第72話:『空中要塞奪取。空飛ぶハーレム城』
荒野を走る装甲車の上空に、巨大な影が落ちた。
空を見上げれば、雲を裂いて現れたのは、全長500メートルを超える鋼鉄の巨鯨。
「……帝国の最新鋭、超大型魔導飛行戦艦『ヘイムダル』か」
シキがハンドルを握りながら冷静に分析する。
主砲の一撃で都市をも焼き払う、空の要塞。
だが、助手席のレナは目を輝かせていた。
「ねえシキ! あの船、すごく大きくて快適そうじゃない?」
「ああ。士官用の居住区画はホテル並みだと聞く。大浴場も完備だ」
「決まりね!」
レナがパチンと指を鳴らす。
後部座席のエレオノーラも、優雅に頷いた。
「うむ。野宿続きで背中が痛くなっていたところだ。……あの船を、我々の『新居』としよう」
それは戦闘の合図ではなく、物件購入(強奪)の決定だった。
†
上空、戦艦ヘイムダルのブリッジ。
艦長はモニターを見下ろし、勝利を確信していた。
「地上のネズミ共め。この高度からの爆撃で――」
ザザッ……!
突如、艦内の全モニターがジャックされ、シキの顔が映し出された。
『――よう、艦長さん。いい船だな。もらうことにした』
「なっ、何だ貴様は!? セキュリティをどうやって……!?」
『俺は技師だぞ。その船のOS、穴だらけだぜ』
次の瞬間。
ドォォォォンッ!!
甲板に着地した6人の魔女たちが、艦内へとなだれ込んだ。
「邪魔よ! 退去なさい!」
「ここは今日から私たちの愛の巣ですわ!」
レナの炎が隔壁を溶かし、ソフィアの重力が警備兵を天井に張り付け、エミリアが通路を氷の滑り台に変える。
制圧完了まで、わずか10分。
『総員に通達。……今すぐパラシュートを持って飛び降りろ。3分後にハッチを全開放する』
シキの非情な(ある意味慈悲深い)放送が流れ、数千人の乗組員たちは泣きながら空へダイブしていった。
†
こうして、帝国の誇る最強戦艦は、もぬけの殻となった。
代わりに主となったのは、一人の技師と6人の最強魔女たち。
「すごい! 見てシキ、ベッドがふかふか!」
「厨房の食材も最高級品が揃っています!」
「展望大浴場……! ああ、久しぶりにお湯に浸かれる……!」
艦内を探検するヒロインたちは大はしゃぎだ。
最上階にある艦長室(現在はシキの部屋)は、王宮の寝室のように豪華だった。
窓の外には、見渡す限りの雲海と、沈みゆく夕日。
「……悪くない眺めだ」
シキが革張りの椅子に座ると、バスローブ姿に着替えた6人が、妖艶な笑みを浮かべて入ってきた。
ここは空の上。
追っ手も、邪魔者も、誰もいない完全なる密室。
「シキ。……逃亡生活のストレス、たっぷり癒やしてあげるわ」
「もう野宿の時のように、周りを気にして声を殺す必要もありませんわ」
彼女たちがシキを取り囲む。
その瞳は、獲物を前にした肉食獣のように爛々と輝いていた。
「……やれやれ。逃げ場なしか」
シキは苦笑し、覚悟を決めて両手を広げた。
「いいだろう。ここなら誰にも邪魔されない。……朝までメンテナンスし放題だな」
空飛ぶハーレム城は、夕焼けの中を優雅に進む。
その夜、戦艦が乱気流に巻き込まれたかのように激しく揺れた原因を、地上で知る者は誰もいなかった。




