第85話:『シキの出生。世界を終わらせる「断熱材」』
帝都へ向けて進路を取る空中要塞『エデン』。
その格納庫に、一機の小型脱出ポッドが不時着した。
プシューッ……。
煙を上げるハッチから転がり出てきたのは、ボロボロの白衣を纏った男――Dr.クロウリーだった。
「……殺すわ」
レナが即座に掌に火球を生成する。
リズも紫電を纏って剣を構えた。
彼女たちにとって、この男は自分たちを改造し、兵器として扱った憎き仇敵だ。
「待て」
シキが片手でそれを制した。
「……何の用だ、ドクター。今さら命乞いか?」
「ハハ……。命乞い、か。それも悪くない」
クロウリーは力なく笑い、懐から一枚の古い設計図を取り出した。
それは、幼き日のシキの身体データが記されたカルテだった。
「皇帝は狂った。……世界のリセットなど生温い。奴は、この星の『魔導回路』を暴走させ、全人類を魔力エネルギーに変換して、自分だけが神となるつもりだ」
「神だと?」
「そうだ。それを止められるのは……世界で唯一、『試作零号』お前だけだ」
クロウリーはシキを見上げ、真実を告げた。
「お前は『魔力を持たない失敗作』ではない。……最初から、そう作られたのだ」
彼は言葉を続ける。
「この星は、巨大な永久機関だ。暴走し続ける魔力の熱量によって環境を維持している。……だが、熱はいずれシステムを溶かす。だからこそ、その熱を遮断し、強制停止させるための安全装置が必要だった」
クロウリーはシキの胸――『虚数回路』を指差した。
「お前は『魔力絶縁体』だ。あらゆる魔力を無効化し、通さず、熱を奪う……世界を冷やすための『氷』として設計された」
シキの脳裏に、これまでのことが蘇る。
なぜ、ヒロインたちの暴走を鎮められたのか。
なぜ、オメガのシステムをハッキングできたのか。
それは、彼がシステムの外側にいる「異物」であり、システムを外から操作できる唯一の権限を持っていたからだ。
「お前の『虚数回路』の正体は、この星のメインシステムへの『管理者権限』キーだ」
クロウリーは震える手でシキの足にすがりついた。
「頼む、ゼロ……いや、シキ。行ってくれ。天空宮殿の中枢へ。……そして、お前の手でシステムを書き換え、この狂った永久機関を止めてくれ」
「……止めれば、どうなる?」
シキが静かに問う。
「魔法は消える。この星を覆う偽りの環境システムは停止し……星が本来持っていた『自然循環』が再起動し、隠されていた本物の自然が目を覚ますだろう」[289, 会話履歴]
それは、魔法文明の終焉を意味していた。
空飛ぶ船も、便利な魔道具も、そして……彼女たちが持つ「魔女」としての力も。
「……いいだろう」
シキは設計図を受け取り、クロウリーの手を振り払った。
「アンタのためにやるんじゃない。……俺の大事な『電池』たちを、ただの女の子に戻してやるためだ」
シキは振り返り、レナたちを見た。
彼女たちは不安そうに、しかし信頼に満ちた瞳で彼を見つめ返している。
「行くぞ、お前ら。……これが最後の仕事だ。世界そのものを修理して、真っ当な形に戻してやる」
自身の出生の意味を知り、シキは覚悟を決めた。
「断熱材」として、熱狂する世界を冷やし、終わらせるために。
要塞エデンは、最後の戦場である帝都上空『天空宮殿』へと突入する。




