第64話:『量産型魔女(ドール)。感情なき模造品』
ドガァァンッ!!
狭い車両内で、レナの爆炎が炸裂した。
襲いかかってきた兵士の一人が吹き飛び、壁に激突する。
その衝撃で、兵士が被っていたフルフェイスのヘルメットが砕け散った。
「はぁ、はぁ……。ゾンビみたいにしつこい……わ……?」
レナは追撃の手を止め、息を呑んだ。
砕けたヘルメットの下から現れた素顔。
それは、無表情で虚ろな瞳をした――「レナ自身」だった。
「え……嘘、でしょ……?」
鏡を見ているようだった。
髪の色も、目鼻立ちも、瓜二つ。ただ、その瞳には光がなく、肌は陶器のように血の気がなかった。
「ターゲット確認。オリジナル『爆炎』。……排除シマス」
その「偽物」は、機械的な音声で呟くと、無傷の片腕を掲げた。
掌に灯るのは、レナと同じ赤い炎。
「私の……コピー……?」
驚愕するのはレナだけではなかった。
リズの前には紫電を纏う兵士が、ソフィアの前には重力を操る兵士が現れる。
ヘルメットの下の顔は、それぞれリズとソフィアに酷似していた。
『驚いたかね? 彼女たちは、君たちの遺伝子情報と魔力データを基に培養された「人造魔女」だ』
スピーカーからゲオルグの得意げな声が響く。
『オリジナルである君たちは、強力すぎる魔力ゆえに精神不安定やオーバーヒートを起こす欠陥品だった。……だが、この量産型たちは違う』
偽レナが炎を放つ。
威力は本物の半分程度。だが、ためらいがない。
『出力を意図的に下げることで安定化させ、感情を排除した。さらに、限界を超えた魔力行使による肉体崩壊を前提とすることで、冷却装置すら不要にしたのだ』
「肉体崩壊を前提……だと?」
シキがレンチで偽ソフィアの重力弾を弾きながら、低く呻く。
『そうだ。彼女たちの稼働寿命は、起動からわずか3時間。……使い捨ての乾電池だよ。コストパフォーマンスに優れた、理想的な兵器だ』
その言葉と共に、偽レナが奇行に出た。
魔法を撃ち合うのではなく、炎を全身に纏ったまま、本物のレナに向かって抱きつきに来たのだ。
「ターゲット捕獲。……自爆モードへ移行」
「っ!? ちょっと、離して! 何する気!?」
レナが慌てて振りほどこうとするが、偽物は万力のような力でしがみついて離れない。
偽物の胸部にある魔力コアが、暴走寸前の赤光を放ち始める。
「やめろ……やめてよ! あんた、死ぬ気なの!?」
レナが叫ぶ。
目の前の少女は、自分と同じ顔で、痛みも恐怖も感じないまま、ただ「爆弾」として散ろうとしている。
「任務完了。……サヨナラ」
カッ……!
閃光が視界を覆う直前。
「――させるかよッ!!」
横合いから飛び込んだシキが、偽レナの胸板を工具で貫いた。
物理的な破壊。
魔力コアを強制的に粉砕された偽物は、糸が切れたように脱力し、レナの足元に崩れ落ちた。
「あ……あぁ……」
レナは震えながら、足元の「自分」を見下ろした。
動かなくなった人形。その顔は、最期まで無表情だった。
「……ふざけないでよ」
レナの拳がわなわなと震える。
「寿命が3時間……? 使い捨て……? 命をなんだと思ってるのよ!!」
彼女の怒りの咆哮が車内に響き渡る。
だが、その怒りを嘲笑うかのように、奥の車両から次々と新たな「ドール」たちが溢れ出してくる。
自分たちのコピーが、自分たちを殺すために消費されていく地獄絵図。
「……シキ。私、あいつらが許せない」
「奇遇だな。俺もだ」
シキは冷徹な瞳で、スピーカーを見上げた。
「効率重視の粗悪品をばら撒く三流設計者……。俺が直々に『廃棄処分』にしてやる」
列車は加速し続ける。
感情なき模造品たちの墓場へと向かって。




