第54話:『開戦、対「五大元素」。一人ですべてを封殺する者』
学園中央闘技場。
観客席を埋め尽くす全校生徒の視線が、中央のステージに注がれていた。
シキ率いる最強の5人パーティ対、序列1位エレオノーラ・ヴィクトリア。
学園の全権を賭けた、歴史に残る『序列戦』のゴングが鳴らされた。
「行くぞ! 手加減はなしだ、全員で潰す!」
シキの号令と同時。
最初に動いたのは、やはり最速のこの女だった。
「先手必勝! 瞬きしてる間に終わらせてあげるわ!」
バヂィッ!!
リズ・スカーレットが紫電と化す。
神速の突撃。音速を超えたその拳は、エレオノーラの眉間に向かって一直線に突き進む――はずだった。
「――3歩目。右足が2センチずれるぞ」
エレオノーラは棒立ちのまま、ボソリと呟いた。
その瞬間。
リズの踏み込んだ地面の敷石が、わずかな衝撃で砕けた。本来なら問題ない微細な亀裂。だが、音速の世界では、その数ミリの段差が命取りになる。
「えっ!?」
バランスを崩したリズは、自らの速度に振り回され、エレオノーラの横を通り過ぎて壁に激突した。
ドォォォォンッ!!
「ぐっ……!? な、なんでそこに亀裂が……!」
「余が入場した際、ヒールで踏んでおいたのだ。……其方がそこを通ることは分かっていたからな」
戦慄する間もなく、第二波が襲いかかる。
「隙だらけよ! 消し飛びなさい!」
レナが両手から極大の火球を生成する。
だが、放とうとした瞬間、火球はプシュンと情けない音を立てて消失した。
「なっ……魔力が霧散した!?」
「気圧だ。余が先ほど吐いた息で、其方の周囲の酸素濃度をわずかに下げておいた。……燃焼には酸素が必要だろう?」
エレオノーラは指一本動かしていない。
ただそこに立ち、呼吸をし、歩いただけ。それら全ての動作が、数分後の未来への「布石」となっていたのだ。
「させません! 『重力結界』展開!」
ソフィアが即座にエレオノーラを囲むように障壁を展開する。
だが、エレオノーラは一歩、右に動いていた。
「位置が悪い。その場所では、味方の射線を塞ぐぞ」
ヒュンッ!
3キロ先から飛来したクレアの不可視の矢が、あろうことかソフィアの展開した障壁に弾かれた。
ソフィアがエレオノーラを閉じ込めようとした壁が、逆にクレアの狙撃からエレオノーラを守る盾になってしまったのだ。
「そ、そんな……! 私が邪魔を……!?」
「計算通りだ。……退屈だな、あまりに予定調和すぎる」
エレオノーラはあくびを噛み殺し、ゆっくりと歩き出した。
シキたちは包囲陣形を取っているはずなのに、彼女は散歩でもするようにその中央を突っ切ってくる。
「総員、散開! 固まるな!」
シキが叫ぶが、遅い。
「――『跪け』」
エレオノーラがカツン、とヒールを鳴らす。
『絶対支配』の言霊が、物理的な圧力となって空間を圧し潰した。
ガガガガガッ!!
「ぐ、うぅ……っ!?」
「体が、動かな……!」
レナ、エミリア、ソフィア、リズ。そしてシキ。
全員が、見えない巨人の手で押さえつけられたように、地面に縫い留められる。
「道を開けろ。……其処は余の通り道だ」
エレオノーラは、這いつくばる俺たちの横を、優雅に通り過ぎていく。
5対1。
火、氷、風、雷、重力。全ての属性を揃えながら、指一本触れることすらできない。
「これが『未来演算』……。じゃんけんで、相手が出す手を知っているどころじゃない。……相手がいつ、どうやって手を出すか、その筋肉の動きまで全て支配されている……!」
シキは額を地面に擦り付けながら、絶望的な演算能力の差を見せつけられていた。
だが、その瞳だけは死んでいなかった。
見えすぎる未来。完璧すぎる計算。
――そこに、必ず「穴」があるはずだ。




