第63話:『校外演習という名の罠。魔導列車での密室』
ガタン、ゴトン――。
規則的な振動と共に、車窓の景色が飛ぶように流れていく。
アトラス学園と帝都を結ぶ『帝国魔導鉄道』。
その最上級特別車両を貸し切りにした旅は、表向きには優雅そのものだった。
深紅のベルベットの座席、銀食器に盛られた軽食、クリスタルのシャンデリア。
だが、車内の空気は重苦しく沈殿していた。
「……完全に隔離されたな」
シキは端末の画面をタップしながら、小さく舌打ちをした。
「外部通信、全滅だ。強力な結界魔法で、この車両全体が『移動する結界』の中に閉じ込められている。クレア、外の様子はどうだ?」
最後尾の座席で窓の外を警戒していたクレアが、スコープから目を離さずに答える。
「ダメです。窓ガラスに見えない魔力膜が張られています。物理的には割れますが、外に出た瞬間、高速走行の風圧と防御結界の電撃でミンチにされます」
「袋の鼠、というわけね」
エレオノーラが冷めた紅茶を見つめながら呟いた。
「『特別遠征』などとよく言ったものだ。これは護送車だぞ。我々を帝都の実験施設へ直送するためのな」
監査官ゲオルグの命令により、シキたちは「能力測定のため」という名目で、帝都への出頭を命じられた。
拒否すれば学園全体を反逆罪で封鎖すると脅されては、従うほかなかった。
「ま、向こうに着くまでに『おもてなし』があるだろうとは思っていたが……」
シキが立ち上がり、工具ベルトに手をかけた瞬間。
車両の前後の連結ドアが、プシューッという音と共に同時に開いた。
ザッ、ザッ、ザッ。
軍靴の音を響かせて入ってきたのは、十数名の兵士たちだった。
全員がフルフェイスのヘルメットと、重厚な魔導装甲服を身に着けている。
だが、奇妙だった。
殺気がない。恐怖もない。まるで機械のような無機質な圧迫感だけが漂っている。
「誰よ、あんたたち! チケット持ってるの!?」
レナが威嚇しながら炎を掌に灯す。
兵士たちは答えない。
ただ、先頭の一人が無言で杖を構え、即座に殺傷用の風魔法を放った。
ヒュンッ!
躊躇のない初撃。
「っと、危ない!」
ソフィアが瞬時に前に出て、タワーシールドで風の刃を受け止める。
「話し合いの余地なしか。……上等よ!」
レナが踏み込み、爆炎を放つ。
ドォォン!!
狭い車内で炎が炸裂し、先頭の兵士2名が火だるまになって吹き飛んだ。
「ハッ、口ほどにも――」
レナが勝利を確信した、その時。
ゆらり。
火だるまになった兵士が、何事もなかったかのように立ち上がった。
皮膚が焼け爛れ、装甲が溶けて肉に食い込んでいるにもかかわらず、彼らは悲鳴一つ上げない。
それどころか、焼けた腕で淡々と杖を構え直し、次弾の装填を始めたのだ。
「は……? なんで立ってるの? 痛くないわけ!?」
レナが戦慄する。
リズが紫電となって駆け抜け、別の兵士の腕を斬り飛ばす。
だが、腕を失った兵士は、傷口から血を垂れ流しながらも、残った片腕でリズの首を掴もうとした。
「き、気持ち悪いっ! こいつら何なの!?」
リズが慌ててバックステップで距離を取る。
痛みを感じない。恐怖を感じない。
肉体が破壊されるまで、プログラムされた動作を繰り返すだけの存在。
「……なるほどな。監査官の連中、悪趣味な『人形』を作ったもんだ」
シキが冷静に分析する。
「痛覚遮断。自律神経系の完全掌握。……こいつらは人間じゃない。脳を魔導回路に置換された『生体兵器』だ」
車内放送のスピーカーから、ノイズ混じりのゲオルグの声が響いた。
『――ご名答だ、試作零号。彼らは「恐怖」というバグを取り除いた、理想的な兵士たちだ』
『さあ、テストを開始しよう。帝都に着くまでに、彼らを全滅させられるかな? ……まあ、この列車にはあと100体ほど積んであるのだがね』
前後から溢れ出す、感情のない兵士の波。
逃げ場のない高速列車の中で、終わりのない消耗戦が幕を開けた。
「……100体か。骨が折れる作業になりそうだ」
シキは巨大なレンチを構え、襲い来る人形たちの群れを見据えた。
「総員、迎撃だ! ただし車両を壊すなよ! 外に放り出されたら即死だぞ!」




