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第66話:『禁断症状。主を失った乙女たち』

 帝都から数十キロ離れた、深く暗い樹海の中。

 雨が降りしきる泥濘の上に、6人の少女たちが放り出されていた。


「……ふざけるな……ふざけるなッ!!」


 ドゴォォォォンッ!!

 レナが咆哮と共に拳を叩きつけると、樹齢数百年の大木が爆炎に包まれてへし折れた。


「あいつら、許さない……! 私たちのシキを、私の相棒を……よくも……!」


 怒髪天を衝く勢いで暴れるレナ。

 だが、その怒りはすぐに、異質な感覚へと変わった。


「っ……あ、れ……?」


 レナが膝をつく。

 心臓が早鐘を打つ。身体の奥底から、灼熱のような「熱」が湧き上がってくる。

 それは魔力のオーバーヒートではない。もっと根源的な、魂の枯渇感。


「……熱い。……苦しい……」


 彼女だけではない。

 リズが身体を抱いてガタガタと震えている。

 エミリアが虚ろな目で宙を見つめ、自身の氷魔法で体温を下げようとしているが、荒い呼吸は収まらない。


「おかしいのです……。魔力回路が、キシキシと音を立てて……」


 ソフィアが脂汗を流しながら呻く。

 シキによる毎日の『メンテナンス』。

 魔力回路の最適化、精神的な安定、そして彼との接触による魔力の循環。

 それらが突然断たれたことで、彼女たちの身体は強烈な「禁断症状リバウンド」を起こしていたのだ。


「……足りない」


 暗闇の中、濡れた声が響いた。

 エレオノーラだった。

 彼女は泥に汚れることも厭わず、木の根元に蹲り、自分の身体を強く抱きしめていた。


「シキが……足りない……。あの方の指先が、声が、匂いが……今すぐに摂取しないと、余は……壊れてしまう……」


 元・序列1位の皇女の瞳からは、理性の光が消え失せていた。

 あるのは、飢えた獣のような渇望だけ。

 彼女たちは、シキという「制御キー」を失い、再び暴走する不安定な爆弾へと戻りつつあった。いや、以前よりも依存度が深まった分、その欠落感は狂気じみていた。


「……聞こえる」


 ふと、クレアが立ち上がった。

 彼女は目を閉じ、雨音の向こう側にある「何か」を探っている。


「クレア……?」

「……微かですが、感じます。私の身体に刻まれた、シキさんの魔力操作の痕跡マーキングが……脈打って、方角を指し示している」


 クレアが虚空を指差す。

 その先は、帝都の地下深く――闇の底。


「あそこに……シキがいる」


 その言葉を聞いた瞬間、全員の瞳が妖しく発光した。

 レナが立ち上がる。その口元から漏れる呼気は、高熱で白く揺らいでいる。

 リズの周囲に、バチバチとどす黒いスパークが走る。


「……迎えに行かなきゃ」


 エミリアが凍てつくような微笑みを浮かべる。


「私たちの『心臓』を……取り戻さないと」


 もはや、彼女たちは正義の味方でも、学園の生徒でもなかった。

 餌を奪われた飢餓状態の猛獣。

 主を求める狂信的な信徒。


「行きましょう。……邪魔をする者は、帝国の兵だろうと民間人だろうと、すべて焼き尽くしてでも」


 エレオノーラが、かつての女王の威厳とは異なる、おぞましい執念を纏って宣言する。


「シキは余たちのものだ。……誰にも渡さぬ」


 闇夜の森を、6つの怪物が駆け抜ける。

 その進行方向に待ち受ける帝国軍にとって、それは悪夢の始まりだった。

 彼女たちの禁断症状を止める唯一のシキを取り戻すための、殺戮の行軍が始まった。


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