第4話:『初陣。対戦相手はランク900位「水流の魔術師」』
学園の第4闘技場は、生温かい嘲笑に包まれていた。
「おいおい、マジかよ。あの『自爆姫』が序列戦だって?」
「相手は3年のウォルター先輩だろ? ランク900位の『水流使い』だ」
「火属性のバーンハートとは相性最悪じゃん。また自分の火で焼かれて終わりだろ」
観客席からの野次が、私の鼓膜を叩く。
私はフィールドの端で、震える膝を必死に抑えつけていた。
対戦相手、ウォルター・マッケンジー。
水属性の中級魔導士。決して強敵ではないが、私にとっては天敵だ。私の未熟な炎など、彼の水流で簡単に飲み込まれてしまうだろう。
「へへっ、ツイてるぜ。まさか向こうからカモが飛び込んでくるとはな」
対面に立つウォルターが、自身の周りに水の球体を浮かべながらニヤニヤと笑っている。
彼の狙いは明確だ。私が自滅するのを待つか、水をぶっかけて終わりにするか。どちらにせよ、私の負けは確定事項として扱われている。
「……くっ」
悔しいけれど、反論できない。
今までの私なら、このプレッシャーだけで熱暴走を起こしていただろう。
私は隣に立つ、不愛想な相棒を見上げた。
「ねえ、シキ。本当に勝てるの? 私、水属性なんて一度も勝ったことないわよ」
「相性など、出力差で踏み潰せばいいだけの話だ」
シキは私の不安を一蹴すると、工具箱から何かを取り出すこともなく、無造作に私の前に跪いた。
「え?」
「動くな。開戦前に『吸気口』の調整を行う」
シキの手が、私のスカートの裾に伸びる。
そして躊躇なく、私の太腿――ニーソックスとスカートの間の、素肌が露出した「絶対領域」に指を這わせた。
「ひゃうっ!?」
冷たい指先が、太腿の内側にある動脈、魔力的に言えば「魔力吸気口」に触れる。
そこは魔導士にとって急所であり、同時に最も敏感な性感帯に近い場所だ。
「ちょ、ちょっと! ここ闘技場よ!? みんな見てるのに!」
「見せておけばいい。これは威嚇射撃だ」
シキは構わず、私の太腿をグイッと掴んで固定した。
そして、その親指で、太腿の肉を抉るように強く押し込む。
「んっ、あ……っ!?」
痛い、じゃない。
シキの指から、『虚数回路』の冷たい波動が流れ込んでくる。
それが私の太腿の血管を逆流し、詰まっていた「魔力の澱」を強引に押し流していく。
「感度が悪いな。バルブが錆びついている」
「んぅ、あ、あつい、そこ、変な感じするぅ……っ!」
シキが指を動かすたびに、太腿から腰にかけて、電流のような痺れが走る。
膝から力が抜け、私はシキの肩に手を置いてなんとか体勢を保つ。
端から見れば、対戦前にあられもない姿で太腿を弄られている変態カップルだ。観客席がざわめき、ウォルターが顔を赤くして「な、何を見せつけられてるんだ俺は!?」と叫んでいる。
「ふむ……ここか」
シキの指先が、ある一点を強く刺激した。
「あひぃっ!?」
声にならない悲鳴と共に、私の体内を巡る魔力の流れが、カチリと音を立てて切り替わった感覚があった。
今までドロドロと重かった魔力が、サラサラとした液体のように、いや、圧縮された気体のように軽くなる。
「――緊急最適化、完了」
シキがパッと手を離す。
その瞬間。
ドォォォォンッ!!
私の足元から、意志とは無関係に紅蓮の炎が吹き上がった。
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
ウォルターが驚いて後ずさる。
けれど、いつもの「熱くて苦しい」暴走じゃない。
炎は私の体を焼くことなく、私の周囲で美しく渦を巻き、従順に待機している。
まるで、高性能なエンジンのアイドリング音のように、力強く脈打っている。
「な、なにこれ……?」
自分の手を見る。指先から溢れる魔力が、目に見えるほど濃い。
今なら、どんな魔法だって撃てる気がする。
シキは立ち上がり、私の焦げた(と思い込んでいる)頬を指先で拭った。
「言っただろう。お前は欠陥品じゃない。整備不良だっただけだ」
「シキ……」
「さあ、行ってこい。あの程度の水溜まり、蒸発させてやれ」
背中をバンと叩かれる。
その痛みすら心地いい。
私はニヤリと笑い、呆気にとられている対戦相手に向き直った。
「お待たせ。……シャワーの時間には少し熱すぎるかもしれないけど、覚悟してね?」
ゴォッ! と炎が唸りを上げる。
ランク900位ごときが、私の、いいえ「シキの最高傑作」の相手になるものですか!




