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第48話:『刹那の永遠。二人だけの超高速デート』

 現実世界では、まだ0.01秒も経過していないはずだ。

 だが、俺たちの精神がダイブした「加速世界ブルー・ワールド」では、もう数時間が経過していた。


「……んぅ……そこ、気持ちいい……」


 青く静止した瓦礫の空の下。

 リズは俺の膝に頭を乗せ、猫のように目を細めていた。

 俺は彼女の燃えるような赤髪に指を通し、優しく頭を撫で続けている。


「ひどい絡まり方だ。焦燥、不安、苛立ち……脳内の神経がスパゲッティみたいに複雑にショートしてるぞ」


 俺の指先から流れる魔力は、彼女の脳内を駆け巡る乱れた電気信号ノイズを一本一本丁寧に解きほぐしていく。

 それは物理的なマッサージとは違う。魂を直接撫で回されるような、甘美な修復作業だ。


「だって……しょうがないじゃない。誰もこの速度についてこれないんだもの」


 リズが拗ねたように呟く。


「喋っても、相手に声が届くまで何分もかかる。相手の返事を待つ間に、私は何万回も思考を繰り返して、勝手に期待して、勝手に絶望して……。だから、もう考えるのをやめて、ただ走り回るしかなかったの」


 彼女の独白は切実だった。

 常人の数千倍の思考速度。それは、常に世界から孤立し続けるという呪いだ。

 彼女の頭の中は、処理しきれない情報のゴミとストレスでパンク寸前だったのだ。


「……もう大丈夫だ。俺が全部クリアにしてやる」


 俺は指先に意識を集中し、彼女の脳髄の奥深くにある「興奮中枢」を優しく鎮火クールダウンさせた。


「あ……っ、んぁ……っ!」


 リズの背中がビクンと跳ねる。

 張り詰めていた神経が緩み、代わりにドロリとした安堵感が脳を満たしていく。

 それは、長年不眠症だった患者が、極上のベッドで眠りに落ちる瞬間に似た、抗いがたい快楽。


「不思議……。どうして、アンタだけは平気なの?」


 リズは潤んだ瞳で俺を見上げた。


「どんなに速く動いても、どんなに叫んでも、誰も私の声を聞き取ってくれなかったのに……。どうしてアンタは、私の隣で、同じ速さで息をしてくれるの?」


 彼女の問いに、俺は苦笑して答えた。


「俺は技師エンジニアだからな」


 俺は彼女の額にかかる髪を払った。


「暴走して回転数が上がりすぎたパーツがあるなら、俺も同じ速度までギアを上げて、並走してやるのが仕事だ。……置いてきぼりにはしないさ」


「……っ、バカ。……カッコつけすぎ」


 リズの顔がみるみる赤くなる。

 彼女の思考こころが、歓喜で震えているのがダイレクトに伝わってくる。

 誰かと時間を共有できること。

 自分の言葉が、待たされることなく即座に相手に届くこと。

 その当たり前の会話キャッチボールが、彼女にとってはどんな宝石よりも輝く「デート」だった。


「……ねえ、シキ。もっと……もっと奥まで、繋がって……」


 リズが俺の手を掴み、自分の頭に強く押し付ける。

 彼女の精神防壁はもうズタズタに溶けていた。


「私の頭の中、アンタでいっぱいにして。……この寂しい世界を、アンタの魔力いろで塗りつぶしてよぉ……ッ!」


「注文の多いお姫様だな。……いいだろう、フルコースだ」


 俺は全神経を集中させ、彼女と完全に同調シンクロした。

 脳髄から指先まで、痺れるような快感の波が二人を包み込む。

 刹那の永遠。

 現実世界では瞬きするほどの時間の中で、俺たちは魂が溶け合うほどの濃厚な時間を刻みつけていた。

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