第92話:『乙女たちの献身。命を燃やす「道」』
「シキ! 右へ30度! そのまま突っ走って!」
光の巨神が放つ極太のレーザーを、シキは紙一重で回避し続けていた。
だが、近づけない。
皇帝の周囲には、絶対防御の障壁と、隙間のない弾幕が展開されている。
「くそっ……! 解析は済んでるのに、物理的に手が足りねえ……!」
シキが歯噛みする。
「どこに攻撃が来るか」は分かっても、「全てを避けて通る」隙間が存在しないのだ。
このままではジリ貧だ。そう誰もが悟った瞬間、彼女たちが動いた。
「――隙間がないなら、こじ開めるまでだよ!」
リズだった。
彼女は脚部の魔力回路に、許容量を遥かに超える負荷をかけた。
バチバチバチッ!! 紫色の稲妻が、彼女の足を内側から焼き焦がす。
「リズ、やめろ! 脚が保たないぞ!」
「関係ないっ! ……シキを届けるためなら、脚なんて飾りだよ!」
ドォォォンッ!!
音速の壁どころか、雷速さえ超えた一閃。
リズは自らの筋肉が断裂する音を聞きながら、シキの目の前に展開された弾幕の全てを斬り落とした。
着地と同時に、彼女の両足から鮮血が吹き出し、崩れ落ちる。
「……シキ、今だッ!」
道が開いた。だが、コアからの強烈な閃光がシキの目を焼こうとする。
「させない……!」
クレアが銃を構えた。
直視すれば網膜が焼けるほどの光。だが、彼女は瞬き一つせず、目を見開いて照準を合わせた。
「私の目が焼けても……シキの道は、私が照らす!」
ズドンッ!!
クレアの瞳から光が失われるのと同時に、放たれた弾丸が光源装置を正確に撃ち抜いた。
「ぐぅっ……!」
クレアが目を押さえて倒れる。
闇が戻った空間に、今度は上空から数千トンの重力プレスが降り注ぐ。
「ここは、通しませんッ!!」
ソフィアが真上に盾を掲げた。
魔力障壁など意味をなさない物理質量。彼女はそれを、生身の肉体で強化した盾で受け止めた。
メキメキメキッ……!
全身の骨が軋み、悲鳴を上げる。
「ソフィア!」
「行って……ください……! 私が潰れる前に……早くッ!」
口から血を吐きながら、ソフィアがプレスを支え続ける。
その下をシキが駆け抜ける。だが、マザー・コアが放つ『絶対支配』の干渉波が、シキの脳を直接書き換えようと迫る。
「――行かせは、しませぬ……ッ!」
エレオノーラが震える指で空中に数式を描いた。
彼女は自らの脳を演算器としてオーバーロードさせ、シキを操ろうとする神の意思を真っ向から押し返した。
「あ、が……ッ! 余の、意識が……溶けて……っ!」
精神回路が焼き切れ、鼻から血が滴る。それでも彼女は、シキの精神を守る防壁となり続けた。
目の前には、最後の壁――皇帝を守る多重次元断層。
「最後よ、エミリア!」
「はい、レナさん!」
レナとエミリアが、左右から壁に取り付いた。
極大の『炎』と、絶対の『氷』。
相反する二つのエネルギーを、彼女たちは自らの体を導管にして、ゼロ距離で障壁に叩き込んだ。
「あぁぁぁぁぁぁッ!!」
熱膨張と収縮。急激な温度変化による物理的破壊。
その反動で、二人の腕の皮膚が弾け飛び、魔力回路がズタズタに焼き切れる。
パリィィィィィンッ!!
神の障壁に、人が通れるだけの「大穴」が空いた。
その向こうには、驚愕に揺れる皇帝のコアがある。
だが、振り返れば、6人の少女たちはボロボロになり、床に倒れ伏していた。
足のないリズ、目の見えないクレア、骨の砕けたソフィア、精神回路の焼き切れたエレオノーラ、腕を失ったレナとエミリア。
「お前ら……!」
シキが足を止める。
「止まらないで!!」
レナが叫んだ。
血まみれの顔で、彼女はニカっと笑ってみせた。
「行って、シキ! ……私たちの体なんて、どうせアンタが後で直してくれるんでしょ!?」
「……っ!」
「世界一の技師なんでしょ!? だったら、こんな傷……ちょちょいのちょいで治してみせなさいよ!」
それは、シキへの絶対的な信頼だった。
どんなに壊れても、シキがいれば大丈夫。だから、命ごと投げ出せる。
「……ああ、当たり前だ」
シキは涙を堪え、前を向いた。
彼女たちの命が作った、血濡れのレッドカーペット。
それを無駄にすることなど、できるはずがない。
「待ってろ。……世界を救って、すぐに戻る!」
シキは工具を握りしめ、最後の疾走を始めた。
神の喉元へ。愛する「壊れたお姫様」たちを、もう一度抱きしめるために。




