第69話:『乙女たちの逆襲。愛はプログラムを超越する』
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
第ゼロ区画の司令室に、けたたましい警報音が鳴り響いていた。
無数のモニターに映し出されているのは、地獄絵図と化した研究所の回廊だった。
「――シキ……。返せ……ッ!」
「邪魔だ……消えろ……」
画面の中で、レナが、リズが、ソフィアが暴れ回っていた。
迎撃に向かった最新鋭の量産型部隊が、まるで紙切れのように引き裂かれ、燃やされ、圧し潰されていく。
彼女たちの瞳に焦点はない。
口から涎を垂らし、血管が浮き出るほど魔力を暴走させながら、ただひたすらに「シキ」という名前を呪詛のように繰り返している。
それはもはや人間ではない。破壊の本能のみで動く「災害」そのものだった。
「ククク……ハハハハッ! 見ろ、ゼロ! 素晴らしい光景だ!」
ドクター・クロウリーは、その惨状を見て狂喜した。
「あれこそが『失敗作』の成れの果てだ! 自我というバグに耐えきれず、獣のように暴れ回る醜い怪物の姿だ! 制御がいなければ、彼女たちはただの世界を食い荒らす害虫に過ぎん!」
クロウリーは拘束されたシキの顔を覗き込み、勝利を誇るように告げた。
「理解したか? 彼女たちを救うには、その『心』を消去し、私が管理する綺麗な機械にしてやるしかないのだよ!」
シキはモニターを見つめていた。
そこに映る彼女たちは、確かに狂っているように見える。
なりふり構わず、傷つくことも厭わず、泥と血に塗れて。
常人なら恐怖するだろう。
だが、シキの目には違って見えた。
「……違うな」
シキは静かに、だが力強く否定した。
「あいつらは怪物なんかじゃない。……バグでもない」
「何だと?」
「見ろよ。あいつらは泣いてるじゃないか」
モニターの向こう。全てを焼き尽くすレナの目から、大粒の涙が溢れていた。他の5人も同じだ。
彼女たちは、シキを失った悲しみに、怒りに、心が張り裂けそうになりながら、それでも必死に足を動かしている。
「プログラムなら、泣いたりしない。機械なら、あんなに必死に誰かを求めたりしない」
シキの瞳に、強い光が宿る。
「あれは『感情』なんかじゃない。……あれは『愛』だ」
「愛……? 非科学的な戯言を!」
「科学で割り切れないから、人間なんだよ!」
シキは叫んだ。
「あいつらは怪物じゃない! ちょっと不器用で、手がかかって、すぐ暴走するけど……俺が愛した、世界で一番可愛い女の子たちだッ!!」
シキの感情が爆発すると同時、彼の体内の『虚数回路』が臨界点を超えて稼働した。
狙うは、自身を縛り付ける魔導拘束具のシステム。
「――『虚数解錠』!!」
バヂヂヂヂッ!!
シキは自らの「無」の魔力を、拘束具の「有」の術式に強制注入した。
0で割るような矛盾攻撃。
論理崩壊を起こした拘束具が、火花を散らしてショートする。
「な、何!? 魔力を持たぬ分際で、最高強度のセキュリティをハッキングしただと!?」
「俺は技師だぞ。……自分の道具の手入れくらい、自分でやるさ」
ガゴォォォォンッ!!
拘束具が弾け飛び、シキは自由になった腕で白衣をなびかせ、立ち上がった。
彼は怯むクロウリーを見据え、ニヤリと笑った。
「待たせたな、ドクター。……これから、あんたの最高傑作による、最高に手荒い『修理』の時間だ」
シキはモニター越しに、暴れる彼女たちへと思いを飛ばす。
――待ってろ。今、迎えに行く。




