第23話:『絶対防御。全ての攻撃は「0」になる』
「――舐めないでよね! 風紀委員だか何だか知らないけど、私たちを誰だと思ってるの!」
瓦礫の山から這い上がったレナが、怒りの形相で叫んだ。
彼女の全身から、ドロリとしたピンク色の炎が噴き出す。シキによって調整された『感度増幅粘着炎』の最大出力だ。
「行くわよエミリア! 合わせなさい!」
「人使いが荒いわね……。でも、あんな堅物は私も嫌いよ」
エミリアが優雅に指を鳴らすと、宙に無数の氷柱と雷球が出現する。
元序列5位と、現・期待のルーキーによる同時攻撃。
それは本来、学園の訓練場一つを消し飛ばすほどの火力だ。
「燃え尽きなさい! 『超・焦熱粘着爆撃』!」
「『雷氷嵐舞』!」
熱波と冷気、そして雷撃が螺旋を描いて融合し、ソフィアに向かって殺到する。
逃げ場はない。直撃すれば、たとえ戦車でも蒸発するエネルギーの奔流。
だが。
ソフィアは、その巨大なタワーシールドを構えることすらせず、ただ直立していた。
眼鏡の奥の瞳が、少しも揺らがない。
「……無駄です」
ドォォォォォォンッ!!
攻撃がソフィアに着弾した瞬間、奇妙な現象が起きた。
炎も、氷も、雷も。
彼女の体に触れる数メートル手前で、見えない巨大な手に押しつぶされたように、真下へと墜落したのだ。
地面に叩きつけられた魔法は、そこで霧散し、ただのシミへと変わった。
「は……? 何、今の……」
レナが愕然と口を開く。
障壁を展開した形跡もない。魔法を相殺したわけでもない。
ただ、攻撃が「落ちた」のだ。
「私の属性は『土』。その本質は『重力』の操作です」
ソフィアは埃一つついていない制服の襟を正し、冷徹に告げた。
「私の周囲3メートルは、空間密度を極限まで圧縮した『重力障壁』が常時展開されています。物理攻撃も、魔力攻撃も、あらゆる質量を持つものは、私の許可なくこの領域を通過できません」
彼女は一歩、踏み出す。
ズズンッ……と、空気が重くなる。
「貴女たちの魔法は軽すぎる。……覚悟も、魔力密度も」
絶対的な拒絶。
攻撃が通じないどころか、近づくことさえ許されない不可侵の要塞。
レナとエミリアの顔に、絶望の色が浮かぶ。
勝てるイメージが湧かない。あの盾を振るわれる以前に、この見えない壁を突破する方法がない。
だが。
後方で戦況を見つめていたシキだけは、別のモノを見ていた。
(……常時展開、だと?)
シキの『虚数回路』が、ソフィアの周囲を取り巻く異常な魔力場を解析する。
確かに鉄壁だ。全方位、死角なし。
だが、それは同時に「常に数トンの重りを全身に背負い続けている」のと同義だ。
自身の重力魔法による負荷は、術者自身の肉体にも跳ね返る。
シキの目は捉えた。
ソフィアの涼しい顔。その眉間に、ファンデーションでも隠しきれないほど深く刻まれた、苦痛の皺を。
そして、軍服のような制服の下で、岩のようにガチガチに強張っている肩の筋肉を。
(なるほどな。……あれじゃあ、夜も眠れないはずだ)
シキは口元を歪めた。
完璧に見える風紀委員長。
だが、その体は悲鳴を上げている。
常に気を張り詰め、重力を操り続けた代償――『超・慢性的な肩凝りと頭痛』。それが彼女のバグだ。
「……おい、レナ」
「な、なによ! 今どうするか考えてるんだから……!」
「作戦変更だ。火力はいらない」
シキは工具ベルトから、小さなマッサージオイルの瓶を取り出し、ニヤリと笑った。
「あの堅物委員長の『凝り』をほぐしてやる。……鎧の隙間から、トロトロにな」
絶対防御の攻略法。
それは破壊ではなく、癒やし(という名の攻撃)だった。




