表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/33

第28話:『要塞攻略戦。揺らせ、その堅い装甲を』

 風紀委員会本部、中央管制塔。

 その最上階にある広大なホールで、彼女は待ち構えていた。


「よく逃げずに来ましたね。不純異性交遊の主犯たち」


 ソフィア・ガードナーは、巨大なタワーシールドを床に突き立て、仁王立ちしていた。

 その全身からは、以前にも増して重厚な魔力が立ち上っている。

 だが、シキの目には見えていた。彼女の眉間の皺が、昨日よりも深くなっていることを。

 昨日の大浴場での「不完全なマッサージ」のせいで、右肩だけが軽く、左肩が重いというアンバランスな状態になり、余計に体に負荷がかかっているのだ。


「問答無用。全員、ここで圧壊させます」


 ソフィアが手をかざすと、空間が悲鳴を上げた。

 『重力障壁』最大展開。もはや空気の壁というより、見えない鋼鉄のプレス機が迫ってくるようだ。


「くっ、重い……! エミリア、頼む!」

「はいはい、人使いが荒いお兄ちゃんね」


 エミリアが前に躍り出る。

 彼女はソフィアの重力波形を一瞬で解析し、真逆のベクトルを持つ『反重力』を模倣して展開した。


相殺キャンセル……!?」

「完全に消すのは無理だけど、数秒なら支えてあげるわ。……ほら、レナ! やりなさい!」


 エミリアが作り出した一瞬の隙。

 その背後から、レナが飛び出した。


「もう、どうにでもなれッ! 行くわよ、新型魔法!」


 レナの両手に灯るのは、いつもの爆発する炎ではない。

 細かく明滅し、ブゥン……と低周波のうなり声を上げる、特殊な『振動炎』だ。


「喰らいなさい! 『深層浸透・温熱波動ディープ・ヒート・ウェーブ』!!」


 放たれた炎の波が、ソフィアへと殺到する。

 ソフィアは鼻で笑った。


「愚かな。熱だろうと何だろうと、質量を持つエネルギーは私の『壁』を越えられません」


 彼女は盾を構え、重力密度を極限まで高める。

 炎の波が、見えない壁に衝突した。

 本来なら、そこで弾き返されるか、霧散するはずだった。


 だが、違った。


 ブゥゥゥゥゥン……!!


 衝突した瞬間、炎は弾かれることなく、ソフィアの展開した障壁全体を「震わせ」始めたのだ。


「な……!? 衝撃が、止まらない……?」


 ソフィアが目を見開く。

 シキの狙いはここだ。

 硬い壁ほど、振動をよく伝える。彼女が防御を固めれば固めるほど、その障壁は優秀な「伝導体」となり、レナの放つ毎秒50回の振動を減衰させることなく、内部の術者へ伝えてしまう。


 そして、その振動が盾を持つ腕を伝わり、ソフィアの本体へと到達した時――。


「あ、ぐっ……!?」


 ソフィアの表情が、苦痛から一転、奇妙なものへと歪んだ。

 ガガガガガ……ッ!

 全身の骨格に、心地よい振動が駆け巡る。

 それは、ガチガチに固まっていた筋肉の繊維を揺らし、強制的に血流をポンプアップさせる極上の刺激。


「な、なによこの攻撃……! 痛くない……いや、くすぐったい……!?」


 ソフィアは必死に踏ん張ろうとした。

 だが、防御のために力を入れれば入れるほど、筋肉が振動と共鳴し、勝手に力が抜けていく。


周波数同調シンクロ。ターゲットの僧帽筋および脊柱起立筋、共振開始」


 後方でタブレットを操作していたシキが、冷徹に告げた。


「レナ、出力を上げろ。そこだ、腰の深層筋インナーマッスルに届けろ」

「注文が多いわね! ……えぇい、これでも食らえッ!」


 レナが魔力を注ぎ込むと、振動はさらに激しさを増した。

 もはや攻撃ではない。これは超強力な、全身用の電動マッサージ機に拘束されているのと同じだ。


「あ、ひっ……! だめ、そこ……響くぅぅぅッ!」


 カラン……。

 ソフィアの手から、巨大なタワーシールドが滑り落ちた。

 握力が、入らない。

 足腰が、笑うようにガクガクと震えている。


「力が……抜けて……。立って、いられない……」


 鉄壁の風紀委員長が、戦場の真ん中で四つん這いになり、とろんとした目で床に手をついた。

 その顔は、屈辱と快楽がない交ぜになり、赤く染まっている。


「くっ、殺せ……! こんな、こんなふざけた魔法で……!」

「殺しはしない。……言っただろ? 『凝り』をほぐしてやるって」


 シキがゆっくりと歩み寄る。

 最強の盾は落ちた。

 あとは、丸裸になった(精神的に)彼女を、直接「仕上げ」るだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ