングでありながら、熟練のマッサージのようでもあった。

 詰まっていた情報(血流)を流し、強張ったセキュリティ(筋肉)を優しく撫で、断線しかけた回路(神経)を丁寧に繋ぎ合わせていく。


『警告。システム内圧上昇。……ナ、ナニヲシテイル!? 演算速度ガ……乱レル……!』


 皇帝が狼狽する。

 シキが触れるたび、赤色だったエラーログが、柔らかなピンク色の光へと変わっていくからだ。

 それは「異常」ではない。「活性化」だ。


「ここが詰まってるな。……ずっと苦しかったろ?」


 シキは星に語りかけるように、コアの深部を刺激した。

 コリコリと凝り固まった結節点ノードを、強弱をつけて押し揉む。


 ズズズズズ……ッ。

 現実世界のアトラス地下空間が、、そして惑星全体が、甘い吐息を漏らすように微震した。


『馬鹿ナ……。マザー・コア・システムガ、快楽信号プレジャーヲ発信シテイル……!? 星ガ、感ジテイルトデモ言ウノカ!?』


「機械も人間も一緒だ。……愛して、撫でて、気持ちよくさせてやりゃあ、最高のパフォーマンスを返してくれるんだよ」


 シキの手つきは、さらに激しさを増していく。

 優しく、時に強引に。

 何千年もの間、誰にも触れられなかった星の性感帯コアを、徹底的に開発していく。


「ほら、いい声で鳴き始めた。……配線が解れて、熱が回りだした証拠だ」


 光の奔流が、シキの腕に絡みつくように脈動する。

 それは拒絶ではない。もっと触れてほしいという、星そのものの渇望。


「さあ、ここからが本番だ。……全身トロトロになるまで、たっぷりと可愛がってやるから覚悟しろよ?」


 世界最高の技師による、惑星規模の愛撫。

 凍りついていた星の回路が、熱い喜びに震えながら再起動を始めようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ