第88話:『学園崩壊。思い出の校舎を突き抜けて』
ズズズズズ……ドゴォォォォンッ!!
帝都防衛システムの自爆攻撃により、アトラス学園の壮麗な校舎が悲鳴を上げて崩れ落ちていく。
天井が抜け、巨大なコンクリート塊がシキたちの頭上に降り注ぐ。
「――させません!」
ソフィアが前に出る。
彼女が展開した重力障壁が、数トンある瓦礫を空中でピタリと静止させ、粉々に砕いた。
「マスター、お怪我はありませんか!?」
「ああ、助かった。……だが、道が塞がったな」
シキが指差した先、廊下は崩落し、足場が消失していた。
だが、彼らに停滞は許されない。
「問題ないよ! 道がないなら、作ればいい!」
リズが紫電を纏って飛び出した。
彼女は崩れ落ちていく瓦礫を足場にして駆け抜け、対岸の敵兵を瞬時に斬り伏せると、壁を蹴ってこちらに手を伸ばした。
「ほら、シキ! 捕まって!」
シキはリズの手を取り、崩壊する校舎の中を空中ブランコのように飛び移る。
その背後で、瓦礫の隙間から狙撃銃の銃口が光った。
「……3、2、1。クリア」
クレアだ。
彼女は崩れる壁のわずかな隙間を通して、遥か遠くで待ち構えていた敵のスナイパーを正確に撃ち抜いていた。
崩壊というカオスすら味方につけた、神業的な射撃。
「あーあ……。見てシキ、あそこ」
走りながら、レナが崩れ落ちた壁の向こうを指差した。
そこに見えたのは、黒板と机が並ぶ教室――かつてシキと彼女たちが過ごした『1年A組』の教室だった。
だが次の瞬間、上の階が崩落し、思い出の教室は瓦礫の下に押し潰されて消滅した。
「私たちの教室が……。あそこでシキに怒られたり、お弁当食べたりしたのに」
「悲しいか?」
「ううん」
レナは力強く首を横に振った。
舞い上がる砂煙の中で、彼女は前だけを見据えていた。
「いいのよ。どうせ新しい未来を作るんだから! ……過去にしがみついてちゃ、シキの隣は歩けないわ」
「……いい度胸だ。卒業試験は合格だな」
シキはニヤリと笑い、瓦礫の山を滑り降りた。
目指す場所は、校舎の最下層。
かつて『魔力ゼロの落ちこぼれ』だったシキが、毎日一人で掃除をさせられていた場所だ。
「こっちだ。……嫌になるくらい、よく知ってる道だからな」
迷路のように入り組んだ地下通路を、シキは迷いなく進んでいく。
やがて彼らは、埃っぽい最奥のエリア――『第3地下備品倉庫』へと辿り着いた。
カビ臭い空気。古びたモップやバケツが転がっている。
「ここは……?」
「俺の元職場だよ。……そして、この奥だ」
シキは倉庫の突き当たりにある、巨大で重厚な『開かずの扉』の前に立った。
厳重な鎖と、数え切れないほどの封印術式が施された扉。
生徒たちの間では「開けると退学になる」と噂されていた場所だ。
「まさか、世界の心臓部への入り口が、こんなゴミ捨て場の奥にあったなんて……」
エミリアが絶句する。
「灯台下暗しってやつだ。……俺は毎日、この扉のノブをピカピカに磨かされてたんだぜ? その向こうに世界を終わらせるスイッチがあるとも知らずにな」
シキは自嘲気味に笑い、ポケットから工具を取り出した。
封印術式など、今の彼には何の意味も持たない。
「開けるぞ。……この扉の向こうが、世界の底だ」
カチャリ。
シキが『虚数解錠』を発動させると、数百年閉ざされていた重い扉が、軋んだ音を立ててゆっくりと開いた。
そこから溢れ出したのは、目が眩むような青白い光と、圧倒的なマナの奔流だった。




