94 慶事
真上を向いたままで神さまは、佐久夜に鏡面を見せた。佐久夜の手によって磨かれた鏡は、しっかりと佐久夜の顔が映り込んでいる。
「あっ!」
小さい青銅鏡ではあるが、鏡面には真っ白な文字が三文字浮かび上がっていた。
「佐久夜、お主にも見えたか?」
スセリビメが、指先で伝う涙をそっと拭って、笑顔を見せた。
「にゃおん、にゃおん!えがったにゃあ!えがったにゃあ!」
朧も声を出して喜び咽び泣く。
「もしかして…」
「お主の想像通りじゃ。兄さま、早よ、妾たちにも教えてたもれ」
佐久夜の予想を肯定したスセリビメは、真上を向いたまま上を向く神さまに催促をした。
「うむ……。もう、少し…だ…け」
神さまの声は、震えて上擦っている。いつも通りに話すことができないのは、神さまも大泣きしそうな状態を堪えているからだ。
「神さま、俺たちにも教えてよ」
佐久夜も目にいっぱい涙を浮かべながら、神さまに催促をした。
ハァ、ハァと大きく深呼吸をして、神さまは、息を整えようとする。
「我…が、涙…を見せて…も 変に…おも…わぬ…か?」
鼻を啜りながら、神さまは、佐久夜に確認をした。
「思わないよ」
身体を小さく震わせながら、神さまは正面を向いた。
青銅鏡を高々と掲げ、神さまは大きな声で、宣言をする。
「我、今しがた『迦具夜』の名を授かった」
涙声ではあるが、神さまの凛とした声が舞台から社全体に響きわたる。
「おおー!おおー!」
鴉天狗たちも歓声を上げ、喜び讃える。
佐久夜、朧、スセリビメを順番に見て、壇上から鴉天狗たちの大歓声を受け止めた後、神さまは、青銅鏡を改めて見つめ、愛おしそうに抱きしめた。
「迦具夜様。素敵な名前だね」
何度も何度もコクコクと頷く神さまは、お面の下から涙がポタポタと落ちていた。
パリン
「あ!」
「にゃにゃ!!」
「うわぁ!」
「おおー!!」
皆の視線が、神さまに集まった。
神さまの両脇には、真っ二つに割れた神さまの面が落ちていた。
「神さま、お面が……」
初めて見る神さまの顔。佐久夜を始め、皆が息をのんだ。
丸く整えられた眉、真っ直ぐに筋の通った形の良い鼻、意外にも切長の涼しげな瞳。
「兄さま…お久しゅうございます」
スセリビメは、その場に座り込むと、頭を下げてお辞儀をした。
「うむ、この姿で会うのは幾千年振りかの?」
そう答えると同時に、神さまの身体が徐々に大きくなっていった。
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