第84話:『真実の歴史。この星は「巨大な魔導回路」だった』
再起動した空中要塞『エデン』の艦橋。
動力ケーブルに繋がれ、自身の魔力を船に供給し続けているレナたちが、荒い息をつきながらも真剣な眼差しを向ける先。
そこでエレオノーラが、重い口を開いた。
「……話そう。これが、ヴィクトリア皇家に代々伝わる、この世界の『管理者』だけが知る極秘情報だ」
彼女が操作パネルに手をかざすと、中央モニターにこの星の立体映像が映し出された。
美しい青い惑星。だが、エレオノーラが指を鳴らすと、地表のホログラムが剥がれ落ち――その下に隠された、無機質な金属の骨格が露わになった。
「なっ……何これ……?」
レナが目を見開く。
そこに映っていたのは、惑星の表面をびっしりと覆う、幾何学模様の回路。
大地も、海も、空さえも、すべてが機械仕掛けだった。
「1000年前、この星の自然環境は限界を迎え、崩壊を防ぐために惑星規模の『生命維持装置』によって強制管理されることとなった」
エレオノーラは淡々と、しかし残酷な真実を告げた。
「今の空も、海も、風も……すべては星全体を覆う巨大な『惑星規模魔導回路』によって制御・維持されている、いわば『人工的な昏睡状態』の自然なのだ。我々は、凍結された星の上に上書きされた『管理された楽園』の中で生きているのだ」
「人工……惑星……」
シキが呻くように繰り返す。
技師としての直感が告げていた。
なぜ、この世界の魔法がプログラム言語のように記述できるのか。
なぜ、物理法則を無視した現象が起きるのか。
――最初から、ここは巨大なシステムの中だったからだ。
「そして、その巨大なシステムを稼働させるには、莫大なエネルギーが必要となる」
エレオノーラは、動力ケーブルに繋がれた自分たちを自嘲気味に見下ろした。
「それが『魔女』だ。……我々魔導師は、人間ではない。この星のシステムを動かすために遺伝子設計された『生体燃料電池』なのだよ」
戦慄が走る。
人々が魔法を使えるのは恩恵ではない。
マナを精製し、循環させるためのポンプとして機能するように、人類そのものが作り変えられていたのだ。
「中でも『五大元素』の乙女は、環境システムの基幹プログラム(ドライバ)を動かすための『鍵』だ。……火、水、風、土、雷。それぞれの環境制御を行うための、最高級のパーツ」
クレアが震える声で呟く。
「私たちは……この世界の、ただの乾電池だったって言うんですか……?」
「そうだ。そして電池はいずれ古くなる。……父上、いや、皇帝の目的は『交換』だ」
エレオノーラは空を睨みつけた。
「人類という古い電池は、バグ(感情)が増えて使いにくくなった。だから『強制シャットダウン』で一度システムを落とし、人類を廃棄処分にし……より効率的で従順な新品の電池に入れ替えて、世界を再起動するつもりだ」
それが、一連の事件の全貌だった。
オメガ・シリーズの開発も、魔導インフラの停止も。
すべては、古くなった文明をゴミ箱に捨て、新しいクリーンな世界を上書きするための手順。
「ふざけるな……」
低く、地を這うような声が響いた。
シキだった。彼はモニターに映る金属の惑星を睨みつけ、拳を震わせていた。
「人間を電池扱いだと? バグだの効率だの……技師の風上にも置けねえ野郎だ」
彼はレナたちの元へ歩み寄り、その肩を抱いた。
彼女たちは電池じゃない。泣いて、笑って、恋をする、温かい命だ。
「エレオノーラ。その『回路』の中枢はどこだ?」
「……帝都の真上。『天空宮殿』にあるメインサーバーだ」
「上等だ」
シキは不敵に笑い、工具ベルトを強く締め直した。
「俺は技師だ。気に入らねえシステムがあるなら、ハッキングして書き換えるだけだ。……行くぞ、お前ら。世界を『管理者』の手から奪い返すぞ」
真実を知った彼らは、もはや被害者ではなかった。
世界という巨大なシステムに挑む、誇り高き反逆者たちだった。




