第40話:『結成、最強のカルテット。そして次なる雷鳴』
昼下がりの学園広場。
そこを歩くだけで、周囲の生徒たちがモーゼの海割れのように道を開けていく。
「……おい、なんでこうなった」
俺、シキは深くため息をついた。
俺の歩く姿は、傍から見れば異様そのものだったからだ。
「えへへ、シキ。今日の背中はあったかいですね」
「……ソフィア。お前、いつまで俺におんぶされてる気だ」
背中には、身長180センチ近い風紀委員長、ソフィア・ガードナー。
彼女は『重力制御』で自身の体重を羽毛のように軽くし、コアラのように俺に張り付いている。かつての鉄壁の威厳はどこへやら、今はただの甘えん坊な大型犬だ。
「あら、シキの左腕は私の指定席よ。譲らないわ」
「抜け駆けはずるい! 右腕は私が確保したんだから!」
左腕には元序列5位のエミリアが絡みつき、右腕はレナが引っ張っている。
そして、俺の耳元のインカムからは、常時監視中のストーカーからの通信が入る。
『――シキさん。前方300メートル右、木陰に貴方をいやらしい目で見ている女子生徒を発見。……排除しますか?』
「するな、クレア。ただの一般生徒だ」
3キロ先から俺を見守る序列3位、『天弓』のクレア。
・前衛火力:レナ(爆炎)
・遊撃支援:エミリア(氷雪・粘着)
・絶対防御:ソフィア(重力・盾)
・超長距離狙撃:クレア(風・不可視矢)
・司令塔兼整備士:シキ(虚無・メンテナンス)
これが、現在の俺のパーティ『設備保全科(仮)』の布陣だ。
学園の上位ランカーを総取りした、文字通りの「最強集団」。
彼女たちの体を握っているのが、無能力者俺だという事実に、周囲は畏怖と困惑の視線を向けている。
「ふふ、無敵ね。今の私たちに喧嘩を売る馬鹿なんて、この学園にはもういないわ」
エミリアが扇子で口元を隠し、優越感に浸る。
確かに、攻守ともに隙がない。単純な戦闘力なら、学園長クラスとも渡り合えるかもしれない。
だが。
俺の『虚数回路』が、チリチリとした違和感を拾った。
殺気ではない。もっと原始的な、肌を刺すような「静電気」の予感。
「……いや。まだ上がいるぞ」
俺は足を止め、空を見上げた。
†
遥か頭上。
学園で最も高い校舎の屋上に、その影はあった。
欄干に片足で立ち、眼下のシキたちを見下ろす少女。
燃えるような赤髪をツインテールに結び、改造されたスポーティな制服を着崩している。
その全身からは、バチバチと紫色の電弧が迸っていた。
「……へぇ。あれが噂の『ハーレムパーティ』?」
少女は退屈そうに欠伸をした。
彼女の動体視力には、シキたちの歩みが止まって見えている。
スローモーションの世界。それが彼女の日常。
学園序列第2位、『神速の魔女』リズ・スカーレット。
雷属性を極め、自身の神経伝達速度を光速に近づけた「速さ」の申し子。
「重力だの、遠距離狙撃だの……。止まって戦うなんて、カメの遊びね」
リズは紫電を帯びた指先で、コインを弾いた。
コインが空中で回転し、落ちてくるまでの間に、彼女は既に5回ほど屈伸運動を終えていた。
「遅い。遅すぎるわ」
彼女の瞳が、獲物を見つけた猛獣のように細められた。
興味の対象は、4人の魔女ではない。
その中心にいる、何の変哲もない男――シキだ。
「あの男……。私の『眼』でも、動きが読めない瞬間がある。……面白そう」
バチッ!!
轟音と共に、彼女の姿が掻き消えた。
残されたのは、焼けた空気の匂いと、屋上の床に残された黒い焦げ跡だけ。
「全員、私のスピードについて来られるかしら? ――試してあげる」
青天の霹靂。
最強のカルテットの前に、回避不能の「神速」が迫ろうとしていた。




