第74話:『無痛と快楽。相容れない二つの強さ』
ドゴォォォォンッ!!
空中要塞『ヘイムダル』の広大な甲板が、6色の魔力の爆発によって揺れ動いた。
「ハァッ、ハァッ……! なんなのよ、こいつら……!」
レナが荒い息を吐きながら、炎の壁を展開して後退する。
彼女の視線の先には、同じ顔、同じ炎を操る『オメガ・スリー』が立っていた。
だが、その姿は異様だった。
先ほどのレナの攻撃で左腕が炭化し、皮膚が焼け落ちているにもかかわらず、オメガは眉一つ動かさず、機械的に次弾を装填していたのだ。
「ターゲット捕捉。焼却を開始スル」
「っ、自分の腕が焼けてるのよ!? 熱くないの!?」
レナが叫ぶが、オメガは無表情に首を傾げただけだった。
「痛覚信号ハ遮断済ミ。戦闘継続ニ支障ナシ」
躊躇がない。
肉体が破壊されることを「損失」ではなく単なる「消耗」と捉えている。
自らの腕を囮にしてでも、確実に相手の喉笛を食いちぎる。そんな狂気の戦法に、レナたちはじりじりと追い詰められていた。
一方、リズもまた、自分より速い「銀色の影」に翻弄されていた。
「くっ、速い……っ!」
「回避行動ハ不要。最短距離デ処理スル」
リズが紫電の斬撃を放つ。オメガ・ツーはそれを「避けなかった」。
あえて肩で斬撃を受け止め、肉に食い込んだリズの剣を筋肉で固定し、至近距離からカウンターを放ってきたのだ。
「うぐっ……!?」
リズが吹き飛ばされる。
オメガ・ツーの肩からは大量の血が噴き出しているが、彼女のスピードは落ちない。
リミッター解除による筋肉断裂も、骨折も、全て無視して加速し続ける暴走列車。
「あいつら、イカれてる……! 壊れることになんの躊躇もないなんて!」
6人のヒロインたちは、中央のシキを守るように円陣を組んだ。
個々の出力では負けていない。だが、相手の「死を恐れない効率性」が、精神的な圧力となってのしかかる。
そこへ、統率機であるオメガ・ワンが、氷の鎌を携えて歩み寄ってきた。
かつてのエレオノーラを模した、銀髪の死神。
「理解不能。……ナゼ、非効率ナ動キヲ繰リ返ス?」
オメガ・ワンの虚ろな瞳が、傷ついたレナたちを見回した。
「貴様ラハ、防衛対象ヲ守ルタメニ、自ラノ回避ルートヲ限定シテイル。恐怖心ガ判断ヲ鈍ラセ、生存本能ガ特攻ヲ躊躇サセテイル」
彼女は冷徹に断言した。
「ソレラハ全テ、戦闘ニ不要ナ『ノイズ』ダ。……ナゼ、回路ニ『愛』ナドトイウ不純物ヲ混ゼル?」
純粋な兵器としての問いかけ。
愛ゆえに守り、愛ゆえに死にたくないと思う心は、兵器としては欠陥でしかない。
「……黙りなさい、鉄屑」
答えたのは、エレオノーラだった。
彼女は口元の血を拭い、錫杖を突き立てて立ち上がった。
エレオノーラの背後に、レナ、リズ、エミリア、ソフィア、クレアが並ぶ。
彼女たちは傷だらけだったが、その瞳はオメガたちとは対照的に、熱く、強く燃え上がっていた。
「痛みを知らぬ拳など、何百発受けようと軽く重みがない。……我々が強いのは、痛みを知っているからだ」
エレオノーラは背後のシキを振り返り、艶やかに微笑んだ。
「そして、この痛みを癒やしてくれる『極上の快楽』が待っていると知っているからこそ……我々は限界を超えられるのだ!」
シキがニヤリと笑い、工具を構えた。
「その通りだ。……おい、ポンコツども。効率重視の安っぽい回路と、愛と欲望でギチギチにチューンナップされた回路……どっちが『熱い』か、教えてやるよ」
無痛の兵器対、快楽を知る人間。
相容れない二つの強さが、決着の時を迎えようとしていた。




