93 完成した青銅鏡
心地良く手拍子と鈴の音が、佐久夜の歩調と合わさった。
桜舞い散る参道を一歩一歩踏み締めて歩く。舞台の上では、満面の笑顔を見せている朧の横に神さまがちょこんと立っている。
「神さまのお面もヒビだらけだ」
最初は、一つの亀裂だったが、浄化を繰り返すたびに小さな亀裂が細々と入っている。
舞台の階段を上がって、佐久夜は神さま前に立つと、ゆっくり膝を折って傅いた。
三宝の上には、熨斗紙が被せられた桐箱が置いてある。熨斗紙には、奉納と書かれ、その文字の下には肉球のスタンプが押してある。
「うむ、この肉球は、朧じゃな」
熨斗紙を捲ると寿の文字が、桐箱に焼き付けられていた。
「その焼印は、朱丸さ。それで、桐箱は、浅葱の作品だ」
神さまは、そっと桐箱の蓋を開け、中身を確認した。
「そして、これが佐久夜が仕上げた鏡なのじゃな」
「我らの神へ、捧げます。どうぞ、お納めください」
佐久夜は、目を伏せて胸に手を当てて言った。
「うむ、ありがたく受け取らせていただくぞ」
神さまは、青銅鏡に両手を添えて持ち上げた。神さまのお面とよく似た招き猫の形をした青銅鏡に、ほうっと息を飲んだ。
「最初は、朧の顔にしようかと考えたんだけど、朧だけの神様じゃないしさ。やっぱり、俺たち全員からの贈り物として、受け取って欲しかったんだ」
佐久夜は、顔を上げて神さまを真っ直ぐに見つめた。じっくりと青銅鏡の裏面を見て、そっと指先でなぞっていく。耳、目、鼻、しっかりと髭まで再現されている。
「……我だけの鏡」
佐久夜は、神さまの様子を見守る。スセリビメも朧も京平も鴉天狗たちも、社の屋根の上からは、浅葱と朱丸も顔を覗かせた。
いつしか、巫女たちが鳴らす鈴の音も止んでいた。
皆が舞台を見守る中、神さまはそっと鏡面にひっくり返す。しっかりと磨かれた青銅鏡に神さまの顔が写り込んだ。
佐久夜は、正面でゴクリと唾を飲んで様子を見ている。手のひらがしっとりと濡れているのは、緊張しているせいだろうか。
「おっ」
神さまが、小さく呟く。そして鏡を持ったまま、神さまは真上を向いたまま小さく震えていた。
真横に座っていた朧が、神さまの手に持っている鏡を覗き込んだ。
「にゃ!!」
朧も短い声を発し、全身を震わせた後真上を向いた。朧の目尻からポタポタと涙が、溢れていた。
真上を向いて固まったままの二人の姿に、真っ先に痺れを切らしたのはスセリビメだった。
「なんじゃ?兄さま、朧、どうしたのじゃ?佐久夜が、心配そうに見ているぞ?」
スセリビメは、席を立つと二人の側に近づいてきて、神さまの手に持つ鏡を覗き込んだ。
「あぁ!」
唇を両手で抑えるなり、スセリビメはぽろぽろと綺麗な涙を流し始めた。
ざわざわと鴉天狗たちの騒めきが聞こえる中、神さまはゆっくりと鏡面を佐久夜の方へ向けた。
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