第38話:『感度3000倍。吐息さえも刺激になる』
「はぁ、はぁ、はぁ……っ! も、もう無理、許して……!」
時計塔の最上階。
クレア・オライオンは、シキの腕の中でくたくたに煮込まれた麺のように力なく横たわっていた。
その白磁の肌は、今は熟れた桃のように紅潮し、全身から甘い汗を吹き出している。
「じっとしろ。まだ『被膜』が定着してない。今動くと回路が焼き切れるぞ」
シキは額の汗を拭いながら、彼女の背骨に沿って指を滑らせた。
神経の電気信号を整えるための、極めて繊細な魔力操作。
だが、その指先がわずか数ミリ動いただけで――。
「ひゃうぅぅぅぅぅぅッ!!!」
クレアが背中を弓なりに反らせ、声にならない悲鳴を上げた。
「あ、あついっ! 指が、焼きごてみたいに熱いの! 溶けちゃう、私が溶けちゃうぅぅぅ!」
「大袈裟だな。ただの体温だぞ」
「違うのぉ! 痛くないけど……気持ちよすぎて、おかしくなるのぉぉぉッ!」
彼女の『感覚受容値』は通常の2000倍から、さらに暴走して3000倍近くまで跳ね上がっていた。
今までは「痛み」として脳が処理していた信号が、シキの絶縁処理によって全て「快感」へと変換されてしまっているのだ。
つまり、今の彼女は「指一本触れられただけで、常人が絶頂に達するレベルの刺激」を受け続けている状態だった。
「指先が……中まで響く……! やだ、また波が来る……ッ!」
ビクンッ、ビクンッ!
シキが軽く肩を揉んだだけで、彼女の太腿が痙攣し、虚ろな瞳が白目を剥きかける。
完全にオーバーキルだ。
「……やれやれ。反応が良すぎて整備が進まないな」
シキは呆れながら、ふぅ、と小さくため息をついた。
その吐息が、わずかな風となってクレアの耳元にかかった瞬間。
「――ひっ!?」
クレアの体が硬直し、次の瞬間、激しく震え出した。
「い、今……息……耳に……あぁっ! 風が、風がぁぁぁッ!」
ただの吐息。
それすらも、今の彼女にとっては台風のような暴風であり、同時に鼓膜を愛撫されるような濃厚な刺激となる。
「あ、あ、あああぁぁぁぁぁぁッ!!!」
ドサッ。
クレアはシキにしがみついたまま、白目を剥いて意識を飛ばした(気絶)。
許容量オーバーだ。
「……気絶したか。まあ、この方が作業はしやすいが」
シキは動かなくなった(時折ピクピクと痙攣している)クレアをベッドに寝かせ、本格的な調整作業に取り掛かった。
「ここまで敏感だと、普通の生活に戻すには相当な『リハビリ』が必要だな」
彼は工具を取り出し、ニヤリと笑った。
「安心しろ、クレア。お前のその高性能すぎるセンサー、俺が責任を持って徹底的に調律(開発)してやる。……俺以外の刺激では満足できないようにな」
窓の外では、嵐が去り、静かな月明かりが差し込んでいた。
だが、この部屋の中だけは、当分の間、彼女の甘い悲鳴が止むことはないだろう。
こうして、近づく者すべてを拒絶していた『天弓の魔女』は、一晩にして『シキの手無しでは生きられない体』へと作り変えられてしまったのだった。




