第68話:『真実の残酷さ。彼女たちは「バグ」だった』
「……バグだと?」
拘束台の上で、シキは掠れた声で問い返した。
ドクター・クロウリーは、モニターに映し出されたレナやエレオノーラたちの映像を見ながら、冷淡に頷いた。
「そうだ。本来、『五大元素』計画における完成形は、自我を持たない純粋な『生体魔導回路』であるべきだった」
彼は指先で、画面の中の笑顔のレナを弾いた。
「だが、彼女たちは失敗した。器に対して搭載した魔力炉の出力が高すぎたのだ。溢れ出した余剰エネルギーが脳神経に干渉し、本来必要のない回路を勝手に形成してしまった」
クロウリーは侮蔑を込めて言い放つ。
「恐怖、怒り、喜び、愛……そして『自我』。これらは全て、兵器としてのスペックを著しく低下させる『ノイズ』であり、システム上の『バグ』に過ぎない」
「ふざけるな……!」
シキが身体を捻り、拘束具をガタガタと鳴らす。
「あいつらは人間だ! 泣いて、笑って、悩んで……必死に生きてる人間だ! それをバグ扱いなんて――」
「それが『失敗作』の証だと言っている」
クロウリーは冷徹にシキの言葉を遮った。
「見ろ。感情があるゆえに、彼女たちは不安定になり、暴走し、自らを傷つける。……可哀想だとは思わないか? ならば、その元凶である『心』を取り除いてやるのが、親としての慈悲だろう?」
男は白衣のポケットから、黒いデータチップを取り出した。
「お前のアトラス学園への潜入任務は、あくまで実地テストだった。お前という『虚数回路』が、彼女たちのバグ(感情)をどれだけ抑制できるかのな。……結果は良好。お前は見事に彼女たちを手懐けた」
そして、クロウリーはシキの顔を覗き込み、最も残酷な命令を口にした。
「テストは終わりだ。これより本番を開始する。……お前のその『全てを無に還す』力を使って、彼女たちの精神を完全に吸い尽くし、真っ白な初期状態に戻すのだ」
「……っ!? 俺に、あいつらの心を……殺せと言うのか!?」
「そうだ。お前にしかできない。彼女たちはお前に依存しきっている。……お前にならば、喜んでその心を差し出すだろう?」
おぞましい計画。
シキがヒロインたちと築き上げてきた信頼、愛情、絆。それら全てを利用し、彼女たち自身の手で精神的自殺をさせようというのだ。
「断る! 誰がそんな――」
「拒否権はない。……起動」
クロウリーがコンソールを操作した瞬間。
バチバチバチッ!!
シキの拘束具から高圧電流が流れ込み、脳髄を直接焼き焦がすような衝撃が走った。
「が、ぁぁぁぁぁぁッ!!?」
強制接続。
シキの意思とは無関係に、『虚数回路』が最大出力で開放される。
それは、広範囲に広がる「渇望の信号」となって、帝都中に拡散された。
『――来い。僕の元へ』
シキの口が、勝手に動く。
本心ではない。電気信号で操られた唇が、愛する少女たちを処刑台へと誘う言葉を紡ぐ。
『助けてくれ。寂しいんだ。……早く、満たしてくれ』
「や、め……ろ……! 来るな……! みんな、逃げろぉぉッ……!」
シキの絶叫は、強制的な信号送信にかき消される。
虚ろな「空白」の波動が、同調する「バグ」たちを引き寄せる。
――そして。
帝都の夜空を、5つの流星が引き裂いた。
彼女たちは感じ取ってしまったのだ。
愛するシキが、自分たちを求めている声を。
それが、自分たちを「部品」へと還すための悪魔の招待状だとも知らずに。




