第27話:『攻略の鍵。共振振動(マッサージ・バイブ)』
地下工房のモニターには、赤字で『WANTED』の文字が点滅していた。
学園中枢への侵入、風紀委員長への暴行(という名のマッサージ)、および公務執行妨害。
罪状は山積みだ。
「もう終わりよぉ……! 退学どころか、投獄コースじゃない!」
レナが頭を抱えて机に突っ伏している。
一方、エミリアは優雅に爪を磨きながら、「牢屋のご飯って美味しいのかしら?」とズレた心配をしている。
「泣くなレナ。まだ手はある」
俺はホワイトボードの前に立ち、マーカーのキャップを外した。
そこには、ソフィアの『重力障壁』の構造図が描かれている。
「いいか。ソフィアの防御は『拒絶』だ。外部からの衝撃を、空間密度を高めることで弾き返している。……だが、どんなに硬い壁にも、必ず『固有振動数』が存在する」
俺はボードに波形を描き込む。
「固有振動数……?」
「そうだ。ワイングラスを声で割る原理と同じだ。壁と同じ周波数の振動を与えれば、壁は破壊されずとも、その振動を内部に透過させてしまう」
俺はニヤリと笑い、二人に視線を向けた。
「つまり、強引にこじ開ける必要はない。壁をすり抜けて、内部のソフィア本体を直接揺さぶればいい」
「ゆ、揺さぶるって……どうやって?」
俺はボードに大きく作戦名を書き殴った。
『対重力障壁用・遠隔共振術式』
「はぁぁぁぁぁ!?」
レナが素っ頓狂な声を上げた。
エミリアも手を止めて、興味深そうに目を細める。
「具体的にはこうだ。レナ、お前の炎は熱量が高いが波長が荒い。これを『細かいパルス状の熱波』に変換しろ。イメージとしては、肩こり用温熱治療器だ」
「せ、世界を救う魔法使いを目指してたのに……温熱治療器……」
「そしてエミリア。お前の精密操作で、レナの熱波に『振動』を上乗せする。ソフィアの筋肉の緊張度に合わせて、毎秒50回の微細振動を与えろ」
俺は二人の役割を解説する。
レナが動力源。エミリアが制御装置。
そして俺が、ソフィアの筋肉の凝り具合をリアルタイムで解析し、周波数を指示するオペレーターだ。
「二人の魔力が完全に同期し、ソフィアの『凝り』と共振した時……彼女の鉄壁の守りは、ただの『巨大な音響スピーカー』と化す」
「つまり……どうなるの?」
「彼女の鎧(障壁)が、そのまま彼女自身を揉みほぐす『マッサージチェア』に変わるんだよ」
シーン……と工房が静まり返る。
レナは顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。
「さ、最低っ! つまり、遠くから委員長をブルブルさせて、腰砕けにさせる気!?」
「人聞きが悪いな。これは『平和的武装解除』だ。彼女の体は限界だと言ったろ? 凝りをほぐして、リラックスさせてやるんだ。戦意を喪失するほどにな」
俺は真顔で力説する。
これはふざけているわけではない。物理演算と生体工学に基づいた、極めて論理的な攻略法だ。
しかし、エミリアは艶めかしく唇を舐めた。
「ふふ、面白そう。あの堅物委員長が、人前で立っていられないくらいトロトロになるのね? ……私、そういう『開発』の手伝いなら大歓迎よ」
「エミリアまで! もう、どうなっても知らないからぁ!」
レナはやけくそ気味に叫んだ。
だが、やるしかない。正面突破が不可能な以上、絡め手で攻めるしかないのだ。
「行くぞ。ターゲットは風紀委員会本部。……あいつの肩こりが爆発する前に、俺たちが『極上の癒やし』をデリバリーしてやる」
俺は工具箱を担いだ。
最強の盾vs最強の遠隔マッサージ。
学園の歴史に残るであろう、奇妙な決戦の火蓋が切られようとしていた。




