第70話:『再会と覚醒。楽園(ハーレム)は自分たちで守る』
第ゼロ区画の回廊は、灼熱と極寒、そして稲妻が入り乱れる死地と化していた。
「ウガァァァッ!! シキ、ドコだぁぁッ!!」
理性を焼き切れたレナが、見境なく炎を撒き散らす。
量産型ドールの残骸が積み上がり、研究所の隔壁が飴細工のように溶け落ちていく。
誰も彼女を止められない。近づく者は灰になる運命だ。
ただ一人を除いて。
「――ここだ、レナ」
業火の中を、シキは迷わず歩み入った。
炎が彼の服を焦がすが、彼は歩みを止めない。
暴れるレナの正面に立ち、振り下ろされた炎の拳を、素手で受け止める。
「ガッ、ァ……?」
「遅くなって悪かった。……寂しい思いをさせたな」
シキは驚愕に揺れるレナの身体を引き寄せ、強く抱きしめた。
そして、その唇を塞ぐ。
「んっ!? ぁ……んぅ……ッ!」
接触。
シキの『虚数回路』を通じて、暴走するレナの体内に清涼な魔力が流れ込む。
それは単なる抑制ではない。彼女の「シキを求める渇望」という負のエネルギーを、「愛された喜び」という正のエネルギーへと変換し、回路を最適化する神業だ。
「……シキ……? 本物、なの……?」
唇が離れると、レナの瞳から狂気の濁りが消え、涙に潤んだ鮮やかな真紅が戻っていた。
「ああ。メンテナンスの時間だ」
シキはニカっと笑うと、次は音速で飛び回る紫電の影――リズの方を向いた。
「おい、スピード違反だぞ」
「シキぃぃッ!!」
突っ込んできたリズを空中でキャッチし、そのまま抱きとめてキス。
凍りついたエミリアを溶かすように抱擁し、重力に押しつぶされそうなソフィアを支え、震えるエレオノーラの顎を持ち上げて口づけを落とす。
さらに、後方で援護射撃を続けていたクレアの元へも瞬時に歩み寄り、その熱い唇を深く奪った。
電光石火の早業。
わずか数十秒の間に、シキは六人全員の唇を奪い、その魂に刻まれた「バグ」を「愛」へと書き換えた。
「バ、バカな……! 暴走係数が低下している!? いや、出力自体は跳ね上がっているだと!?」
モニター越しに見ていたドクター・クロウリーが絶叫する。
彼の計算では、自我を取り戻せばリミッターがかかり、出力は落ちるはずだった。
だが、現実は逆だ。
「……あたたかい」
「力が……溢れてくる」
6人の魔女たちが、シキを取り囲むように立った。
彼女たちの身体からは、先ほどの暴走状態をも凌駕する、美しくも強大なオーラが立ち上っている。
「言っただろ、ドクター」
シキは彼女たちの中心で、白衣を翻した。
「『感情』はノイズじゃない。エンジンだ。……俺が愛した分だけ、あいつらは強くなる」
「ふざけるなぁッ! そんな非論理的なことがあってたまるか! 量産型全機、起動! その欠陥品どもを廃棄しろッ!!」
クロウリーの喚き声と共に、格納庫から数百体のドール部隊が出現する。
だが、もはや彼女たちは恐れなかった。
中心に「心臓」がいる限り、彼女たちは無敵だ。
「……よくも」
レナが一歩前に出る。その手には、太陽の欠片のような極大の火球が握られていた。
「よくも私のシキを傷つけたわね……。それに、私たちを引き裂こうとした罪、万死に値するわ」
エレオノーラが錫杖を掲げ、リズが紫電を纏い、エミリアとソフィアが構え、そしてクレアが銃口を固定する。
「消えなさい。……こんな陰気な研究所ごと、塵一つ残さずに!!」
6人の魔力が共鳴し、巨大な奔流となって放たれた。
それは、帝国最強の研究所を一夜にして地図から消し去る、反逆の狼煙。
ドゴォォォォォォンッ!!!
圧倒的な光が、地下施設を飲み込んでいく。
シキと最強の恋人たちによる、帝国への大戦争が、今ここから始まった。




