第90話:『星の最深部。マザー・コアの暴走』
「――あ?」
シキは、身体の自由を奪おうとするシステム干渉を、気合だけで振り払った。
そして、煌めく玉座の皇帝に向かって、右手を高く突き出した。
人差し指と薬指を畳み、中指だけを立てて。
「お断りだ。……クソ喰らえ」
「……理解不能。なぜ拒絶する? これは最も効率的な解だ。君が新たな核となれば、君の愛する個体群(彼女たち)も君の中で永遠に生きられる」
「だから、それが気に入らねえって言ってんだよ」
シキは不敵に笑い、言い放った。
「俺は技師だ。……壊れたものは直すし、気に入らない仕様なら書き換える。誰かを犠牲にしなきゃ回らない欠陥システムなんざ、俺がこの手でスクラップにしてやる」
その言葉が、宣戦布告の合図だった。
「……交渉決裂。残念だ、イレギュラー」
皇帝のホログラムが明滅し、背後に鎮座していた巨大な光の結晶体――『マザー・コア』へと吸い込まれていく。
「ならば、管理者権限により強制排除する。……私が直接、この星の全エネルギーを行使して」
ズズズズズズ……ッ!!!
空間が悲鳴を上げる。
マザー・コアが脈動し、青白い光の触手が無数に伸びた。それは人の形を捨て、幾何学的な光の巨神へと変貌していく。
この星の全魔力を統べる、文字通りの「神」の顕現。
「来るわよッ! みんな、最大火力で迎撃を!」
レナが叫び、極大の火球を放つ。
リズが、ソフィアが、エレオノーラが、ありったけの魔力を叩き込む。
だが。
「無駄だ。……全ては私が与えたリソースに過ぎない」
巨神となった皇帝が手をかざすと、彼女たちの放った魔法は、霧のように分解され、コアへと吸い込まれてしまった。
「嘘……私の炎が、食べられた……?」
「魔力が……吸い取られていきますわ……ッ!」
攻撃が通じないどころか、こちらのエネルギーが相手の糧になってしまう。
絶対的な相性差。
魔力で動く存在である限り、魔力の根源には逆らえないのだ。
「全システム、正常稼働。……さあ、還るがいい。塵へと」
皇帝が掌を向ける。
そこには、都市一つを消滅させるほどの圧縮魔力が渦巻いていた。
絶望的な破壊の光。誰もが死を覚悟した、その時。
「――やれやれ。やっぱり、ポンコツ機械の相手は俺の仕事か」
シキが、たった一人で前に出た。
魔力を持たない彼は、皇帝の「魔力吸収」の影響を受けない。
彼は白衣のポケットからいつもの工具を取り出し、巨大な神を見上げながら、ニヤリと笑った。
「安心しろ、お前ら。……あいつは神様なんかじゃない。ただのデカい故障品だ」
シキの『虚数回路』が、臨界点を超えて唸りを上げる。
「さあ、メンテナンスの時間だ。……バグだらけのこの星ごと、俺が修理してやるよ」
魔力ゼロの技師対、全知全能のシステム。
世界の命運を賭けた、最後の修理が始まった。




