第93話:『システム侵入。星の深淵に触れる』
5人の魔女たちが命を削ってこじ開けた、神の障壁の大穴。
その向こう側にある空間の中心に、それは鎮座していた。
直径数十メートルにも及ぶ、脈動する光の結晶体――『マザー・コア』。
この星の全ての魔力を生み出し、環境を制御し、人類を管理してきた神の脳髄。
「……見つけたぜ。ここが、この星のCPUか」
シキは荒い息を吐きながら、結晶体の前で足を止めた。
近づくだけで肌が焼けるような、圧倒的なマナの密度。
だが、シキは止まらない。
『警告。不正規アクセスを検知。……これ以上近づけば、存在を消滅させる』
コアの中から、皇帝の焦燥に満ちた声が響く。
結晶の表面から、拒絶のスパークがバチバチと迸り、シキを弾き飛ばそうとする。
「うるせえ。……俺には『招待状』があるんだよ」
シキは右手を振り上げた。
その腕は、自身の『虚数回路』のフル稼働によって、空間そのものを抉り取る漆黒のオーラを纏っていた。
「――『虚数穿孔』ッ!!」
ドゴォォォォンッ!!
シキは躊躇なく、その右腕を光り輝く結晶体へと突き刺した。
『ギ、ガァァァァァッ!? 物理接触!? あり得ナイ……私の防壁ヲ、中和シタダト!?』
ガラスが砕けるような鋭い音と共に、シキの腕が肘までコアの中にめり込む。
強烈なフィードバック。
腕の神経が焼き切れそうなほどの熱量と、脳を直接殴られるような情報の濁流が、シキの体を駆け巡る。
「ぐ、ウゥゥッ……!!」
シキは歯を食いしばり、脂汗を流しながらも、さらに深く腕をねじ込んだ。
この痛みは、レナたちが味わった痛みに比べればどうということはない。
「……痛いか? 皇帝」
シキは歪んだ笑みを浮かべ、コアの奥底に触れた指先に力を込めた。
「でも我慢しろ。……これから大規模改修の時間だ」
カッッッ!!!
シキの『虚数回路』が、マザー・コアのシステム領域へと強制接続する。
――その瞬間。
シキの視界から、物理的な色彩が消え失せた。
†
気づけば、シキは「海」に漂っていた。
水ではない。
0と1の羅列、幾何学模様のルーン文字、膨大な数式。
この星の1000年分の歴史、気象データ、全人類の個人情報……あらゆる事象が光の帯となって流れる、情報の深淵。
『侵入者……。貴様、ナニヲスル気ダ……』
情報の海に、皇帝の顔をした巨大なデータ集合体が浮かび上がる。
ここは奴の体内であり、絶対的な支配領域。
「決まってるだろ」
シキの身体もまた、光のデータとなって再構成されていた。
彼は白衣の裾をなびかせ、仮想空間に浮かぶ無数のウィンドウ(操作パネル)を空中に展開した。
「今から俺が『管理者』だ。……手始めに、お前のふざけた『人類削除計画』のプログラムを、跡形もなくバグらせてやる」
シキの瞳が、青白く発光する。
ここからは、魔力も筋力も関係ない。
一人の技師の知能と計算速度が、神の演算能力に挑む、電子と魔術の最終戦争が始まった。




