第59話:『戴冠式はベッドの上で。新・学園序列一位』
闘技場での決着直後。
静まり返る全校生徒の眼前で、前代未聞の『公開メンテナンス』が行われていた。
「あっ、あぁっ……! そこ、ダメェ……! 回路が、痺れるぅッ!」
エレオノーラがガクガクと背中を反らし、嬌声を上げる。
シキは彼女を膝の上に乗せ、その背中や首筋に指を這わせていた。暴走し、焼き切れかけた彼女の魔力回路を正常化するための応急処置だ。
「じっとしてろ。長年の『未来演算』の酷使で、脳の神経伝達系がボロボロだ。……まったく、よくこんな状態で平気な顔をしてられたな」
「うぅ……っ。シキの手、熱い……。余の中身が、書き換えられていく……っ」
端から見れば、それは濃厚な愛撫にしか見えなかった。
絶対的なカリスマだった皇女が、一人の男に弄られ、快楽に喘いでいる。
その光景は、生徒たちに「序列の完全なる逆転」を骨の髄まで理解させるのに十分すぎた。
「あ、あの皇女様が……とろとろになってる……」
「勝負あり、だな……」
†
数時間後。生徒会本部奥にある、皇女の私室。
天蓋付きの巨大なベッドの上で、エレオノーラは頬を紅潮させたまま横たわっていた。
「……気分はどうだ、皇女様」
「最高だ……。頭が軽い。まるで雲の上にいるようだ」
シキがサイドテーブルに水を置くと、エレオノーラは甘えるように彼の手を掴み、自分の頬に押し当てた。
「シキ。……余を支配してよいのは、余を負かした其方だけだ」
彼女はうっとりとした瞳で告げる。
「余はもう、玉座には座らぬ。あそこは寒くて硬い。……余の玉座は、ここ(ベッドの上)でいい」
「おいおい、誰が学園を統治するんだよ」
「其方がやれ」
彼女は枕の下から、豪奢な杖――学園全権を示す『支配の錫杖』を取り出し、シキに押し付けた。
「これは余からの、愛の証だ」
「重すぎるプレゼントだな……」
「余は其方の『愛玩動物』になる。だから、面倒な決断や政治はすべて飼い主がやってくれ。余は其方の膝の上で、ただ可愛がられていればそれでいい……」
完全に責任放棄(ニート化)宣言だった。
張り詰めていた糸が切れた反動で、彼女は「何もしたくない、ただシキに甘やかされたい」というダメ人間に退化してしまったのだ。
「……はぁ。とんだ貧乏くじを引いたな」
シキはため息をつきつつ、錫杖を受け取った。
「いいだろう。だが、表向きのトップはお前のままだ。俺はあくまで『顧問』として、裏から操らせてもらう」
「ふふ、好きにしろ。……ああん、マスターの命令口調、ゾクゾクする……♡」
†
翌日。学園には新たな序列が布告された。
表向きの序列1位は、変わらずエレオノーラ・ヴィクトリア。
だが、誰もが知っていた。
彼女が玉座で書類に判を押す時、その傍らには常に気だるげな技師の姿があり、彼女がうっとりとした目で彼にお伺いを立てていることを。
序列2位以下、リズ、クレア、レナ、エミリア、ソフィア。
彼女たちもまた、その技師の一挙手一投足に従っている。
――序列外、『無能力者』シキ。
彼こそが、最強の魔女たちをすべて手懐け、意のままに操る『裏序列1位』である。
学園の歴史が変わった。
能力の優劣ではなく、「誰がシキに一番愛されているか」でヒエラルキーが決まる、新たな戦国時代の幕開けであった。
「……で、なんで俺の周りにはいつも問題児ばかり集まるんだ?」
生徒会室の真ん中で、シキは頭を抱えていた。
彼の周りでは、今日も「誰がシキの膝の上に座るか」で、学園最強の魔女たちが大喧嘩を繰り広げているのだった。




