第46話:『雷撃捕獲作戦。避雷針は誰だ』
広場は、紫電の嵐に包まれていた。
リズ・スカーレットの暴走は止まらない。彼女は苛立ちを撒き散らすように、目につく障害物を次々と粉砕していく。
「遅い、遅い、遅いっ! 誰も私に触れないじゃない!」
彼女の叫びが残響となって木霊する。
だが、その刹那。
ヒュンッ!
一筋の風の矢が、リズの鼻先を掠めた。
物理的なダメージはない。だが、その矢には紙切れが結び付けられていた。
『バーカ。足元がお留守よ、電気娘』
「……あ?」
リズのこめかみに青筋が浮かぶ。
3キロ彼方の屋上から、クレア・オライオンによる超遠距離挑発だ。
「ナメたマネを……! 先にそっちから潰してやるわ!」
リズが方向転換し、一直線に駆け出そうとした瞬間。
ズズズズズッ!!
地面が隆起し、彼女の進路を塞ぐように巨大な土壁が出現した。
「通行止めよ。速度違反です」
「ここから先は行き止まりよ。大人しく凍ってなさい!」
ソフィアが『重力制御』で瓦礫を集めて壁を作り、エミリアがその隙間を『氷柱』で埋める。
即席の迷路。
だが、リズは鼻で笑った。
「こんな壁、砕けばいいだけでしょ!」
彼女は加速し、氷の壁を蹴り砕こうとする。
しかし、砕いた先にはまた壁。右を向いても壁。上を見上げれば、ソフィアの重力プレスが蓋をしている。
「チッ、うざったい!」
リズの思考が怒りで単純化していく。
迷路を解くのは面倒だ。最短距離で、直線の道を突き進むしかない。
彼女は唯一、壁が薄くなっている正面の一点突破を選んだ。
「そこだ!」
シキの声が響く。
リズが飛び込もうとした直線の回廊。そこに待ち構えていたのは、紅蓮の炎だった。
「逃がさないわよ! 『全方位・火炎包囲網』!!」
レナが両手を叩きつけると、迷路の周囲が一瞬で火の海と化した。
熱波が空気を歪ませる。
リズは舌打ちした。熱そのものは避けられても、炎が酸素を奪い、視界を遮る。
全方位が壁と炎。
逃げ道は、炎の壁が唯一途切れている、あの一箇所しかない。
「……誘導してるつもり? いいわよ、受けて立つわ!」
リズは挑発に乗った。
いや、彼女のプライドが「罠ごと食い破る」ことを選ばせたのだ。
彼女は紫電を最大出力まで高め、その「開かれた隙間」へと突っ込んだ。
速度は音速の数倍。
もはや誰の目にも止まらない。
だが、その一直線の軌道の上に――男は立っていた。
「……待っていたぞ」
シキは、迫りくる死の光を見据え、一歩も引かなかった。
回避もしない。防御もしない。
ただ両手を広げ、自らが電気を引き寄せる『避雷針』となって、彼女を受け止める構えを取る。
「どきなさいッ! 轢き殺すわよ!!」
リズの絶叫。
ブレーキは効かない。彼女自身にも止められない慣性エネルギーの塊が、シキの胸元へと激突する。
ドォォォォォンッ!!!
衝撃波が広場を薙ぎ払う。
土壁が崩れ、炎が吹き消されるほどのインパクト。
だが、シキは吹き飛ばされなかった。
彼は衝撃の瞬間に『虚数回路』で運動エネルギーを熱変換し、あえて肋骨を数本犠牲にすることで、その衝撃を吸収していたのだ。
「――が、はっ……!」
血を吐きながらも、シキの腕はしっかりと、リズの小さな体を抱きしめていた。
「な、んで……? 死ぬわよ……バカなの!?」
リズが腕の中で目を見開く。
ゼロ距離。
彼女の紫電がシキの体を焼き、シキの血が彼女の頬を濡らす。
「……言っただろ。お前の暴走は、俺が止めるって」
シキは苦痛に顔を歪めながらも、ニヤリと笑った。
「捕まえたぞ。……さあ、修理の時間だ」
次の瞬間、シキの額がリズの額に押し付けられた。
物理的な接触完了。
最強のスピードスターが、ついにその足を止められた瞬間だった。




