第73話:『次世代型(ネクスト)。感情なき「第六世代」』
帝都の地下深く。
先日のシキたちの襲撃を免れた、極秘のバックアップ施設『第9研究所』。
その最深部にある培養槽の中で、5つの影が静かに胎動していた。
「……美しい。これだよ。これこそが私が求めていた『完成形』だ」
ドクター・クロウリーは、青白い光に照らされた水槽を見上げ、恍惚の表情を浮かべていた。
彼の顔には、シキに殴られた傷跡が残っているが、その瞳の狂気は以前にも増してギラギラと輝いている。
「第五世代の失敗は、器に『心』という不純物が混入したことだった。……愛だの絆だの、そんな非効率なパラメータが演算の邪魔をする」
彼はコンソールに手を置き、最終コードを入力した。
「だが、彼女たちは違う。シキたちの戦闘データを完全解析し、そこから『感情』を徹底的に排除した。……痛みを感じず、恐怖せず、愛も知らず。ただ命令を遂行するためだけに最適化された、純粋な殺戮機械」
プシューッ……。
培養液が排出され、厚いガラス隔壁が開く。
白煙の中から現れたのは、5人の少女たちだった。
顔立ちはレナやリズたちに酷似している。だが、髪も肌も瞳も、すべてが色素を失ったような無機質な「銀色」で統一されていた。
彼女たちは一糸乱れぬ動きで培養槽から歩み出ると、クロウリーの前に整列し、片膝をついた。
「おはよう、私の最高傑作たち。……『第六世代』、オメガ・シリーズ」
感情のない5対の銀色の瞳が、虚空を見つめる。
そこには、生気というものが一切感じられない。まるで精巧に作られたビスクドールか、あるいは冷たい刃物のようだった。
「ターゲットは『五大元素』の裏切り者たち。そして『試作零号』シキ。……慈悲はいらん。完全破壊せよ」
「――了解。ターゲット確認」
リーダー機と思われる個体、『オメガ・ワン』が、抑揚のない機械音声で応えた。
彼女は、かつてのエレオノーラを模した能力を持つ統率機。だが、そこには皇女のような傲慢さも、人間臭い迷いも一切ない。
†
上空、高度8000メートル。
奪取した空中要塞『ヘイムダル』の艦橋にて。
「……シキ! レーダーに反応あり! 急速接近してくるわ!」
クレアの鋭い警告が響く。
シキがモニターを覗き込むと、雲海を切り裂いて迫る5つの光点があった。
「帝国軍の追手か? いや、速すぎる……!」
リズの速度に匹敵する、いや、それ以上に無駄のない一直線の軌道。
シキが回避行動を取る間もなく、艦内モニターに外部からの通信が強制割り込みされた。
画面に映し出されたのは、銀色の髪を持つ少女――オメガ・ワン。
『――通告スル。貴艦ハ、帝国ノ管理下ニアル重要サンプルヲ不法所持シテイル』
その顔を見て、エレオノーラが息を呑んだ。
自分に似ている。だが、決定的に違う。
それは、自分が長い間演じようとして演じきれなかった、「完璧な支配者」の虚無の顔だった。
『抵抗ハ無意味。コレヨリ、強制執行ヲ開始スル』
オメガ・ワンが手をかざす。
感情なき瞳が、シキたちのいる艦橋をロックオンした。
「来るぞ! 衝撃に備えろッ!」
シキの叫びと同時、オメガ・シリーズの一斉攻撃が要塞を襲った。
熱暴走を知らない彼女たちの魔法は、理論上の最大出力を常に維持し続ける。
それは、「人間」対「システム」の、絶望的な性能差の戦いだった。




