第100話(最終話):『魔力ゼロの最強技師、永遠のメンテナンス』
機工魔導都市アトラスの中心にそびえる、中央管理塔の最上階。
世界で最もセキュリティレベルが高く、そして最も騒がしいペントハウスの扉が、勢いよく開かれた。
「ただいまぁぁぁーッ!! シキぃぃぃッ!!」
ドサッ!!
ソファーで図面を引いていたシキの背中に、赤い突撃弾――レナが飛び乗った。
「ぐふっ!? ……おい、防衛長官。ドアは静かに開けろと何度言えば分かるんだ」
「だってぇ、今日は会議続きで疲れたんだもん! 肩凝った! 魔力詰まった! 早く揉んで!」
レナがシキの首に頬擦りし、猫のように甘える。
そこへ、他の面々も雪崩れ込んできた。
「あ、抜け駆けはズルいですわよ! 私だって生徒指導でクタクタなんですのよ!」
エミリアが反対側からシキの腕に抱きつく。
「シキー! 今日、新しいブースターのテストで足がパンパンなの! マッサージして!」
リズがシキの膝の上に陣取る。
「私も……建設現場の視察で、腰が……。シキ成分の補充が必要です」
ソフィアが背後からシキの腰に手を回す。
「……ん。私も、目が疲れた。シキの顔を見て回復する」
クレアがシキの目の前に顔を近づけ、じっと見つめる。
「まったく、余を置いて盛り上がるとは感心せんな。余も、今日は公務で酷く神経を削ったのだぞ?」
あっという間に、シキは美女たちの山に埋もれてしまった。
国の重鎮たちが、プライベートではこの有様だ。
国民が見たら腰を抜かすだろう。
「……マスター。お茶が入りました」
そこへ、エプロンドレスを着た銀髪の少女がトレイを持って現れた。
かつての機械的な外見とは違い、温かみのある人工皮膚を纏った、人間と見紛う姿のオメガ・ワンだ。
「ありがとう、オメガ。……お前が一番まともだな」
「いいえ。私も『嫉妬回路』の数値が限界突破しています。お茶を置いたら、その山に混ざる予定です」
「混ざるな」
シキは苦笑し、重たい(愛おしい)彼女たちを見渡した。
5年前、世界を敵に回して戦っていた日々が嘘のようだ。
だが、変わらないものもある。
「……ったく。どいつもこいつも、俺がいなきゃガタガタになりやがって」
シキは文句を言いながらも、その手は優しくレナの頭を撫でていた。
「当たり前でしょ? 私たちはシキ専用なんだから」
レナが嬉しそうに笑う。
「世界中が平和になっても、私たちの管理者はシキだけなんだからね」
そう。
彼女たちはもう兵器ではない。
世界を支える立派な指導者だ。
だが、その心と体の平穏を守れるのは、世界でただ一人。
魔力を持たない、「ゼロ」の男だけ。
「……いいだろう」
シキは立ち上がり、彼女たちを一度押しのけた。
そして、愛用の腰袋をジャラリと鳴らし、いつもの工具――黄金色に輝くスパナとチューナーを取り出した。
「業務連絡だ。本日の営業は『貸切』とする」
シキがニヤリと笑うと、部屋の照明が少しだけムードのある色に落ちた。
その合図に、彼女たちの瞳が期待と興奮で潤む。
「レナの凝りも、リズの足も、エミリアの回路も……全員まとめて面倒見てやる。今日は朝まで寝かさないぞ?」
「「「はいッ、マスター!!」」」
歓声と共に、再び彼女たちがシキに殺到する。
窓の外には、二人が作った平和な街の夜景が、宝石箱のように輝いていた。
魔力ゼロの最強技師。
彼の仕事は終わらない。
愛する「壊れたお姫様」たちが、最高の笑顔で輝き続ける限り――そのメンテナンスは、永遠に続くのだから。
(全100話・完)




