第87話:『帝都決戦。旧時代の英雄(レジェンド)たち』
アトラス学園の中庭。
舞い上がった土煙が晴れると、そこには異様な威圧感を放つ5つの影が立っていた。
「……嘘でしょ? あれ、歴史の教科書で見たことがあるわ」
レナが目を見開く。
古風なローブ、時代がかった杖や剣。だが、その身体から溢れ出る魔力は、現役の近衛師団長クラスを遥かに凌駕している。
「『紅蓮の賢者』バルバロス……。『雷光の剣聖』ジークフリート……。まさか、過去の英雄たちを蘇らせたのですか?」
ソフィアが戦慄する。
彼らは数百年前、魔法史に名を刻んだ伝説の魔導師たち。皇帝は、死者の魂すらもシステムの一部として再利用し、最強の防衛装置として配置していたのだ。
「――排除する」
『紅蓮の賢者』が杖を振るう。
詠唱破棄。無駄のない所作。放たれたのは、現代の魔法理論では再現不可能とされる古代魔術の炎だった。
「くっ、速い……!」
レナが炎で相殺しようとするが、技量の差で押し負け、数歩後退させられる。
他の4人も同様だった。リズの速度が剣聖に見切られ、エミリアの氷が古の術式に解凍される。
圧倒的な「経験」と「技術」の差。
英雄たちは感情を見せず、ただ淡々と、完成された暴力でシキたちを追い詰めていく。
「……見事なもんだ。教科書通り、100点満点の動きだな」
だが、シキだけは慌てていなかった。
彼は腕組みをしたまま、退屈そうに英雄たちを見定めていた。
「だが、つまらん。それは『一人で戦うため』に完成された、古い強さだ」
シキが指を鳴らす。
その瞬間、彼の『虚数回路』から目に見えないラインが伸び、レナたち5人の背中に接続された。
「接続。……教えてやれ、お前ら。今の時代の『最強』がどういうものかを」
シキの魔力が流れ込んだ瞬間、レナたちの瞳の色が変わった。
個々の戦いではない。5人の魔力、そしてシキの制御がリアルタイムで同期する。
「はぁぁぁぁッ!!」
レナが踏み込む。
『紅蓮の賢者』が再び迎撃の古代炎を放つ。
だが、レナはそれを避けなかった。
直撃の瞬間、エミリアの氷がレナの皮膚を覆って熱を遮断し、ソフィアの重力が炎の軌道を僅かに逸らす。
連携などという生ぬるいものではない。あたかも一つの生き物のような超反応。
「な、何だこの動きは……!?」
英雄の表情に初めて焦りが浮かぶ。
炎を突破したレナは、賢者の懐に飛び込んだ。
その拳には、自身の炎に加え、リズの紫電による加速、シキの『虚数』による貫通属性が付与されている。
「古いな、おじいちゃんたち」
レナが獰猛に笑い、燃え盛る拳を振りかぶった。
「個人の技量? 伝統? ……そんなのカビが生えてるわよ」
彼女の背後には、シキがいる。仲間がいる。
愛する男と繋がり、全てを委ねることで生まれる、無限の出力。
「今のトレンドはね……『シキとの合体技』よッ!!」
ドゴォォォォォォンッ!!!
極大の爆発が、伝説を飲み込んだ。
『紅蓮の賢者』の防御障壁は紙切れのように粉砕され、その背後にいた他の英雄たちごともまとめて吹き飛ばされる。
歴史上の偉人たちが、恋する乙女の一撃の前に塵となって消滅していく。
「……ふん。口ほどにもない」
黒煙の中、レナが髪を払いながら戻ってくる。
シキは彼女を迎え入れ、ポンと頭を撫でた。
「よくやった。……さあ、邪魔者は消えたぞ」
瓦礫の山と化した中庭。
その奥に、地下へと続く巨大な鋼鉄の扉が露わになっていた。
世界の心臓部『マザー・コア』への入り口。
「行こう。……この星の『寿命』を終わらせに」
旧時代の亡霊を葬り去ったシキたちは、迷うことなく暗闇の底へと足を踏み入れた。




