第75話:『敗走。冷徹な計算には勝てない?』
ドォォォォンッ!!
爆炎が晴れた先に立っていたのは、左半身を吹き飛ばされながらも、平然と前進を続ける『オメガ・スリー』だった。
「ひっ……!?」
レナの喉から、短い悲鳴が漏れた。
恐怖。
どれだけ強力な魔法を撃ち込んでも、相手は止まらない。それどころか、破壊された自分の肉片を弾幕として撒き散らしながら、特攻を仕掛けてくるのだ。
「ターゲット、動揺を確認。……隙アリ」
オメガ・スリーが、残った右腕だけでレナの首を掴みにかかる。
レナは咄嗟に防御しようとするが、脳裏に「痛いのは嫌だ」「死にたくない」という生存本能が過り、反応がコンマ数秒遅れた。
ガッ!!
「がはっ……!」
喉を締め上げられ、レナが床に叩きつけられる。
「レナさんッ! くっ、離れなさい!」
ソフィアが助けに入ろうと盾を構える。
だが、それを待っていたかのように、別のオメガがソフィアの死角――彼女が庇おうとしているシキの方角へ向けて、自爆覚悟の魔力砲を放った。
「しまっ……シキさんが狙われて……!」
ソフィアは自身の防御を解き、身を挺してシキを庇った。
ズドンッ!!
背中に直撃を受け、ソフィアが血を吐いて倒れ込む。
「非効率ダナ。個体ノ生存ヨリ、他者ノ防衛ヲ優先スルとは」
オメガ・ワンが冷淡に見下ろす。
彼女たちの計算式には「仲間を守る」という変数は存在しない。あるのは「敵を破壊する」という結果のみ。
そのためなら、味方を囮にすることも、自らの手足を切り落とすことも厭わない。
「くそっ……! どいつもこいつも、命をチップみたいに使い捨てやがって!」
シキが歯噛みする。
スペックではこちらが勝っている。だが、「守るものがある者」と「失うものがない者」の差は、戦況を覆すのに十分すぎた。
6人のヒロインたちは傷つき、疲弊し、精神的に追い詰められていく。
ズズズズズ……ッ!
戦艦『ヘイムダル』が大きく傾いた。
オメガたちが動力炉に向けて特攻を仕掛け、自爆したのだ。
「動力炉、破損! 出力低下! このままじゃ墜ちるわ!」
「……撤退だ!!」
シキは即断した。
これ以上戦えば、全滅する。
「エミリア、船体を氷で覆って防御壁を作れ! リズ、残った動力で強引に雲海へ突っ込め!」
「で、でも……逃げるの!?」
「死んだらメンテナンスもできないだろうが! 行けッ!!」
シキの怒号に、彼女たちは唇を噛み締めながら従った。
ヘイムダルは黒煙を噴き上げながら急降下し、分厚い雲海の中へと姿を消した。
†
数時間後。
雲の中に隠れ、低空飛行を続ける半壊した戦艦の内部。
薄暗い医務室で、シキはレナたちの手当てをしていた。
「っ……うぅ……」
消毒液が染みるのか、レナが痛みに顔を歪める。
その目には、悔し涙が溜まっていた。
「悔しい……。魔法の威力なら、私の方が上だったのに……」
彼女は包帯だらけの拳を握りしめた。
「あいつら、何も感じてないの!? 腕が千切れても、体が燃えても、顔色一つ変えないなんて……あんなの、生き物じゃないわ!」
恐怖と嫌悪。
痛みを知るからこそ、痛みを知らぬ狂気に勝てなかった自分への苛立ち。
空気は重く沈んでいた。
「……ああ。あいつらは生き物じゃない。ただの『計算式』だ」
シキは包帯を巻き終え、静かに告げた。
「だが、だからこそ負けたんだ。……お前らが人間らしく『迷った』一瞬を、あいつらは見逃さなかった」
シキは傷ついた6人の彼女たちの頭を、一人ずつ優しく撫でた。
「覚えとけ。次の相手は、お前らが捨ててきた『弱さ』を持たない怪物だ。……愛と絆だけで勝てるほど、帝国の闇は甘くないぞ」
敗北の味は苦い。
だが、その苦味こそが、彼女たちを本当の意味で「最強」にするための糧となることを、シキだけは予見していた。




