第86話:『最終作戦「アトラス帰還」。始まりの場所へ』
帝都上空、高度1万メートル。
雲海を突き抜けて進む空中要塞『エデン』の甲板に、シキと5人の魔女たちが並んでいた。
眼下に広がるのは、見慣れた、しかし変わり果てた景色。
帝立魔導院「アトラス」。かつてシキたちが通い、出会い、そして日常を過ごした学び舎。
だが今、その美しいキャンパスは、無数の対空砲座と防御結界に覆われた、巨大な軍事要塞と化していた。
「まさか、『マザー・コア』があの地下にあったとはな」
シキが風に白衣をなびかせながら呟く。
先ほど解析したクロウリーのデータによれば、アトラス学園は単なる教育機関ではなかった。
世界の環境システムを制御する『中枢』の上に建てられた、巨大な蓋であり、監視施設だったのだ。
『五大元素』のような強力な魔女がそこに集められたのも、中枢を守るための「生体部品」の候補を選別するためだった。
「懐かしい場所ですわ。……あの中庭で、シキ様と初めてお茶をしましたのに」
エミリアが、眼下に展開される砲身の森を見て、悲しげに目を細める。
「変わり果てちまったな。……だが、好都合だ」
シキはゴーグルを装着し、不敵に笑った。
「あそこは俺たちの『庭』だ。抜け道も、隠し部屋も、全部頭に入ってる。……地の利はこっちにあるぞ」
彼が振り返ると、レナ、リズ、ソフィア、エレオノーラ、エミリア、そしてオメガ・ワン率いる機械化部隊が整列していた。
全員、戦意は十分。だが、その瞳にあるのは殺意だけではない。自分たちの居場所を取り戻すという決意だ。
「作戦を伝える。……正面突破だ。上空から降下し、俺たちを邪魔する『校則違反者』どもを叩き潰して、地下への扉をこじ開ける」
「了解! 派手な里帰りになりそうね!」
レナが両手に特大の炎を灯す。
「行くぞ! 最終作戦『アトラス帰還』……開始ッ!!」
シキの号令と共に、彼らは虚空へと身を投げた。
ヒュオォォォォォッ!!
風切り音が鼓膜を叩く。
直後、地上から無数の魔導砲撃が、逆雨のように降り注いだ。
「――迎撃します!」
ソフィアが重力制御でシキを守りながら落下速度を上げる。
「遅い遅い! 私のスピードについてこれる?」
リズが紫電となって先行し、対空ミサイルを次々と斬り落としていく。
かつては未熟な生徒だった彼女たち。
だが今は、幾多の死線を越え、シキによる『魔改造』を経た、世界最強の魔女集団だ。
皇帝直属の近衛師団が展開する結界など、紙くず同然だった。
ズドォォォォンッ!!
6つの流星が、学園の中庭――かつてシキとレナが初めて出会った噴水広場に突き刺さる。
土煙が晴れると、武装した近衛兵たちが彼らを取り囲んだ。
「貴様ら! ここを帝国の重要軍事拠点と知っての狼藉か!」
「直ちに投降せよ! 反逆者ども!」
銃口を向ける兵士たちに対し、シキは埃を払いながら、悠然と立ち上がった。
その背後には、圧倒的な魔圧を放つ5人の恋人が控えている。
「反逆者? 人聞きが悪いな」
シキはニヤリと笑い、懐かしい校舎を見上げた。
「俺たちは卒業生(OB)だ。……母校がずいぶんと物騒なことになってるから、後輩の指導に帰ってきてやったんだよ」
レナが一歩前に出る。その笑顔は、かつてないほど獰猛で、美しかった。
「さあ、授業の時間よ。……先生はシキ、教材はあなたたち。たっぷりと『補習』をしてあげるわ!」
始まりの場所で、最後の戦いの鐘が鳴り響く。
シキたちの、世界を賭けた卒業試験が始まった。




