第34話:『攻略作戦会議。風をどう騙すか』
カンカンカンカンッ!!
金属を叩く甲高い音が、途切れることなく続いていた。
「くっ……! 弾幕が厚すぎます! 一歩も前に出られません!」
ソフィアが展開する『重力障壁』の内側で、俺たちは完全に釘付けにされていた。
時計塔までの距離、あと500メートル。
だが、その空間は濃密な殺意(空気の矢)で埋め尽くされている。
「エミリア! 『光学迷彩』はどうした!?」
「展開してるわよ! でも……きゃっ!?」
エミリアが悲鳴を上げ、頬を押さえる。透明化しているはずの彼女の頬を、見えない矢が掠めたのだ。
「ダメよ、完全にバレてる。姿を消しても、私たちが動くたびに発生する『空気の揺らぎ』を読まれてるわ!」
クレア・オライオンにとって、視覚など飾りだ。
彼女は空間全体の気流を、蜘蛛の巣のように張り巡らせている。俺たちが指一本動かしただけで、その振動が彼女に伝わり、正確無比な狙撃が飛んでくる。
「くそっ、これじゃ近づけないじゃない! 私の射程じゃ、あんなてっぺんまで届かないし!」
レナが塔の頂上を睨みつけ、地団駄を踏む。
彼女の炎は中距離特化。5キロ先の、しかも雲の上のような場所にいる敵には届かない。
・姿は見えない。
・近づけない。
・攻撃は届かない。
完全な詰み(チェックメイト)に見えた。
だが、ソフィアの背中でタブレットを操作していたシキは、不敵な笑みを浮かべた。
「……なるほど。完璧なセンサーだ。静かな湖面に石を投げれば、波紋ですぐに見つかる」
「感心してる場合!? どうすんのよ!」
「簡単だ。波紋を読まれるのが嫌なら――湖ごと掻き回して『嵐』にしちまえばいい」
シキが顔を上げる。
「逆転の発想だ。彼女は『風』を読んでいる。なら、読めないほどデタラメな乱気流を起こして、彼女の『耳』をジャミングする」
シキは三人の少女を見回し、指示を飛ばした。
「レナ、お前は全力で地面を炙れ。上昇気流を作れ」
「えっ? 攻撃じゃなくて?」
「ああ。そしてエミリア、お前は上空で冷気をばら撒け。強烈な下降気流を作るんだ」
熱い空気は上へ。冷たい空気は下へ。
極端な温度差を持つ二つの空気が衝突した時、そこには自然界をも超える爆発的な対流が発生する。
「さらにソフィア。お前が仕上げだ。発生した気流を、お前の『重力』でランダムにかき混ぜろ」
「……なるほど。意図的に『局地的な台風』を作り出す気ですね?」
ソフィアが理解し、眼鏡の奥の瞳を光らせる。
「そうだ。クレアの過敏なセンサーは、微細な音を聞き取るために特化している。そこに、これだけのエネルギー嵐をぶつけたらどうなるか」
「……鼓膜が破れるくらいの『大雑音』になるわね」
エミリアが悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そういうことだ。彼女の視界(聴覚)を完全に奪う。その隙に一気に塔へ突入するぞ!」
シキの号令一下。
最強の矛、最強の魔女、最強の盾が同時に動き出す。
静寂を愛する引き籠もりスナイパーへの、最悪で最高に騒がしい「嫌がらせ」が始まろうとしていた。




