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第78話:『再戦。熱暴走(ヒート)を武器にせよ』

 雲海を割って、5つの銀色の光――『オメガ・シリーズ』が再び迫る。

 無感情な機械人形たちは、手負いのはずの戦艦『ヘイムダル』を捕捉し、完全殲滅のために急降下を開始した。


「ターゲット捕捉。……前回ノ損耗率カラ推測、戦闘時間180秒デ終了スル」


 オメガ・ワンが冷徹に宣告し、氷の鎌を振りかざす。

 だが、その刃が戦艦に届くことはなかった。


 ドォッ!!


 真紅の爆炎が、オメガ・ワンの眼前で炸裂した。

 だが、それはただの炎ではない。まるで生き血のように粘り気があり、赤黒く濁った、禍々しい輝きを放つ業火。


「――ねえ。また来たの? 泥棒猫さんたち」


 炎の中から姿を現したのは、レナだった。

 その姿に、オメガ・ワンの演算装置が一瞬、エラーを吐き出した。


 肌は上気し、全身から汗と魔力の湯気が立ち上っている。

 瞳は潤み、呼吸は荒い。

 苦しそうにも見えるが、その口元には恍惚とした妖艶な笑みが張り付いている。


「ハァ……ハァ……っ。体中が熱いの……。疼いて、おかしくなりそうなのよ……っ」


 レナが自身の胸元を掻きむしるように掴む。

 『常時励起パーマネント・ヒート』。

 暴走寸前の魔力回路が神経を焼き続け、彼女に強烈な渇きを与えている。


「だから……消してあげる。シキに見せるための『花火』になりなさい!」


 ズドンッ!!

 レナが放った火球は、前回の3倍以上の質量を持っていた。

 オメガ・スリーが防御障壁を展開するが、紙のように突き破られ、銀色の装甲がドロドロに融解する。


「警告。敵熱量、測定不能。……理論値ヲ大幅ニ超過シテイマス」


 驚愕するのはオメガたちだけではない。

 紫電を纏うリズもまた、狂気的な笑い声を上げながら、オメガ・ツーを切り刻んでいた。


「あはははっ! 速い! 速いよぉ! 私の体が、思考より先に敵を殺してる!」


 ソフィアの重力は空間ごと敵を捻じ曲げ、エミリアの氷は触れた端から敵の回路を壊死させる。

 彼女たちの攻撃には、もはや「身を守る」というブレーキがない。

 あるのは、自身の命を燃料にくべて燃え上がる、刹那的な破壊衝動のみ。


理解不能アンダスタンド。……ナゼ、ココマデ出力ガ上ガル?」


 オメガ・ワンが、戦艦のブリッジにいるシキに向けて通信を開いた。

 彼女のAIは混乱していた。

 肉体は悲鳴を上げているはずだ。熱暴走で思考もまともではないはずだ。

 なのに、なぜ彼女たちの動きは洗練され、以前よりも鋭くなっているのか。


熱暴走オーバーヒートハ、機能不全ヲ引キ起コス要因ノハズ。……ナゼ、彼女タチハ快楽ヲ得テイル?』


 モニター越しに、シキが退屈そうに答えた。


「簡単なことだ。回路を繋ぎ変えたんだよ」


 シキは、暴れ回るレナたちを愛おしそうに見下ろしていた。


「苦痛を『快感』に。焦燥を『渇望』に。……あいつらは今、熱に浮かされて、頭の中が俺のことで一杯だ」


『貴方ノ……コト?』


「ああ。敵を倒せば俺が喜ぶ。俺に褒めてもらえる。頭を撫でてもらえる。……その『欲』だけが、彼女たちの体を突き動かすエンジンだ」


 シキはニヤリと笑い、オメガ・ワンに告げた。


「お前らの敗因は一つだ、ポンコツ。『ご褒美』を知らない機械人形じゃ……恋する乙女の『欲求不満』には勝てねえよ」


 その言葉を証明するかのように、エレオノーラがオメガ・ワンの背後に音もなく現れた。


「……よそ見とは余裕だな、偽物」


 エレオノーラが錫杖を振るう。

 その瞳は、とろりと濁ったハートの形をしていた。


「邪魔だ。……マスターの視界に、余以外の銀髪はいらぬ」


 一撃。

 物理と魔力が融合した、重すぎる愛の一撃が、オメガ・ワンを甲板に叩きつけた。

 熱暴走を武器に変えた魔女たちの宴は、まだ始まったばかりだった。


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