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第65話:『鹵獲(キャプチャー)。奪われた調律師』

 魔導列車の車内は、鉄と肉の焼ける臭いで充満していた。


「――邪魔よ! 紛い物がッ!!」


 レナの爆炎が唸りを上げ、通路を塞ぐ『量産型ドール』たちを消し飛ばす。

 リズが紫電となって壁を駆け、ソフィアが重力で敵を圧し潰し、エミリアが氷の杭で縫い止める。

 さらに後方からは、クレアの精密射撃が敵の魔力コアを正確に撃ち抜いていた。


 圧倒的だった。

 個体性能において、オリジナルである彼女たちと、寿命3時間の量産型とでは次元が違う。

 数による暴力も、最強の連携パーティの前では紙屑同然だった。


「片付いたか……。おい、シキ! 大丈夫か!?」


 レナが振り返り、後方で指揮を執っていたシキに声をかける。

 シキは無傷だ。周囲のドールたちは全滅し、骸の山となっている。


「ああ。だが……妙だ」


 シキは眉をひそめ、足元に転がるドールの残骸を見下ろした。

 彼女たちは、シキを攻撃してこなかった。

 ただ、「壁」となって彼を取り囲み、ヒロインたちから分断しようとする動きを見せていたのだ。


「まるで、時間稼ぎ……いや、位置調整か?」


 その時、シキの足元の床板が、幾何学模様に発光した。


「――なッ!?」


 ガシャァァァンッ!!

 床下から飛び出したのは、魔法ではなく「物理的な」鋼鉄の拘束具だった。

 四方から伸びたアームがシキの手足と胴体を瞬時に捕らえ、強力な電磁ロックで固定する。


「しまっ……物理トラップか……!」

「シキ!?」


 レナたちが駆け寄ろうとする。

 だが、その瞬間、車両全体が激しく振動した。


 ドォォォォォンッ!!!


 爆発音。

 シキがいる車両と、レナたちがいる車両の連結部分が、指向性爆薬によって吹き飛ばされたのだ。


「きゃぁぁっ!?」


 急ブレーキがかかる後方車両と、加速を続ける前方車両。

 二つの車両の間に、絶望的な距離が生まれる。


「――目標確保ターゲット・キャプチャード


 破壊された天井から、黒衣の監査官ゲオルグが舞い降りた。

 彼は拘束されたシキの横に立ち、ニヤリと笑った。


「やはりな。魔女どもは強すぎる。まともにやり合えばこちらの被害が甚大だ。……だが、司令塔である貴様さえ奪えば、あの猛獣どもは烏合の衆となる」


「……最初から、俺が狙いだったか」

「当然だ。『試作零号』。貴様のその異能なき異能……魔力回路への干渉能力こそが、我々にとって唯一無二の希少素材なのだからな」


 遠ざかっていく前方車両のデッキに、レナたちが駆け出してくるのが見えた。


「シキぃぃぃぃッ!!」

「待って! 嫌ぁぁッ! 連れて行かないでぇッ!!」

「マスターッ!!」


 彼女たちが必死に手を伸ばし、魔法を放とうとする。

 だが、距離は既に魔法の射程外。

 さらに、ゲオルグは手元のスイッチを押した。


「追撃は無用だ。……もし魔法を一発でも撃てば、この拘束具が爆発して彼諸共吹き飛ぶぞ?」


 その言葉が聞こえたのか、レナたちの動きが凍りついた。

 手出しができない。

 彼女たちは涙を流しながら、闇の中へ遠ざかるシキを見送ることしかできなかった。


「……悪いな、お前ら」


 シキは拘束されたまま、小さく呟いた。

 自分が人質になれば、彼女たちは手も足も出ない。

 それが分かっているからこそ、シキは抵抗をやめ、冷徹な瞳でゲオルグを見上げた。


「……丁重に扱えよ、役人。俺は高いぞ」

「フン、口の減らないモルモットだ」


 ガタン、ゴトン……。

 走行音だけを残し、シキを乗せた車両は夜の闇へと消えていった。

 残されたのは、主を奪われ、絶望と激怒に震える最強の魔女たちだけだった。

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