第53話:『最終決戦の狼煙。賭けるは「学園の全権」』
3日後の正午。
運命の刻。
俺は再び、生徒会本部『天空の玉座』の扉の前に立っていた。
「……来たか。時間の正確さは評価してやろう」
扉の向こう、玉座に座るエレオノーラは、退屈そうに頬杖をつきながら俺を見下ろした。
彼女の『未来演算』によれば、俺は今、ここで膝をつき、靴に口づけをして忠誠を誓うはずだ。
「さあ、跪け。そして余のペットとして、一生を檻の中で過ごす誓いを――」
「断る」
俺の短い言葉が、広い謁見室に響き渡った。
エレオノーラの眉が、ピクリと動く。
「……何? 聞き間違いか?」
「いいや、何度でも言ってやる。お前のペットになんてなる気はない。……俺がここに来たのは、土下座するためじゃない。『喧嘩』を売りに来たんだ」
俺はポケットから、一枚の紙を取り出し、彼女に向けて放り投げた。
それは、学園の規則に則った正式な『決闘状』。
「序列1位、エレオノーラ・ヴィクトリア。貴様に『序列戦』を申し込む」
静寂。
そして次の瞬間、エレオノーラは腹を抱えて笑い出した。
「クックックッ……! アハハハハッ!! 序列戦だと!? この余に!? 学園の神に弓を引くと言うのか!」
彼女の笑い声がビリビリと空間を震わせる。
「無駄だ。余の演算では、其方たちの勝率は0.00%だ。万に一つも勝ち目はない」
「なら、賭けようぜ」
俺は不敵に笑い、指を突きつけた。
「条件はこうだ。もし俺たちが負ければ、俺もお前が欲しがってる5人の魔女も、全員お前の奴隷になってやる。一生、靴の裏でも何でも舐めてやるよ」
「ほう……。で、其方が勝てば?」
俺はニヤリと口角を吊り上げた。
「お前の持つ『学園全権』および『命令権』を剥奪する。……そして」
一歩、前に踏み出す。
「お前を俺の専属患者にする。その歪みきった性格と、高慢ちきな思考回路……俺が徹底的に『メンテナンス』して、まともな人間に作り直してやる」
それは、皇女に対するこれ以上ない侮辱であり、宣戦布告だった。
エレオノーラの瞳から、笑いの色が消える。
代わりに宿ったのは、凍てつくような絶対零度の殺意。
「……いいだろう。その傲慢な口、二度と利けぬように縫い合わせてやる」
彼女が指を鳴らす。
契約成立。
学園中枢のシステムが作動し、校内放送が鳴り響く。
『緊急通達。序列1位対序列外。学園の全権を賭けた、最終序列戦を承認する』
†
玉座の間を出た俺を、廊下で待っていたのは5人の少女たちだった。
「遅いぞ、シキ。待ちくたびれた」
両手に炎を滾らせる、序列4位『爆炎』のレナ。
「まったく、無茶な賭けをするわね。……でも、嫌いじゃないわ」
氷の槍を生成する、序列5位『氷雪』のエミリア。
「私の盾は、貴方を守るためにあります。……今度こそ、絶対に砕けさせません」
巨大なタワーシールドを構える、序列6位『重力』のソフィア。
『風向き、視界良好。……私の愛する人を奪おうとする泥棒猫は、皇女だろうと射抜きます』
インカム越しに殺気を飛ばす、序列3位『天弓』のクレア。
「私を置き去りにできると思わないでよね。……神速の輝き、見せてあげる」
バチバチと紫電を纏う、序列2位『神速』のリズ。
かつては敵対し、俺が修理してきた最強の魔女たち。
全員が、今は俺の背中を守るために並んでいる。
「……ああ、揃ったな」
俺は工具ベルトを締め直し、振り返った。
相手は未来を計算する絶対支配者。勝率ゼロの神。
だが、俺たちには「計算外」を起こす力がある。
「行くぞ、全員! 学園最強の座から、あの高慢ちきな女を引きずり下ろす!」
「「「了解!!」」」
最終決戦の火蓋は切られた。
目指すは計算された未来の「向こう側」。
史上最大のメンテナンスが始まる。




