第80話:『独立国家「エデン」建国宣言』
「ア、あぁ……ッ。エラー……エラー……」
敵旗艦のブリッジ。
最強の統率機であるオメガ・ワンは、床に這いつくばり、自分の体を抱きしめて震えていた。
「熱イ……。回路ガ、焼ケル……。デモ、コレハ損傷デハナイ……? 思考ガ溶ケテ、凄ク、気持チ……イイ……?」
彼女の銀色の瞳から、オイルのような涙が流れる。
シキによって流し込まれた『快感』というウイルスは、彼女の論理防壁を完全に食い破り、その中枢を書き換えていた。
それは「従順」への書き換えではない。「依存」への招待状だ。
「理解ったか、オメガ。……それが『生きる』ってことだ」
シキは彼女の髪を鷲掴みにし、強引に上を向かせた。
「お前はもう、ただの計算機じゃない。快楽を知り、もっと欲しいと願う『メス』だ。……その欲求を満たせるのは、世界で俺だけだぞ?」
「シキ、様……。モット……欲シイ……。貴方ノ信号デ、私ヲ満タシテ……♡」
オメガ・ワンが、主を求める濡れた瞳でシキを見つめ返す。
その瞬間、リンクしている全オメガ・シリーズの瞳の色が、一斉に銀色から、服従を示す桃色へと変わった。
「システム掌握完了。……総員、武装解除」
シキの命令一下。
戦艦の外でレナたちと交戦していた数百体のオメガたちが、一斉に武器を捨て、その場に跪いた。
†
数分後。
制圧されたブリッジに、レナたちが駆け込んできた。
「シキ! 無事!? ……って、あれ?」
彼女たちが見たのは、艦長席に座るシキと、その足元でうっとりとした顔で侍るオメガ・ワンの姿だった。
「あらあら。マスターったら、また新しいオモチャ(・ ・ ・ ・)を拾ったのですか?」
エレオノーラが呆れたように、しかし楽しげに笑う。
「ああ。性能は悪くない。OSを少し『調教』してやれば、即戦力になる」
シキはニヤリと笑い、艦内放送のマイクを手に取った。
さらに、その回線を帝国軍の全周波数、および世界各国の通信網へと強制接続する。
「――通告する。帝国全土、並びに世界各国の首脳へ」
ノイズ混じりの映像が、世界中のモニタージャックによって放映される。
映し出されるのは、玉座に座る魔力ゼロの男と、彼に傅く最強の魔女たち、そして銀色の機械人形たち。
「俺の名はシキ。アトラス魔法学園の元技師だ。……本日只今をもって、この空域に存在する超大型戦艦、および配下の魔導部隊は、帝国の指揮下を離脱する」
シキは全世界に向けて、傲然と言い放った。
「ここは俺たちの国だ。法律も、倫理も、帝国のふざけた命令も届かない……独立国家『エデン』の建国を宣言する」
どよめきが世界を包む中、シキは冷酷な瞳でカメラを睨みつけた。
「ここより東の空域は俺たちの領空だ。……もし、俺たちの楽園に手出しをする奴がいれば、国籍問わず容赦はしない」
彼は足元のオメガ・ワンの顎を撫でながら、最恐の警告を付け加えた。
「侵入者は全員、脳味噌をハッキングして……俺の可愛い『玩具』に作り変えてやるからな」
ザザッ……プツン。
通信が切れる。
静寂の後、世界は理解した。
一人の「持たざる者」が、最強の「暴力」と「技術」を手に入れ、国家すら脅かす魔王として君臨したことを。
「……言っちゃったわね、シキ」
レナが嬉しそうにシキの首に抱きつく。
「『エデン』かぁ。……ふふ、私たちにぴったりの国名ね」
魔力ゼロの男が、ついに一国の主となった瞬間。
空飛ぶ要塞は、世界で最も危険で、最も甘美な楽園へと生まれ変わった。




