第35話:『嵐を呼ぶ特攻。レナとエミリアの合同演習』
「やるわよ、エミリア! 遅れて足引っ張らないでよね!」
「あら、貴女こそ。私の精密なテンポについてこられるかしら? 単細胞さん」
ソフィアの盾の影で、レナとエミリアが背中合わせに立った。
仲は最悪。だが、その実力は学園のツートップだ。
「いくぞ! 作戦開始!」
シキの号令と同時。
二人の魔女が、同時に天と地へ向けて魔力を解放した。
「大地よ、沸騰しなさい! 『焦熱地獄』!」
「大気よ、凍りつきなさい! 『氷結監獄』!」
レナが足元の地面を灼熱の業火で焼き、強烈な上昇気流を発生させる。
対してエミリアは、上空の空気を急速冷却し、重い下降気流の塊を叩き落とす。
下からは熱風。上からは冷気。
相反する二つの巨大な気流が、時計塔の真ん中で正面衝突した。
ゴォォォォォォォォッ!!
物理法則が悲鳴を上げる。
行き場を失った空気は、ねじれ、渦を巻き、行き着く先は一つしかなかった。
回転。
猛烈な回転だ。
「――っ!?」
時計塔を包み込むように、赤と青が混ざり合った紫色の「人工竜巻」が発生した。
それは自然界のそれとは比較にならない、魔力を含んだカオスの嵐。
轟音が鼓膜を叩き、あらゆる音を掻き消していく。
†
時計塔の最上階。
狙撃ポイントに座り込んでいたクレア・オライオンは、突如として視界(感覚)を奪われた。
「なっ……何これ!?」
彼女は耳を押さえ、悲鳴を上げた。
今まで鮮明に見えていた「風の糸」が、ズタズタに引き裂かれている。
どこから風が吹いているのか、どこに敵がいるのか、何も分からない。
まるで、何千ものスピーカーで同時にデスメタルを流されたような、暴力的な空気の振動。
「風が、読めない!? どこ……どこにいるの!?」
彼女は闇雲に弓を引くが、矢は暴風に流され、あさっての方向へ消えていく。
パニックだ。
静寂だけが友達だった彼女にとって、この嵐は未知の恐怖でしかなかった。
†
「――今です! 敵の迎撃が止まりました!」
地上にて、ソフィアが叫ぶ。
彼女はタワーシールドを地面に水平に構え、その上にシキを乗せていた。
「準備はいいですか、シキ。……正直、生身の人間を射出するのは初めてですが」
「安心しろ。俺の体は頑丈にできてる。……それに、お前の計算ならズレないだろ?」
シキは暴風の中でニヤリと笑い、ソフィアの肩をポンと叩いた。
その信頼に、ソフィアは頬を赤らめ、力強く頷いた。
「はいっ! ……では、行きます!」
ソフィアの眼鏡が光る。
盾の表面に、強烈な重力反発エネルギーがチャージされる。
「重力射出!!」
ズドンッ!!
大砲のような轟音と共に、シキの体が空へと弾き飛ばされた。
G(重力加速度)で視界が歪む。
レナとエミリアが作った竜巻の壁を突き破り、シキは一気に高度200メートルへ到達する。
「うおおおおぉぉぉっ!!」
目の前に迫る、時計塔の展望台。
そこには、耳を塞いで震えている孤独なスナイパーの姿があった。
「待ってろよ、迷子の子猫ちゃん! ……今すぐその耳、俺が塞ぎに行ってやる!」
技師の往診は、いつだって強引だ。
シキは空中で姿勢を制御し、窓ガラスを蹴破って、クレアの聖域へと飛び込んだ。




